EP 24
市場の宝石、望郷の味
夕暮れのアルクス中央市場。
A級昇格という快挙を成し遂げたリュウとセーラは、祝杯の準備に繰り出していた。
「今日は無礼講だ! 食いたい物を片っ端から買うぞ!」
「ふふ、リュウ様ったら子供みたいですわ。でも、楽しみです!」
市場は活気に溢れていた。
新鮮な魚介、色とりどりの野菜、香ばしい焼き菓子。
二人は手を繋がんばかりの距離で店を巡る。
「おっ、いい真鯛だ! これと、そっちの海老もくれ!」
「リュウ様、こちらのキノコもお鍋に合いそうですわ」
財布の紐は緩みっぱなしだ。
今夜はとびきりの贅沢をする。誰に遠慮することもない、二人だけの祝勝会だ。
その時だった。
リュウの足が、乾物屋の前でピタリと止まった。
「……嘘だろ?」
視線の先。麻袋に入った、白い粒。
見間違うはずがない。
それは、日本人の魂。
「米……! しかも、短粒種(ジャポニカ米)……!」
「あら、東方の穀物ですね。少しお高いですけど……」
「おばちゃん! これ全部! あるだけ全部くれ!」
リュウが叫ぶと、店主のふくよかな女性が目を丸くした。
「あいよ! 兄ちゃん、気前がいいねぇ!」
さらに、隣の壺からは懐かしい発酵臭が漂ってくる。
「み、味噌まであるのか!? 信じられねぇ……神よ!」
「これも東方の調味料だね。セットで買うかい?」
「買う! 言い値で買う! おばちゃん、愛してるぜ!」
リュウが感極まって叫ぶと、隣で空気が凍りついた。
「…………愛してる、ですって?」
セーラが頬を膨らませ、ジト目でリュウを睨んでいる。
「わたくしという者が隣にいながら……年上の方がお好みでしたの?」
「えっ、いや、違う! これは言葉のアヤというか、感謝の表現で!」
「ふん。……今夜のお鍋、わたくしの分は抜きでもよろしくてよ?」
「ごめん! セーラが一番大事です! だから機嫌直して!」
必死に弁解するリュウを見て、セーラは「ぷっ」と吹き出した。
「ふふっ、冗談ですわ。……でも、そんなに嬉しいのですか?」
「ああ。これさえあれば、俺は無敵だ」
◇
郊外のキャンプ地。
飯盒から立ち上る湯気と、甘い香り。
そして鍋からは、魚介と味噌が織りなす芳醇な香りが漂う。
「できた……海鮮味噌鍋定食だ」
リュウは震える手で茶碗を持ち、白米を口に運んだ。
「……うんめぇぇぇぇッ!!」
噛みしめるたびに広がる甘み。
味噌の塩気と魚介の旨味。
五臓六腑に染み渡る、故郷の味。
思わず涙が出そうになった。
「はふっ……。美味しい……! こんなに深い味わい、初めてですわ!」
セーラも目を輝かせ、箸(リュウが即席で作った)を進める。
月明かりの下、二人は鍋を囲んで笑い合った。
A級昇格の喜びと、美味しいご飯。そして隣には信頼できるパートナー。
これ以上の幸せが、どこにあるだろうか。
「セーラ。これからも、よろしくな」
「はい。どこまでもご一緒しますわ、リュウ様」
満腹と幸福感に包まれながら、アルクスの夜は更けていく。
リュウの異世界生活は、胃袋も心も満たされ、最高の夜を迎えていた。




