EP 14
勝利の美酒、そして次なる牙への渇望
冒険者御用達の酒場『猪突亭』。
リュウとセーラは、賑やかな喧騒の片隅でジョッキを掲げた。
「俺たちの初勝利と、生還に!」
「リュウ様の武勇と、女神様の御加護に!」
カチンッ!
木製のジョッキがぶつかり合う小気味よい音。
冷えたエールが乾いた喉を潤し、極上の達成感が胸を満たす。
「ぷはぁーっ! 生き返る!」
「ふふっ、リュウ様ったら」
セーラが口元を隠して上品に笑う。
ランプの光に照らされた彼女の顔は、戦場の時とは違う、年相応の少女の可愛らしさに溢れていた。
「でも、本当にすごかったですわ。あのゴブリンキングを、あんな風に倒してしまうなんて」
「……ギリギリだったよ。セーラが回復してくれなきゃ、今頃俺はゴブリンの餌だった」
リュウはジョッキを揺らしながら、自嘲気味に笑った。
謙遜ではない。事実だ。
あの勝利は薄氷の上にあった。
酔いが回るにつれ、二人は身の上話に花を咲かせた。
東の異国から来たというリュウの話に、セーラは目を輝かせて聞き入る。
そしてセーラもまた、教会の外の世界を知らなかった自分が、リュウのおかげで広い世界を見られた喜びを語った。
「リュウ様と出会えて、本当によかったです」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、リュウは照れ隠しにエールを飲み干した。
(参ったな……こんな風に見られたら、調子が狂う)
◇
宿に戻り、一人になったリュウはベッドに倒れ込んだ。
「ふぅ……」
静寂の中で、今日の戦闘を反芻する。
短剣の切れ味。投石の威力。
スキル『武器使い』のおかげで、どちらも手足のように扱えた。
だが――。
「足りない」
リュウは天井に手を伸ばし、虚空を掴んだ。
ゴブリンキングの厚い皮膚。
何度も弾かれた刃の感触。
もし、あれより硬い敵が出たら? 空を飛ぶ敵だったら? 魔法を使う敵だったら?
「石と短剣だけじゃ、手詰まりになる時が来る」
今の装備は「物理」に偏りすぎている。
もっと搦め手が欲しい。
相手の防御を無視し、確実に削り取る手段。
あるいは、敵の射程外から一方的に攻撃できる手段。
「毒……だな」
脳裏に浮かんだのは、禍々しくも魅力的な選択肢。
硬い鎧も、巨体も関係ない。
一撃入れれば、内側から敵を蝕む猛毒。
もし今日の短剣に麻痺毒が塗ってあれば、もっと楽に勝てたはずだ。
「それに、連射できる遠距離武器も必要だ。クロスボウ、あるいは吹き矢か?」
思考が加速する。
勝利の余韻など、とっくに消えていた。
あるのは、次なる強さへの飢えだけ。
ゲーマーとしての血が、最適解を求めて疼いているのだ。
「明日は情報収集だ。毒の扱える店、そして新しい飛び道具……」
リュウは寝返りを打った。
窓の外には、静かに輝く月。
その光は、リュウの瞳に宿る、冷たく鋭い野心を照らし出しているようだった。
(待ってろよ、アースティア。俺はもっと強くなる。……手段は選ばない)
英雄への道は、決して綺麗なだけではない。
リュウは泥臭く、そして狡猾に、この世界を攻略する覚悟を決めていた。




