1 再会
ルークから連絡が届いた。
永世中立衛星ロペにルーク傭兵隊長が来ている。
そういえば、ルークはもう退職してしまったから、「傭兵隊長」ではない。
アレン・シーモア少佐が捕虜交換の要請をしてきたとき、一度は「アース」に戻ろうと思った。ルークも「アース」にいたから。でも、大将はルークも「ビッグマザー」によんでもいいといったのだ。そして、ルークと連絡をとれるように取り計らってくれた。
「大将! ルークが到着している。迎えに行ってもいい? 乗船させてもいい?」
私がブリッジへ行くと、大将とカーラ艦長も来ていた。
「迎えに行ってもいいけれど、彼には身体検査と、面接を受けてもらう。それで不合格なら乗船は拒否するからな」
カーラ艦長がいった。
もっともな話だ。
私はうなずいた。
「じゃ、行ってきまーす!」
衛星ロペに降りるのも初めてでワクワクするし、ルークにやっと会える。
「ミア、気を付けていけよ。一応、これ持って行け。ここ(ビッグマザー)と連絡が取れる。それからお小遣いやるよ。ロペの通貨だ。アイスクリームでも買い食いしてこい」
大将が小銭と、小さな端末をくれた。
「大将、ありがとう!」
私は駆け出していた。
あいすくりーむってなんだろう。
ルークから連絡のあった場所は、すぐ近くの小さな公園だった。
「ルーク!!」
公園に佇んでいたルークは私を見つけると、大きく手を広げた。
「ミア!」
ルークの少し痩せたその胸の中に飛び込む。
私は反対に血色も良く、少なくとも3キロは太った。
ルークにきつく抱きしめられながら、ルークの鼓動を聞いていた。
ことことことこと。
安心な音がした。
私が生きている間にこの音が止まりませんように。
極めて身勝手なお願いを神様にする。
ことことことこと。
簡単な衝撃で、一瞬の判断ミスで、それは、止まる。
それをいつもみてきた。
「ミア、元気そうだな」
私は顔を上げて、ルークを覗き込んだ。
「・・・ルークは痩せたね。何か、おいしいもの食べに行こう。大将がお小遣いくれた」
ルークは驚いた顔をした。
「ミアから何か食べようと言い出すなんて、珍しいな。よかったよ。前より、健康そうだ」
「うん。とっても元気だよ」
私がそういうと、ルークは泣きそうな顔で笑った。
私を抱きしめたまま動かない。
目をとじてもう一度ルークの胸に顔をうずめる。
ルークの匂い。ルークは変わらない。
「おいしいもの! 食べに行こう!」
私はルークとしっかり手をつなぐと、歩き出した。
自分はずっと、食べ物に興味がないと思っていた。でも、案外食いしん坊だということが、「ビッグマザー」に乗船してからわかった。動くためのエネルギー源でしかなかったそれは、今や私の最大の関心事の一つだ。
屋台が並んでいて、その一つ一つにおいしいものが並んでいて、その一つ一つから別々のおいしい匂いが流れてくる。
幸せだ。
たぶん、生まれてから一番。
ルークの手をぎゅっと握って、ルークを見あげる。
ルークも私をみて微笑んだ。
「これ何だろう? 爽やかな匂いの黄色い楕円形の果物。オラウータンにお土産に買っていこう」
山積みにされた果物の一つを手にとる。
私達は市が出ている一角に来ていた。
「オラウータン?」
「うん。私の友達。果物が好きなの。あれ、なんだろう?」
丸いものが鉄板の上に並んでいる。
良い匂い。香ばしい、何とも形容できない匂いだ。
「たこやき、という食べ物だろう」
ルークは物知りだ。
「たこやき?」
「ああ。一昔前、開拓惑星オオサカからきたオカンとかいう人が広めた食べ物だ。食べてみようか」
それは未知の味がした。
「とても良い味だと思う」
「そうだな」
たこやきを頬張る私をルークは幸福そうにみている。
すごく、おいしい。
「そういえば、ルーク面接受けるんだって。あと、健康診断も。でも、ルークなら大丈夫よ」
私はたこやきを食べながらいう。ルークなら大丈夫にきまっている。
「どうかな。傭兵とはいえ、プーランクの軍事に長く関わってきたからな。スパイだと疑われたらアウトだな」
私は女艦長カーラを思い浮かべる。
私は面接を受けていない。
私が気を失っている間に、艦長や大将達で受け入れを決めたらしい。
女艦長のカーラはいつも冷静だ。でも、カーラが酒を飲む姿はヤケ酒を煽っているようにしかみえないし、余裕のある微笑みも何故か地獄の底から這いあがってきたような凄みを感じる。
ルークと手をつないで、「ビッグマザー」に戻る。本当に大きな宇宙船だ。この中に住んでいる人のほんの一握りとしか会っていない。「ビッグマザー」に乗船しているときも、こうして降りたときも全貌が見えない。
スカイタワーからエレベーターに乗り、そこから宇宙船に接続される。
エレベーターに乗る前にふいにルークに柱の陰にひっぱりこまれた。
「何?」
「ミア、会いたかった」
ぎゅっともう一度、ルークに抱きしめられた。