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10年ぶりに再会した初恋の人は、血をすすれないポンコツ吸血鬼でした ~血を吸ったらむせるって言われたら首を差し出すしかない!~

作者: 猫石
掲載日:2026/08/10

猫石の~! 息抜きSS! です!

すみません、短編にしていなかったので上げ直しました!


頭の緊張やめんどくさいこと、ややこしいことを考えずにお読みください。

面白かったよ! って言っていただけたら!長編化したい!(笑)

 上目遣いに、上気した頬、うっすらと開いた唇からは蕩けるほどに熱のこもった吐息が漏れている。


 二人の間には汗で少し下着の透ける校章の縫い付けられたシャツしかない。


 そっと、柔らかで暖かな手が、少年の太ももの上に添えられ、僅かに体重がかかった。


「本当に……いいの?」


 いまにも重なり合いそうな唇から漏れた言葉に、けれどこれからは背徳の罪を味わう僕たちは一緒に生唾を飲み込んだ。


 光が透けるような淡い栗色の髪の向こうで潤む大きなブルーグレーの瞳が、僕の姿を映している。


 同じように上気した頬、熱がこもる眼差しに、薄くあいた唇。


 あぁ、そうだ。瞳に映る僕も彼女に恋をしているのだ。


「……いいよ」


 吐息のように吐き出す言葉で、僕たちは変わらない意思を確認した。


「ありがとう」


 なんの礼だろう、お互いに幸せなのに。


 けれどその許しの言葉はお互いを強く意識させる。


 僕は、震える手で彼女の細い腰に腕を回してそっと抱き寄せた。


 その動きに合わせて、彼女は腰を少し浮かせ、そうして僕に重なり合うように彼女の顔が近づいてきて……


 お互いの吐息が混ざり合うような距離が、少しだけもどかしく感じながら、僕は彼女の後頭部にそっと手を伸ばし、柔らかな髪を撫でながら顔を近づけて……


 この瞬間。彼女の柔らかい唇が僕に触れた。


 歯が当たる小さな痛みと共にゾクゾクと体中にもどかしいくらいの熱がこもった痺れが走る。


(あぁ……)


 その甘さに僕が彼女を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた時、だった。






「ズッ……ゲホッ! ゲッホ! ゴホッ、ウ、ウプ……ッ!」







「……え゛⁉」


 目を開けると、紗良は僕の肩に額を押し当てたまま、激しくむせ返っていた。


 まるで白百合のように美しい顔を真っ赤にして、涙目で喉をカハカハと鳴らしている。


「紗良! 大丈夫か!?」


 ソファに預けていた体を起こし、慌てて抱きしめていた手で背中をさする。


「ゴホッ……! む、胸が、苦し……。 空気が、一緒に、入って……っ ……ゲホゲホッ!」


 涙ながらにそういう彼女の言葉に、僕は首をひねった。


「……空気? え? 吸血ってむせるものなの⁉」


 慌てて、けれど彼女の返答に一瞬冷静になってしまった僕。


 一方紗良は僕の肩に額を押し当てて咳を続け、ひたすらに咳き込み続けてようやく落ち着いたころに頭の位置を胸の方にずらすと、僕のシャツを涙で濡らしながら小さな声でつぶやいた。


「ち、違うの……。あのね? 私、旧家で生まれ育ったでしょう? だからね、ちっちゃいころから食事の時に『音を立てて物をすすってはいけません』っておばあさまに厳しくしつけられて育ったの……」


「あぁ、そう言えばそうだね」


 あぁ確かに、と僕は思い出しながら頷いた。


 紗良の家は古くから代々伝わる旧家のお嬢様で、幼少期にはお昼ご飯を紗良の家でごちそうになったのこともあるのだが、食事のマナーがなっていないと二人一緒にお叱りと特訓を受けた記憶がある。


