【Ruin Recon】草原でクエスト消化するよ!【小日向こるり】 前編
今書き終わりました(汗)
おまたせすみません。
【Ruin Recon】草原でクエスト消化するよ!【小日向こるり】
「こんこるり〜!」
画面に、青い髪の小さなアバターが弾むように現れた。丸い目。ころころ変わる表情。頭の上で揺れる小さな羽飾り。
「小日向こるりです! ルイリコ3回目!」
・こんこるー
・こんこるり
・初見です
・Vかわいい
「初見さんいらっしゃい! ありがとー! 今日多いねえ。セール中だからかな」
画面右上の同接表示、312。こるりの普段の配信は二桁が標準で、三桁に乗れば良いほう。3回目にしてRuin Reconがこれまでの最高同接を更新している。
「えへへ、300人超えてる。こわ。緊張する」
・いつも何人なの
・ルイリコ新作だから見に来た
・こるりちゃんかわいい
「いつもは……うん、まあ、少ないよ。普段はね。今日はルイリコ効果だね。ありがたい」
・少ないってどれくらい
・言わなくていいよ
「言わないでおく! さて、今日は討伐クエスト消化するよー。ソレイスのやつ。貢献度上がると装備の割引もらえるらしいから、コツコツ上げてます」
降下ポッドが草原に着地する。衝撃でカメラが揺れた。ハッチが開き、陽光が差し込む。
Striker-Lが一歩、踏み出した。
角ばったシルエットの中型ヒューマノイド。頭部は丸みのないセンサーバイザー。腕は人間の二倍ほど太く、脚部は安定性重視の幅広い設計。特別かっこいいわけではない。量産型の実用品。初心者の8割が最初に買うフレームだけあって、草原を見渡せばどこかしらに同じ型が歩いている。
「さーて。いい天気。草原日和」
乾季に入った草原は茶褐色に枯れ始めて、硬葉の低木だけが緑を残している。空は高く、雲が少ない。
・画面きれい
・グラフィック良いよねこのゲーム
・こるりちゃんのStriker新品?
・ピカピカだね
「新品! この前やっと買えたの! バイトがんばった。船内のゴミ拾いバイトを……何回やったか覚えてない」
・船内バイト地獄で草
・ようこそStrikerへ
「Strikerいいよね。Recon-Iと全然違う。安定してるし、走っても揺れないし。あと手がちゃんとしてる。Recon-Iの手ってなんかカクカクだったから」
・わかる
・物持てるだけありがたいよ
「さてと。今日の討伐クエスト、六脚兵を……何匹だっけ。15体か。がんばろう」
ライフルを構え直す。メリディアンAR系の初期型。こっちもピカピカ。
「六脚兵。ちっちゃい犬みたいなやつ。……あ、いたいた」
200メートル先にスカウトの群れ。5匹ほどが地面を嗅ぎ回っている。胴が長くて脚が細い。犬より低い姿勢で、横に広がって動いている。
「もう慣れたよこの子たちは。1回目は3匹で泣いてたけど」
・1回目の悲鳴面白かった
・六脚兵くらいは慣れるよね
・がんばれー
ライフルを構える。三点バースト。一匹が倒れる。散開する残りを追う。もう一匹、二匹。手際はまだ少しぎこちないが、前回より明らかに動きが良い。
「よし。当たった。最近ちゃんと当たるようになってきた気がする」
・うまくなったね
・2回目と全然違う
・エイム安定してきた
「えへへ。ありがとう。解体しまーす」
倒れたスカウトに近づき、解体コマンドを実行する。爪と牙がドロップ表示された。回収。次の死体でも解体コマンド。回収。
「よーし。あとちょっと。もう一群いきます」
別の群れを見つけて同じように処理する。ライフル、解体、回収。草原を移動しながら群れを探す。
「ねえねえ、みんなルイリコどれくらいやってるの?」
・2ヶ月くらい
・セールで始めた
・1000時間
「1000時間!? すご。何してるの1000時間」
・石窟
・ガード装甲板掘り
・奥地行きたいけど金がない
「石窟ってまだ行ったことないんだよね。なんか怖いイメージある」
・序盤はガード狩りで稼ぐのが定番
・こるりちゃんもそのうち行くよ
「かもねー。装甲板って高く売れるんだっけ。いいなあ」
・六脚兵の爪じゃ小遣いにもならないからね
・金ならルーター鼻骨板も悪くない
「鼻骨板? あ、穴掘ってるやつ? あれ鼻が硬いの?」
・硬い
・正面から殴ると弾かれる
・横回ると柔い
「へえー。今度やってみよっかな。……あ、また群れいた。行きまーす」
ライフル。解体。回収。こるりはその間も喋り続ける。犬を飼いたい話。でも家が狭い話。チャットからの「こるりちゃん何歳?」に「秘密!」と返す。「好きな食べ物は?」に「ハンバーグ!」と即答する。
「クエスト完了!」
・おつー
・はやい
・もう終わり?
