EP 25
春風の英雄、迫り来る黒い軍靴
季節は巡り、アルクスの街に春が訪れた。
柔らかな陽光、色とりどりの花々。
だが、その平和な風景の中で、リュウとセーラの名は「武力」の象徴として轟いていた。
『ウェポンズマスター』リュウ。
『聖女』セーラ。
A級に昇格した二人は、飛ぶ鳥を落とす勢いで高難度依頼をクリアし続けていた。
街を歩けば感謝され、ギルドでは若手の憧れの的。
順風満帆な英雄譚。
だが、平和な時間は長くは続かない。
◇
ある日の午後。
ギルドへ戻った二人を、受付嬢が深刻な顔で呼び止めた。
「リュウ様、セーラ様。……緊急の相談がございます」
通された応接室で提示された羊皮紙。
そこに書かれた文字を見て、リュウの目が細められた。
【最重要警戒指定:ゴブリンキング及びシャーマン率いる軍団の討伐】
「軍団……だと?」
「はい。東の山岳地帯に、ゴブリンの大規模な集落が確認されました。その数、およそ五百」
「五百……!」
以前の村襲撃とは桁が違う。それはもう「群れ」ではなく「軍隊」だ。
「しかも、統率個体が二体確認されています。一体はゴブリンキング。そしてもう一体は……」
「ゴブリンシャーマン、ですね」
セーラが重々しく呟く。
ゴブリンの上位種にして、魔法を操る知恵者。
強力な物理攻撃を持つキングと、魔法・呪術を操るシャーマン。
この二体が手を組めば、その脅威度は計り知れない。
「ギルドの総力を挙げて討伐隊を編成する予定ですが……その中核として、お二人に参加していただきたいのです」
受付嬢が頭を下げる。
これは依頼ではない。街の存亡をかけた防衛戦だ。
「分かりました。引き受けます」
リュウは即答した。
ウェポンズマスターの力は、こういう時のためにある。
「相手が軍隊なら、こっちも手加減なしだ。『範囲殲滅』の準備をしていく」
リュウの脳内で、対集団戦用の武器セットが構築されていく。
だが、不安要素がないわけではない。敵には魔法使いがいるのだ。
「リュウ様」
退出後、セーラが真剣な眼差しでリュウを見つめた。
「今回の戦い、わたくしも攻撃に参加させてください」
「えっ? でもセーラは回復役じゃ……」
「回復だけでは、リュウ様の背中を守りきれません。……わたくし、この日のために練習していたのです」
セーラが杖を構え、小さく詠唱する。
すると、杖の先に鋭い風の刃と、赤い炎の矢が浮かび上がった。
「『ウィンド・カッター』に『ファイア・アロー』……!?」
「まだ初級魔法ですが、ゴブリン程度なら倒せます。わたくしはもう、守られているだけの聖女ではありません」
その瞳に宿る強い意志。
リュウは嬉しそうに笑い、セーラの肩を叩いた。
「頼もしいな、相棒。……よし、背中は任せたぞ」
「はい! 任せてください!」
最強の武器使いと、攻撃魔法を覚えた聖女。
二人の英雄は、迫り来る黒い軍団を迎え撃つべく、決意を新たにした。
春風のアルクスに、戦いの気配が混じり始めていた。




