吸血鬼とサーヴァイト
第一章
<吸血鬼>
公園で一人ベンチに座っていた少年はふと巨大スクリーンに映りだされた最新ニュースに舌を打ちました
{またもや吸血鬼が吸血強奪!襲われた女性に残酷な悲劇!}
飲んでいた強化合成プラスチック製の堅いコップを片手で握りつぶし、ゴミ箱に叩きつけました。
凹むところか穴が開いた自動再利用ゴミ箱に目もくれず少年は立ち上がります。
ふと右手首に着けている身分証明兼ね人種別カラーのオレンジを見ながら忌々しく呟いた
「なにが吸血鬼だ」
科学も文化も発達した高度な文明の中。
人間一人一人が身分証明書の電子カードを持ち歩き、一昔には交通事故という言葉があったが今はない。
全てがネット経由の高度なシステム制御されているため衝突はありえない
車に限らず建物も店舗も自動販売機から、レジまでネットを経由して全て繋がっています
環境重視に配備されたこの中央第一区は特に他の区より全ての面で進んでいます。
ハイテクな街並みの中にも木々は街路樹として存在し、文化保護の中枢である区でもあるため博物館や美術館が数多くあり
特にこの歴史博物館は普段から大勢の人で溢れています。
手首や首から下げる小さなカードは緑色です。中にはオレンジ色もありますが、人ごみの中でもそれは少し浮いているようです。
「聖花小学校のみなさん、ちゃんとついてきていますか?次はいよいよ皆さんがお待ちかねの歴史博物館ですよ」
30名ほどの児童を連れて博物館に入る女性は担任らしく、入口にある十字架に打ちつけられたミイラ
の前で止まった。教師と生徒全員は緑のカラーのバンドを着けています。
「今日は人類の歴史をここで学びます。皆さんの前にあるのは何かな?」
「はい、それは人類の敵です」
元気よく男の子が答えます
「そうです。これが約1700年前に人類を苦しめた敵の」
「吸血鬼!小桃先生、吸血鬼でしょ」
今度は女の子が答えました。先生は少し苦笑いをしながら
「吸血鬼は差別語なのよ?サーヴァイトといいましょうね」
それでは入りますよと小桃先生は生徒を引率していく。
博物館の中には十字架や折れ曲がった杭、棺からミイラまで展示してあり
案内係らしき男性が児童の前に立った。
「今日は皆さんの歴史を教えます黒田です、こんにちは」
「すみません、吸血鬼ってさべつようごになるの?」
「元気がいいね少年。そうだよ、みんながよくテレビでみる血を吸う人間は昔は吸血鬼って呼んでいたんだ。今はサーヴァイト種と法律で決められている。みんなと同じ人間だからね」
そして黒田さんはサーヴァイトについて児童に話し始めました。
昔々、人類の祖先と吸血鬼と呼ばれていたサーヴァイトの祖先は争っていた時代があったこと
日光を浴びると灰になった昔の古代種と違って、今のサーヴァイトは日光に当たっても死なない事
「じゃあ吸血鬼は昔人類と戦っていた古代種をいうのですか?」
「そうだよ。サーヴァイト種の人は年月をかけて少しずつ能力が薄まり、また人類と結婚していって血が薄まったんだ」
だからサーヴァイト種は日光も平気だし、吸血衝動が薄まって再生能力も落ちたと言われている。
古代種にあった翼や鋭い爪は彼らにはない。
人より優れた再生能力も落ちつつあるらしい
彼らの中には古代種、吸血鬼を崇拝する者が数多くいて伝説上になった今も信仰している。
「え~でも今も古代種を維持してこっそり隠れているんじゃないの?」
「それはこのミイラを見てみよう」
黒田は手を軽くかざすと児童の前に光スクリーンが現れた
スクリーンには木の杭で打ち抜かれたミイラが映っている
「このミイラは最後の吸血鬼といわれている。ほら翼があるのがわかるかな」
「わ、コウモリの羽がある!」少年は興奮しています
「ミイラでも翼は残るんだ、だけど文献では鳥のような羽毛の翼が描かれていてこれとは違うね。
政府の発表ではこの一体が最後とされています」
児童たちはどのミイラよりも恐ろしい最後の一体のミイラの画像に言い知れぬ恐怖を感じました。
「怖い!」
「ここにあるミイラより歯があんなに鋭いや」
「先生、サーヴァイトの人たちと俺たちは見分けがつかないよ」
こほん、と先生は自信のある顔つきで答えます。
「え~では皆さん、手首に着けている緑のバンドを見て頂戴。みんな緑色よね?オレンジの色がサーヴァイト種で、私たち一般人は緑色なのよ」
個人識別データーと搭載したハイテクバンドは二種類の色があります。
緑色が人間、オレンジがサーヴァイト種を表わしていて、このバンドを着けていないと
何処の施設にも入れません。
「最近のニュースを見た子はいるわね?サーヴァイト種は吸血をあまりしなくなったというけど吸血事件を起こしているのは変わらないわ。だからみんなもオレンジのバンドをした人は気をつけましょう」
「はーい」