「うん、これで今日のぶん終わった。15体。えーと、次なにしよ……」
・次のクエストは?
・素材売って帰ろう
・もうちょっと狩ったら?
「うーん、素材売っても大した額にならないんだよねえ。爪と牙だし。どうしよっかなー」
素材を回収し終えて、Striker-Lが立ち上がろうとした。
足元に、最後に倒したスカウトの死体が転がっていた。解体コマンドで素材は取った。爪と牙はもうインベントリにある。でも体はそのまま残っている。六本の脚が不自然な角度に折れ曲がって、乾いた土の上に投げ出されている。
「…………」
・?
・どした
「……ねえ、これさ」
Striker-Lがしゃがんだ。カメラがスカウトの死体に寄る。
「脚、6本あるけどさ。全部同じ太さじゃなくない?」
チャットが一瞬、止まった。
画面に映る死体。確かに、前の一対は細く、真ん中の一対はやや太く、後ろの一対が一番太い。言われなければ気にしない程度の差。でもこるりの目は止まっていた。
・言われてみれば
・そうかな?
・よく見てるね
「前が一番細い。真ん中がちょっと太い。後ろがもっと太い。なんで全部違うんだろ」
声が少し低くなっていた。さっきまでの弾むようなトーンではない。独り言のような声。
Striker-Lの手が死体に触れた。ひっくり返す。腹側が見えた。
「中、どうなってるんだろ」
・中って何
・え
「見てみるね」
・は?
・何する気
・え、待って
Striker-Lの手で腹の皮を引っ張ってみる。弾力がある。指では裂けない。
「うーん、開かないな。銃じゃ無理だし……」
周囲を見回した。枯れた草原の中に、拳大の石がいくつか転がっている。
「……あ」
石をひとつ拾い上げた。Strikerの太い指で掴んで、別の石の上に叩きつける。鈍い音。割れなかった。もう一度。角度を変えて、もう一度。
「割れない……もうちょっと……」
三度目で石が割れた。鋭い縁を持つ破片がいくつか散る。
・石?
・何してんの
・石器時代で草
・原始人こるり
・この人石割り始めたんだけど
「えへへ。これでいけるかな」
最も鋭い破片を掴む。スカウトの腹に当てて、押し込んだ。
じゃり、と石が皮に食い込む音がした。
皮が裂けた。ただし綺麗には切れない。引っかかって、引き裂くように開く。裂け目がぎざぎざに広がる。石の縁が皮膜を押し潰しながら抉じ開けていく感触が画面越しに伝わる。
「うっ……けっこう力いるね。あとなんか、ぬるぬるする」
体液がStrikerの指を濡らした。黄色がかった半透明の液が、灰色の装甲板の上をゆっくり伝っていく。石器を握り直して、もう少し裂く。ぶちぶち、と繊維が千切れる音。皮膜の下に、赤黒い塊が見えた。
・うわ
・えぐい
・グロ注意って書いてなかったよね
同接が174に落ちていた。解剖が始まってから一気に減った。
「ちょっと待って、脚見たい。脚の中見たい」
前脚の付け根に石器を当てる。引き裂く。石の刃が皮に引っかかって滑った。力を込める。ずる、と嫌な音がして皮が裂けた。
「うわ……筋肉だ。筋肉の束がある」
石では綺麗に切り分けられない。繊維の束が潰れるように開く。だが、確かに見える。前脚についている筋肉は、細くて、長い。
「前脚、筋肉細い。薄い。……真ん中も開いていい?」
・聞かれても
・もう止まらないだろこれ
中脚の付け根を引き裂く。石の縁はもう鈍くなっている。切れ味が落ちると繊維が潰れるだけで裂けない。途中で石を地面に叩きつけて割り直した。新しい破片で再び切り込む。
「全然違うじゃん! 真ん中、太い。ぎゅって詰まってる。前脚と全然量が違う」
・グロ
・ちょっと抜けますすみません
「後ろも見る。後ろも……」
後脚。石器が滑って、肉をえぐるように裂けた。不格好だが開いた。中から赤い繊維の塊がはみ出す。
「うわ、太い。一番太い。後ろが一番多い。走る用だよねこれ」