 だけど……。


「……でも、それとこれとは違うのでは?」


「ちがうの、食べ物をすすっちゃダメって言われて育ったでしょう? だから私、ラーメンやお蕎麦もすすれないの……っ」


「ふぅ~ん……まぁ、お嬢様だからそういう事も……え? ま、まさか、紗良」


 僕は紗良の言葉からはじき出した答えを口にした。


「もしかして、そのせいで血もすすれないの⁉ 吸血鬼なのに⁉」


 吃驚して声を上げた僕の顔を、彼女は責めるような上目遣いで睨みつけた。






 彼女・霜雪月紗良と僕・鳥海湊は幼馴染だ。


 僕の父は転勤族で、13年前に一度、紗良が住むこの町に引っ越してきた。


 紗良と僕の両親は互いに共通の友人同士だったという事で、2歳のから6歳で小学校に上がる前まで四年間、僕たちは常にいつも一緒にいた。


 お日様にあたると金色に見える髪と青に見える瞳の紗良はその当時から誰よりも可愛くて――僕の初恋の人だった。


 それが一緒であるとわかった日、僕は奮起して彼女にプロポーズをした。


 暑い夏の夜、花火の揚がる神社の境内で。


 露店で買ったさらに良く似合う綺麗なピンクのガラス玉の指輪を渡すと、紗良は湊くんのお嫁さんになる! と抱き着いて喜んでくれた。


 それから、焦げた匂いを残して消える花火の音を聞きながらの初めてのキスをした。


 将来を誓い合った僕たちは、さらに仲良しになり、ずっと一緒にいた。


 だが6歳で父の再度の転勤で僕たちは離れ離れになった。


 紗良と僕は絶対に離れたくないと両家を巻き込んで大騒ぎをし、その晩に申し合わせて家出までしたのだが、結局あらかじめ見回りをしていた紗良の家の使用人のおじさんに見つかってしまい、互いの両親とおまわりさんに叱られた翌日には離れ離れになってしまった。


 たかが子どもの頃の話。


 だけど僕は、彼女がずっと忘れられなかった。


 けれど、探しに行くほどの気概もなかったのが事実だ。


 大好きな紗良。だけど会いに行っても仕方がない。きっと学校に入って、いろんな人に会って、ほんとうにとびぬけて可愛かった紗良は、きっといい男を捕まえているだろうと決めつけ、何も動かなかったのだ。


(僕の上げた指輪、どうなったかな……きっと、捨てられているだろうな)


 そんなことを考えながら、僕の性へk……じゃない。完璧な初恋の人のまま心に住み着いた紗良。


 そんな僕の目の前に現れたのは今朝の事。


 ゲームのし過ぎで遅刻し、叱られるのを覚悟で寝癖がついたままの頭で入った教室の檀上。


 始まっていたホームルームの主役的転校生として紗良は立っていたのだ。


 久しぶりにあった紗良は、モデルか女優かと思うくらい綺麗になっていて、さらに午前中の授業の様子だけで文武両道だとわかるほど完璧だった。


 住む世界が変わったんだと、その時僕は思った。


 皆に囲まれて、楽しそうに話をして。そんな紗良を遠くから友人たちと隠れるようにして見ているだけの僕。幼いころとはいえ将来を誓った相手があまりにも遠く感じたまま学校は下校時刻を迎えた。


