表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/61

5 ウイルス感染

セクサロイドのN209は淡々と仕事をこなしていたが、調子が悪いのか、時々立ち止まっている。


「エヌ、大丈夫? 休んだ方がいいんじゃないの? シンにみてもらう?」


N209は首を横に振った。

「シンには見てもらった。でも、いかれているのはボディの方じゃない。たぶん、ウイルス感染してる。今度、マッド博士が乗船したときに、私を初期化することになっている」


マッド博士というのは、アンドロイドやサイボーグの治療や研究を専門にしている技術者で、コロニーや船を定期的に渡り歩いている人らしい。私は会ったことがないからしらないが、次に停泊予定の衛星ロペで乗船してくるそうだ。


「初期化?」

「そう」

「どうなるの?」

「ミアと会った記憶、消える」


N209は無表情にいう。

「たくさんの記憶消えて、初期化される。記憶のバックアップをとって、スキャンして戻すこともできる。でも、危険だからやめた方がいいらしい。だから、初期化する。」

私はN209の無表情な顔をみつめていた。

「何度もやり直し。先に進めない」

そうつぶやくN209の背に両手をまわし、そっと抱きしめた。





「大将、どうする?」


いきなり後ろから呼びかけられた。

角刈りの体格のいい男、『アンタの方が大将』の登場だ。


「戦闘機かミア、どちらかを「アース」に引き渡すことになる。アレン・シーモア少佐はミアを返せ、といってきているがね」


戦闘機か私。


「私はここに残っても戦えないし、戦闘機にも乗れない。ドラッグ無しじゃ、恐ろしくて宇宙に出られない。ドラッグをもらえなきゃ、戦えない」

私がそういうと、アンタが大将は頷いた。


「それはシンから聞いている。だが、それは関係ない。戦えなくてもいい」


ここの船の人々は不思議だ。

「戦闘機」と「戦えない私」なら戦闘機の方が価値があるにきまっている。

それを捕虜である私に選択をまかせるなんて。


「「アース」には大切な人が乗っているの。その人を置いていけない。だから・・・私が戻る」


ルークの事を考える。きっと、すごく心配している。


「いいんだな? シンはあの船に戻ればお前は死ぬといっていたぞ。お前にドラッグを渡して飛ばせている少佐なんて、俺にいわせれば、ロクな男じゃないと思うがな」


『アンタの方が大将』はよく見れば、人のよさそうなオヤジだった。少し心配そうに私をみおろしている。


「少佐は・・・関係ない。」

私はいった。


少佐は・・・。

あの夜を思い出してみる。

気が狂いそうな程、怖かった。

いや、半分おかしくなっていたから、すがった。

それは、単に少佐がそこにいたからであり、ドラッグのかわりにすぎないはずだ。

でも、「アース」に戻ってドラッグが手に入ったとして、少佐の温もりをなかったことにできるのだろうか。もし、抱きしめられれば簡単に落ちていきそうだった。少佐の温もりは恐怖を忘れさせてくれた。力強い鼓動につつまれると安心した。ミア。呼び声を思い出すだけで、泣きたくなる。・・・何なの?



「アース」に戻ったところで、その境遇は前より更に悪化しているだろう。


それでも、ルーク傭兵隊長を置いていくことはできない。


故郷にいた頃、戦闘機に乗る訓練をしていた。

ルークは技術指導の教官で、私は出来の良い生徒だった。

教官と生徒となる以前に、すぐ近所に住んでいたので、少し年の離れた幼馴染のようなものだった。

コロニーからだいぶ離れた宇宙空間で訓練をしていたとき、コロニーが爆発した。

それ以来、私達は帰る場所がなくなり、ずっと一緒に宇宙をさまよって―あちこちの空母を傭兵として渡り歩いて―いる。


ルーク傭兵隊長が私を誰よりも大切にしているのは知っている。

かけがえのないもの。

ルークの記憶であり、失った故郷であり、半身であるもの。


それは私にとっても全く同じだ。

ただ、私には記憶も故郷もルークほど大切にできないだけだ。

今、ここに生存するだけで、せいいっぱいで。

それでも、私の一部はルークのために存在するし、ルークに生かされている。



「大切な人、というのは、少佐ではないのか?」

角刈りの『アンタの方が大将』の言葉に私はゆっくり頷いた。


『アンタの方が大将』は暫く考えこんでいた。



「ミア、ここにいてほしい」


無表情な声がした。

N209。


「私が初期化されるまで、そばにいてほしい。そして、最初に会ってほしい」


N209は無表情なまま、そういった。

大丈夫、ヒトはみんな怖がりだ。

そういったN209。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