8 小鳥ちゃん
「小鳥ちゃん、体重も少し増えたし、顔色もよくなってきたね」
嬉しそうな顔でベッドサイドに腰かけたシンがいう。
私は首をかしげた。
「小鳥ちゃん?」
「デザートイーグルってあだ名、嫌いみたいだから。イーグルが嫌なら、小鳥ちゃん。ドラッグ無しじゃ飛べない小鳥ちゃん」
ニコニコしながら、悪びれない様子で言うシン。
小鳥ちゃん。
何だか可愛い名前。
「もしかして、デザートイーグルって鳥の名前だと思ってるの?」
私がいうと、シンはきょとんとした顔をした。
「・・・違うの?」
そういうシンの表情はちょっと子供っぽくて、可愛い。
「デザートイーグルって、銃の名前よ。昔の銃の名前」
私が説明するとシンはふむふむ、と頷いた。
「そっか。鳥の名前じゃなかったのか。てっきり鳥の名前だと思っていたよ」
シンはなんだか変わっている。
若そうにみえるけど白衣が妙に板についている。
それなのにお医者らしい威圧感が無く、飄々としていて。
「シンって何だか不思議な人ね」
私が思わずいうと、シンは頷いた。
「僕、ときどき自分のこと、ヒトじゃないかも、って思うんだ。一生懸命ヒトのフリをしているおサルなんじゃないのかなってね」
シンは真面目な顔をしていう。
「昔ね、研究所に勤めていたんだ。開発中の新薬の試験を委託されていた所。サルをいっぱい飼っていてね。サルにいっぱいいろんな薬を投与して、データをとるの。だから、サルのドラッグ患者はいっぱいみてきた。」
(注:この話はフィクションであり、実際の新薬開発、治験等とはいっさい関係ありません)
「シンは動物のお医者だったの?」
「資格としては、ヒト用のお医者だよ。人間を癒せば誰だってみんな人間のお医者だよ。サルを癒せばサルのお医者。癒さなければ、医者じゃない。戦闘薬もいっぱい試験したよ。血管が固くぼろぼろになって、みんな早く死んだ。毎日毎日サルが死んだよ。僕はその数を調査して報告していた」
「・・・」
「小鳥ちゃんも、僕も、サルもみんな一緒だよ。小鳥ちゃんが死んじゃうと僕は悲しい」
私はうつむいた。
「小鳥ちゃんが元気になってきたから、僕は嬉しい」
シンはニッコリと笑った。
「飛べないなら、ここにいればいいよ。N209だって、エッチできないけど、ここにいるよ。僕も研究所からサルと一緒に逃げ出してここにいる」
そか。私はサルといっしょか。
なんだかちょっと、おかしかった。それからちょっと、うれしかった。