 イロンな奴に囲まれる紗良と、一人帰路についていた僕。


『湊くん! まって! いかないで……』


 むなしくて悲しくてとぼとぼ歩いていた僕を、けれど紗良は追いかけて来てくれた。


 項垂れて歩く僕の背中に飛びつき、泣きながらそう言われたときは正直、本当に驚いた。


 そして聞いた。紗良は僕のことを探し、転校してきたのだという事を。


 そんな彼女の細く白い小指には、あの日渡した指輪があった。


 勇気がなくて、勝手に完結させてしまったことを謝た僕に、紗良はそんなことはどうでもいい、どれよりも大事な話があるといい、そのまま僕の家にやってきた。


 なぜか家にいた両親は、おやつやらジュースやらをたくさん用意しながら僕たちを部屋に追いやった、訳だが……そこで、僕は紗良から衝撃の事実を聞かされた。


 この日本にはそう言った妖怪の末裔が結構いて、紗良の家は、純粋な吸血鬼の一族の末裔であること。


 紗良はその一族の次期当主であること。


 あの花火の下でキスをした日に、本当は引き離される運命であった僕たちの結婚が認められたこと。


 紗良は吸血鬼としていまだ未成熟であり、吸血鬼として成長するためにも僕の血が欲しいという事を、だ。


 そして、先ほどに戻る、訳である。






「吸血鬼って血を吸うアイデンティティが世界の共通認識なんだから、練習しなくても吸血できるんじゃないの?」


 空になったティッシュの箱を交換した僕に、紗良はきゅっと眉を寄せる。


「麺類もすすったことがないし、いつもストローやコップで飲んだり食べたりしているから、傷口から直接吸引する筋肉が、退化しちゃったの! これも個性なの!」


「えぇ……血の吸えない吸血鬼の個性って……」


「……湊くんが馬鹿にしたぁ」


 僕の胸に顔を埋めて再び泣き出した紗良を慌てて宥める。


「ご、ごめん! 馬鹿にしたつもりじゃなくって! けど、これでむせるんならいつもはどうやって血を飲んでるの? いやその前に、昔は一緒に飯食ってただろ? 飯が食えるんなら吸血の必要ないんじゃ……?」


「確かにご飯は食べるわ。けれどそれとこれとは話が別なの! 体が成熟しないの! 吸血する行為は、……その……種の存続のために必要なの……」


 種の存続のために必要な行為って、生殖行為以外何ぞや? と思いつつ、僕の腕の中ですんすんと鼻をすする紗良の背中を撫で、鼻をかませ、菓子とジュースを与える。


「じゃあ、もともと吸えないんだ……いつ気付いたの? 血液補給はどうしてるの?」


「吸えないのを知ったのは5歳のときよ……ママから吸血鬼として生きるためにって使い魔で吸血の方法を習ったときに同じようにむせちゃって、それがすごく苦しくて……何度やってもダメで。でも成長のために血液は必要だから……それ以来はこれを飲んでいるわ……」


 僕から離れ、鞄の中から取り出したのは医療用の『献血パック』と金属製のピンクのストロー。


「おうちにこれが用意されているから、これを飲んでいたの……でも湊くんの顔をみたらどうしても血を直接飲んでみたくなって……それに、さっき吸血鬼だって話もしたとき、湊くん『え? あの⁉ 映画とかで見る⁉ 首からウヲー! って血を吸うあれ⁉』って言ってたから、やっぱりそう言うイメージなんだなって思って……ちょっと格好つけたかったの……。吸えないのに噛みついちゃってごめんなさい……」


 僕の目の前で項垂れる紗良は、細くてか弱くて小さくて……昔のままの可愛い紗良で。


 そんな紗良を泣かせてしまったことにひどく罪悪感を感じ、僕は首にあてていたティッシュを取り止血を確認してから声をかける。 


「大丈夫だよ? ほら、もう血も止まったし! そんなに痛くはなかったよ?」


「ほ、本当に?」


「ほんとほんと」


「じゃあ、吸えるようになるまで湊くんで練習してもいい? 私、湊くんの味を知ってしまったからもう他の血液は飲めないし、飲みたくない……」


「え? それはいいけど……っていうか紗良がむせるくらいなら、病院に行って献血するけど……? ほら、そうやって輸血パックを持ち歩くくらいなら、そう言う場所が専門であるってことだよね?」


「だめ!」


 そう提案すると、至極真剣な顔で紗良が首を振る。


「そんな危ないところに湊くんを連れていけないわ! それに、輸血パックの血液と直飲みだと天と地の差があるわ!」


「え? そんな危ないところなの? っていうか、今、天と地の差があるって言った? 味なの?」


「……内緒……」


 意味ありげに顔をそむけた紗良の顔を覗き込めば、彼女はさらに両手で顔を覆ってしまった。


(内緒って何だ、内緒って。そもそも輸血パックと味が変わるのか? 直飲みの方がうまいって試したのか? あ、いまか?? けど、ストローなら吸えるのに、直接だと圧が作れなくてむせるって……吸血が出来ない吸血鬼って、割と真剣にポンコツなのでは?)


