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1 広所恐怖症

狭い所がダメ、という人がいるけれど、私は逆だ。

広い宇宙が、無限の空間が怖い。


昔、訓練中に誤って宇宙船から放り出されたことがある。

はずみがつくと、あっという間に宇宙船から離れ、一直線に遠ざかってしまう。

三日三晩広大な宇宙を独りでさまよい、無限の孤独を味わった。

奇跡的に他の訓練中の船のレーダーに映り、指導員が連れ戻してくれて事なきを得たが、その時の恐怖は今でもハッキリ残っている。


私の髪が白髪なのも、その名残だ。

綺麗だった黒髪はその時の恐怖のせいか、それともその時使用した薬の副作用なのか、それ以来真っ白になってしまった。そして、戦闘機乗りの傭兵となった今でさえ、宇宙に出るときは恐怖を忘れるための戦闘薬ドラッグが手放せない。


簡単なミッションを終え、母船に戻る。

母船に客船を迎えるための護衛だが、特に何も起こらなかった。

こんな簡単なミッションにも戦闘薬を使用している私は、完全なジャンキー(薬物中毒)だ。


戦闘薬ドラッグはいろいろあるが、恐怖を沈め、集中力を増す薬がある。

人体への負担が重いため、非常時以外は使用しないことになっている。

私は戦闘機乗りの傭兵としてはかなり優秀なので、必ずといっていいほど前線に出なきゃならない。この戦闘機が小型で、嫌でも宇宙の広さを感じさせるのだ。母船に乗っているときはなんともないのに、戦闘機のような小さな船で宇宙へ出るときは怖くなって戦闘薬ドラッグに頼ってしまう。止めなきゃ、と思っても戦闘薬ドラッグを使ってしまう。薬のことは本部も大目にみてくれている。半年に一度の定期検診で、薬物検査の基準値さえクリアすれば、OKということらしい。本当は傭兵の体なんか、どうでもいいのだ。役にさえ立てば。



私は鼻歌を歌いながら、娯楽ルームへ向かう。

まだ戦闘薬が抜けきらなくて、少々ハイになっている。

五千人が長期滞在できる、というこの宇宙船「アース」は軍事大国プーランクの戦闘用空母だ。艦全体が重力補正されていて、戦闘用空母のわりにはいろいろな施設が充実している。一見、豪華客船かと思うほど。娯楽ルームでさえ、一般人と階級のある正規職員とは別ルームになっている。


私は傭兵なので一般用娯楽ルームを使用している。

セルフでオレンジジュースをつぎ、個人用モニターの前を陣取る。

狭い個人部屋にもモニターはついているが、娯楽ルームの方が大きい。

私はものすごく古いアニメ「トムとジェリイ」を選択する。

私はこのアニメが大好きだ。

猫のトムとネズミのジェリイが追っかけっこをするだけの単純なアニメ。

夢中でアニメを見ていると、不意に映像が消えた。

何事か、と周りを見ると、真後ろに立っていた男が勝手にモニターをOFFにしていた。



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