ヘーゼル・ハムスティード伯爵令嬢
「お兄様、今お話。。」
「ヘーゼル、お兄ちゃんだよ。悪いな手伝わせて。休憩にするか?」
「いいえ大丈夫です。今お話をされていた方はお知り合いですか?」
「いや?この地域の特産の酒はあるか聞かれただけだよ。ひまわり酒を勧めておいたが」
お兄様が騎士団にいたはずだけど、まあ変装してたし。エルドラド殿下は分からなかったみたいだ。
「ヘーゼルちゃん、お疲れ様。もう少しで忙しい時間が終わるから、上がってね。明日帰るのにごめんね。でも手伝ってもらって助かったわ」
「お義姉さ。。ちゃん」
お義姉様のイリス様は子爵令嬢でお兄様の婚約者だった。私達の家族から爵位が剥奪された後、お兄様は婚約破棄を申し立てたが、イリス様はそれに納得できず、家に押しかけてきた。そしてお兄様を口説き落として、去年結婚。甥っ子のキースも生まれた。
お店も繁盛しているし、本当にお兄様とイリス様はすごいわ。
私はこの領地を治める、ハムスティード伯爵家に生まれた。
この領地はほかに比べると小さい領地だが、特産のひまわりの種から取れる油が王宮でも使われるほどの人気でかなり豊かな領地だった。ハムスティード伯爵のお父様は観光事業にも力を入れていて、ひまわり畑が満開になる時期はこの街も大変に賑わった。
そんな幸せな日々が終わったのは、2年前の私が17歳のデビュタントを迎える直前だった。
家に突然、王宮の騎士団がやってきて、横領の罪でお父様を連れて行ってしまった。
お父様は身に覚えがないと必死に訴えたが、ある所から二重帳簿などが発見され、お父様の筆跡であると確定されてしまった。そしてお父様は裁判にかけられる前に牢獄で病気にかかり亡くなってしまった。
私達は屋敷から出る事になったが、父方の叔母が嫁いだアストリア子爵家がアストリア伯爵となりこの領地を治めてくれることになった。そして次に住む家の手配や私がバートン伯爵家で働ける用にしてくれたのだ。
王宮で騎士として働いていたお兄様はすぐに戻ってきてくれて、今まで貯めたお金で食堂を買取り、この商売を始めた。
「騎士団では料理もするから、結構得意なんだ」と言う通り、食堂はたちまち街の人気のお店になった。
ただ、私達の髪の色はとても特徴的なので。この街にいる間は私もお兄様も髪の毛の色を隠している。甥っ子のキースもハムスティード家の特徴を持って生まれてきたので、髪が生えそろったら隠さなくてはいけないのが悲しい。
「さっき、話していた銀髪の男は誰だ?」とお兄様がミカエル様をじろっと睨んでいる。
「あら、エバン。シスコンは卒業しないと、ヘーゼルちゃんに嫌われるわよ」とイリス様がニヤニヤしてる。
「あ、あれは私の新しい雇用主のミカエル様です。明日一緒に連れて帰ってくれる」
「そうか。。あいつがミカエルか」
「王宮の筆頭魔術師ですよ。お兄。。ちゃんもあった事があるのでは?」
「まあな。。いつも無愛想な顔をして、人と目を合わせないで歩いているところしか見た事なかったから、気が付かなかった。お前と話している時は、印象が違うな」
「ミカエル様は噂とは違ってとてもいい人ですよ」
「。。。いい人ね」
「ほらー、エバン。客商売なんだから、もっと愛想良くして。ヘーゼルちゃんがお世話になっているんだから、サービスの品を持って挨拶してきたら?」とイリス様に鳥の唐揚げを渡される。
「そうだな、挨拶してくるか」と唐揚げの皿を持って行った。
なんか、お兄様。。今唐揚げにかけた?