Strikerの両腕が肘まで赤く濡れていた。石器を持つ指の間から体液が垂れている。画面の右下で、アバターは笑顔のまま喋り続けている。
「6本全部違うの。外から見たらほとんど同じなのに、中の量が全然違う……」
こるりはチャットを見ていない。
同接が131。チャットに「グロ」「無理」が流れていたが、こるりの目は死体にしか向いていなかった。
・また寄り道始まった
・前のゲームの釣りの時と同じだ
・終わるまで帰ってこないやつ
・3人しか知らないけどこれ長いやつだよ
「お腹のほう。さっき開いたとき、中になんかあった。赤黒い塊が膜に包まれてた。あれ見たい」
腹の裂け目に戻る。石器をねじ込んで押し広げる。綺麗な断面にはならない。肉が引きちぎれるように開いていく。その奥に、半透明の膜に包まれた塊がいくつか詰まっていた。
「……このゲーム、中身まで作ってるの?」
声のトーンが変わった。
高くなった。早くなった。
「解体コマンドで出るの爪と牙だけなのに。中にこんなに入ってるの。なんで。誰も見ないのに」
・運営がそこまで作り込んでるってこと?
・すごいけどグロい
・ちょっと無理
腹腔に手を入れる。石器では切り分けられない。指で膜を破って、中の塊を持ち上げようとした。滑る。体液まみれで掴めない。
「ぬるぬるして持てない……あっ、潰しちゃった。あーあ」
・もったいない
・もったいないっていう感想が出ること自体おかしいんだよな
・こるりちゃん……
同接が87。
「関節……関節はどう曲がるのかな。石だと筋肉潰れちゃって見えないんだけど……あ、ここ。ここ硬い。骨だ」
石の破片で肉をこそぎ落とそうとする。が、上手くいかない。繊維が石にまとわりつく。
「うーん、切れ味がね……。でも分かる、曲がる方向は分かる。前脚は横に開くっぽい。後ろは前後だけ」
石器を置いた。Strikerの赤く濡れた手で、自分が引き裂いたものを見ている。
「ねー、もっとちゃんと見たいんだけどな。石じゃ全然ダメだ。切るっていうより引きちぎってる感じで。ナイフとかあればもっと綺麗に見えるのに」
・何の話
・分かんない
同接が56。チャットの流れが遅くなっている。去る人は黙って去っていた。
「この子の中身がこんなに詰まってて……みんな素材だけ取っていくんだ」
声がすこし落ちた。すぐ戻った。
「まあいいや。次の子でもう一回やってみよ。石をもっと上手く割ればいけるかも」
立ち上がろうとした。
「もっとちゃんとした道具がいるよね。マーケットにナイフとか売ってないかな……」
コックピットのセンサーに赤い点が表示されていた。接近警告。複数。画面の隅に「有機化合物検出」の小さな表示が出ている。
こるりは画面の左側を向いていた。
・こるりちゃん
・後ろ
・センサー
「刃物があればさあ、もっとちゃんと筋肉一本ずつ……」
・後ろ!!
・逃げて
・センサー見て!!
画面の右端に影が差した。
低い姿勢の六脚兵が、もう3メートルまで来ていた。一匹ではなかった。Strikerの足元に広がった体液の匂いを辿って、スカウトの群れが寄ってきていた。
最初の一匹がStrikerの背中に飛びかかった。しゃがんだままだった。
「え」
画面が揺れた。警告音。立ち上がれない。脚部に何かが噛みついている。センサーが赤く染まる。
暗転。
◇
母船の格納庫だった。
白い照明。無機質な壁。Striker-Lの格納スペースは空だった。機体は草原に残ったまま戻ってこない。
同接、34。
数秒の沈黙。
「…………」
「……ナイフとか刃物、探してくる!」
画面が格納庫を映したまま、アバターが走り出すモーションに切り替わった。こるりはもう母船の通路を走っている。
・えっ
・機体は??
・Striker-L 80,000Crだぞ
・やっと買えたって言ってたのに
・そっち??
・知ってた
・前のゲームの釣竿壊した時も同じだった




