過去と今
「真由美ちゃんは大人っぽいからこれくらいできるよね」
私は体の成長が人一倍早かった。だから同年代の人の誰よりも期待された。
だけど、期待とは裏腹に私はドジだ。期待の分だけ失望された。いつも勝手に期待され、失望されるのだ。
「真由美ってこれくらいの事も出来ないの…? 小学生以下じゃん」
――何でそんな酷いこと言うの? どうして? 役立たずだからってそこまで言わなくてよくない?
毎日嫌味を一方的に投げやられて、気づけば自殺のことを考えるようになっていた。
父親の仕事関係で転校することになった。それは失望されている人間達とは別れ、期待してくるであろう人間達と関わることを意味する。
――転校初日か。また勝手に期待されるだろうな……。どうせ失望されるんだ。それならいっそのこと…。
今度こそ飛び降りようと一歩進もうとした時、ある噂が耳に入った。
「ねえ、異界電車って知ってる?」
「知ってる知ってる! 異界に行ける電車でしょ。昔からあるよね」
足が止まって、私は全神経を耳に集中させた。
――異界に行ける電車…。別の世界に行ける手段……。
「異界ってどんな所に行けるんだろうね」
「それはやっぱり人が居ない場所じゃないの?」
――人が居ない場所…! そんな所があるならそこに行けば…私は死ななくて済む…!
やっぱり死ぬのは誰しも怖い。それは真由美も同様だった。女子高生の何気ない言葉が彼女の心に希望を見せたのだ。
「そっかー! 人が居ない場所か! 疲れた時だけ行きたいねー!」
「ま、異界電車ってたかが噂だけど」
「えー、いきなり夢のないこと言わないでよー!」
――そっか。噂だ。私は何を考えているんだ? さっさと飛び降りよう。
しかし、飛び降りる前に電車は通過した。神様から自殺することを拒絶された気がした。
そうして、私は異界電車の噂だけを生きがいに今を生きていた。そして、夢は叶った。
――今、私は異界電車に乗っているんだ!
乗り物は汚いし気持ち悪いけど、この電車は異界へと私を誘ってくれる。
期待で胸を弾ませ、外の景色を見る。
線路はカーブを描いており、何百とある鳥居をくぐっている。空は夕焼けで神秘を感じさせられる。
外を眺めているのだが、さっきから視線を感じる。何だと思い見てみれば、電車に生えていた目だった。
――この目…動いてる……なんか気持ち悪い。
『無地駅に到着〜。降りる方は降りてください。3分後に出発します〜』
上から音が聞こえた。見上げてみると、天井に口が生えていた。その口からヨダレのようなものが垂れてくる。いや、ようなものではなく、確実にそうであろう。
私はヨダレに気をつけながら外を見た。
――何もない……。名前の通り…。真っ白い空間だ。
今度はドアから外を覗き込むように横側を見た。赤い何かが居る。この世界の住人だろうか? この電車に乗りに来たのかもしれない。
――どうしよう…。降りようかな…?
どちらにせよ、駅で会ったおじさんには鉢合わせしたくはない。説教されそうで面倒臭い。
私は2分待って、おじさんが降りないのを確認してからこの駅に降り立った。
降りた理由は単純。ただ、いち早く異界の地面に立ちたかったからだ。要するに私は我慢するのが得意でないということ。
一分もすると異界電車は進んでいった。そしてようやく私は声を出した。
「やった! 異界だー!!! あはは!」
何もない駅で私はジャンプして喜びを表す。久しぶりに外で、はしゃいだ気がする。大人っぽかった私は子供の装いをするのも封じられていたようなものだ。
――まだ何もしていないのに、もう楽しい!
なんて言うのだろうか、解放感が半端ない。
そう喜んでいると、赤い何かがこちらに近づいてきていることに気がついた。
――あれ? 乗らなかったんだ? それじゃあ、丁度いいや。この世界について聞かなきゃ。
私は赤い何かがちゃんと見える所まで近づいた。そう、見える所まで。
赤い何かの正体に気が付き、腰が抜けた。
「鬼…? 何でここに…」
――何でも何もそれは異界だからでしょ?
――化物が居たってなにも不思議じゃないでしょ?
自分の心の中で冷たい自分がそう投げやる。
――怖い怖い怖い。に、逃げなきゃ。
私は這いつくばって鬼から離れる。が、しかし奴らに私の存在が気づかれた。
鬼は金棒を肩に掲げ、こちらに走り出す。
――だ、駄目。追いつかれる…!




