EP 18
机上の空論、森への誘い
夕暮れ時の宿屋。
羊皮紙に書き殴られた図形と矢印を睨みながら、リュウは唸っていた。
「……ダメだ、しっくり来ない」
頭の中では完璧なコンボだ。
投石で牽制、糸で拘束、毒で削り、双剣でトドメ。
だが、それはあくまで机上の空論。
実際に動く敵相手に、その複雑な手順が通用するのか?
タイミングは? 敵の耐性は?
「リュウ様、根を詰めすぎてはいませんか?」
心配そうな声と共に、温かいお茶が差し出される。
セーラだ。
「ああ、悪い……。どうしても考え込んじまって」
「リュウ様の熱心さは素晴らしいと思います。ですが……」
セーラはリュウの隣に座り、羊皮紙を覗き込んだ。
「頭の中だけで戦っても、答えは出ないのではないでしょうか? 百聞は一見に如かず、とも申しますし」
「……確かに」
リュウは苦笑した。
攻略サイトを眺めているだけで、ゲームが上手くなるわけじゃない。
必要なのは「実戦データ」だ。
「気分転換も兼ねて、手頃な依頼を受けてみませんか? 新しい戦術を試すには、丁度いい相手がいるかもしれませんわ」
「そうだな。セーラの言う通りだ。部屋で腐ってても仕方ない」
リュウは羊皮紙を丸め、立ち上がった。
悩みは吹っ切れた。今は体を動かしたい。
◇
黄昏時の冒険者ギルド。
掲示板の前で、二人は依頼書を吟味していた。
「薬草採取……却下。スライム退治……弱すぎる」
サンドバッグにするには、ある程度の耐久力と危険度が必要だ。
ゴブリンより強く、しかしキングほど理不尽ではない相手。
「リュウ様、これはどうでしょう?」
セーラが指差したのは、『オークの群れの討伐』。
報酬は銀貨10枚。
【討伐対象:オーク】
豚の顔を持つ亜人。高い体力と腕力を誇るが、知能は低く動きは単調。
「体力バカか……。毒の効き目を試すには絶好の相手だな」
それに動きが単調なら、トリッキーな『操糸短剣』の練習台にもなる。
リスクとリターンのバランスが完璧だ。
「よし、これにしよう。オーク狩りだ」
「はい! では受付に行きましょう」
カウンターで手続きを済ませ、ギルドを出る頃には、空は完全な夜に包まれていた。
だが、リュウの足取りは軽い。
腰には四種の武器。頭には構築したばかりの戦術。
それらを試せる興奮が、恐怖を上回っていた。
「行くぞ、セーラ。今夜は実験だ」
「ふふ、実験台にされるオークさんが少し可哀想ですわね」
リュウの不敵な笑みに、セーラも悪戯っぽく微笑み返す。
月明かりの下、二人は森へと続く街道を歩き出した。
新たな牙を研ぐための、実戦演習が始まる。