 口には言えない素直な感想は、目の前でいまだに目元を真っ赤にして鼻をすすっている紗良を見てしまえば、あまりの可愛さに僕の理性も常識の吹き飛んで行ってしまった。


「よし、わかった」


「え? なにが?」


 顔を上げ、大きく潤んだ瞳で見上げてくる紗良にキュンキュンして胸を撃ち抜かれてSAN値が底辺まで削られるのを感じながら僕は笑って提案した。


「紗良。僕と一緒に『吸血(すする)』特訓をしよう」


「とっくん……?」


「そう、紗良がちゃんと直飲みできるようになる特訓! 僕にはいくら噛みみついてくれてもいいから」


「いいの?」


「いいよ、いくらでも。こうして僕のこと探してくれてたわけだだから僕も応えたい。……ただ……」


「ただ?」


 キラキラした目で僕を見るさらに、先ほどもやもやした気持ちをぶつけてみる。


「そ、その……僕以外の奴のは……直飲みしないでほしい……」


 混ざりあうようだったあたたかな吐息、足にかかった紗良の重みとぬくもり、それから歯が当たった時の感覚……。


 そんなことを、他の男にするなんて本当に考えられない!


「僕の、紗良だから……紗良から会いに来させちゃうまで何もしなかったヘタレだけど……」


 僕の言葉に大きく目を見開いた紗良は、そのまま僕に手を伸ばし抱き着いた。


「紗良も、湊くんだけがいい……っ!」


 こうして、頭脳明晰文武両道、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花のような美しくも愛らしい吸血鬼・紗良と、初恋をこじらせていじけてるだけだったごくごく平凡な僕の、奇妙な吸血訓練が始まったのである。










 ――半年後。


「湊くん! 私、お昼におそばが食べられたの!」


「うん、知ってるよ? (だってその場に僕もいたし……そのソバも二口目でむせてたけどね……)」


「だから……リベンジしても、いい?」


 それまでの勢いはどこに行ったのか、急に頬を染めるとソファに座っていた僕の傍におずおずと近寄ってくる紗良。


「いいよ」


 僕は読んでいた本を置くと、両手を開いて紗良を膝の上に招く。


 首筋に近づいてくる温かい呼吸。


 背中に手を添えると、いつもみたいにガチガチに緊張している。


(吸血チャレンジもすでに三十回を超えてるのに……相変わらず可愛いなぁ)


 おずおずと、唇が首筋にあたる。


 ひやりとした牙が皮膚を突き破る。


 僕と紗良、二人の鼓動が溶け合うように高鳴る。



 しかし――。



「ズ、ズズ……ッ……ゴフッ!」


 大きく咽込んだ拍子に牙が深く突き刺さってから抜ける感触に、僕はティッシュを抜き取りながら紗良の背中を撫でる。


「大丈夫? 紗良」


「……ゲホゲホ……」


「うんうん、ゆっくり練習しようね……とりあえずはい、これ飲んで落ち着いて」


 近くにある保冷庫から、病院で抜いてもらった僕の血液パックにストローを指すと、膝の上でまだ咽ている紗良に渡す。


「うぅ……湊くんのいじわる、……あ、新鮮で美味しい……」


「今日、抜きたてほやほや、保存料無添加の血液だからね……」


 腕のばんそうこうを見せながら笑い合う。





 紗良が吸血を習得するまでには、まだまだ時間がかかりそうである。

お読みいただきありがとうございます。


久しぶりのSS、楽しかったです(^^


リアクション、評価、ブックマーク、レビュー、感想などで作者を応援していただけると、

やる気がもりもりわきますので、是非よろしくお願いします。

誤字脱字報告も、合わせてありがとうございます。


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私の著作も応援よろしくお願いいたします。

『目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです』

小説 1~3巻 コミカライズコミックス1~3巻

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***注意書き***

作者の全ての作品は異世界が舞台の『ゆるふわ設定完全フィクション』です!

その点を踏まえて、楽しくお読みくださいね。

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そりゃあ輸血液なんていろいろ防腐処理とかするからねえ
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