お兄様の背中しか見えないので、何を言っているかわからないが、ミカエル様が唐揚げを食べて何か咳き込んでる。
イリス様がミルクの入ったグラスを私に渡してきた。
「これ持って行ってあげて」
「え?お義姉様は何でミカエル様がミルクを好きな事を知っているのですか?」
「勘よ。。後でエバンもしめておくから」
ミカエル様はまだ咳き込んでいて、エルドラド様は大笑いしている。
「ミカエル様大丈夫ですか?ミルクをどうぞ。お兄ちゃん、唐揚げの香辛料が効きすぎなんじゃない?」
「そうかもな。申し訳ございませんでした。こちらの会計は無料でいいので、宿に帰られてゆっくりお休みになった方がいいと思います」とミカエル様に笑顔で言うが、なんか目が怖い。
「そうだなミカエル、長旅で疲れているだろう。帰って休んだ方が良い。ヘーゼルちゃん、ミカエルはこの街に不慣れだ、宿屋まで連れて行ってくれないか?パン屋の隣にある、赤い屋根の宿屋だ。俺はこのひまわり酒をもう少し楽しみたい」
お兄様の方からなんか、冷たい空気が流れてくるが、お兄様はエルドラド様をチラッと見て、
「ヘーゼルも明日早いんだろう。ミカエル様を送ったら、すぐに家に帰って明日の支度をしなさい」
「分かりました。ミカエル様、もう大丈夫ですか?すぐ近くですから、すぐにお休みになれますよ」
でもちょっと待ってエルドラド様はどうなるの?護衛も無しで置いて行くわけには。。と思ったら、すすっと違う護衛の方がミカエル様の席に座った。
「ヘーゼルちゃん頼んだよ。俺は普通の唐揚げもらおうかな」とお兄様に注文している。
私はミカエル様の手を取って、外に連れ出した。
久しぶりに見るミカエル様は目の下に隈ができている。明日帰ったら、ゆっくり屋敷で寝てもらおう。
手をまだ握ったままだったので、離そうとしたら、反対にぎゅっと握られた。
「ミカエル様?」
「ちょっと気分が悪いんだ。手を握っていてくれないか」
確かにミカエル様の顔色が悪く、汗が出てきている。
「大変、早く行きましょう」
幸い、宿屋はここからすぐ近くだ。手を引っ張って歩き出そうとしたら、布巾が緩んで、落ちてしまった。
「いけない!!」私が慌てて髪を隠そうとすると。ミカエル様がその手を止めた。
「この髪が見たかったんだ。この2週間」と言って頭を撫でた。
「す。。すみません、ミカエル様。ちょっと汚れているので、布巾を被ってないとダメなんです」私は慌てて布巾を付け直した。周りにはあまり人もいなかったし大丈夫よね。
やっと宿屋に着いた。受付の人に聞いて、顔色の悪いミカエル様を部屋に連れて行く。
「お茶とか持ってきましょうか?」
「いや。。寝たら治ると思う、でもちょっと。。」と言ってバスルームに入って行ったので、私はベットをできる限り快適になるように整えた。
やっとバスルームから出てきたミカエル様の顔色はまだ悪いが少しマシになったようだ。
「ヘーゼル、1人で帰らせるのは危ない。転移魔法で送るよ」
「ミカエル様、体調の悪い時に無理ですよ。うちはこの近くです。いつも出歩いている時間なので大丈夫ですよ。ゆっくり休んでくださいね。明日のお昼過ぎにこちらに来ますから」とミカエル様をベットに入れて、毛布をかけてあげる。
ミカエル様はすぐに目を瞑った。
私はそーっと部屋を出て、宿屋の外に出る。
家は本当にここからすぐだ。さあ、帰って荷造りを済ませて、ちょっと早めに寝ないとなあなんて考えていたら、こんな時間には珍しく馬車がスピードを出して走っている。
と思ったら、その馬車が急に私の前で止まった。
しまったと思った時にはもう遅かった。
私は馬車に連れ込まれてしまった。
やっぱりお兄ちゃんは怖いんです。




