視察なんか行きたくない
俺はすぐに眠ってしまったヘーゼルを少し引き寄せて、肩に頭を持たせ掛けさせた。
なんか口が動いている。ひまわりの種でも食べている夢でも見ているのか?無茶苦茶可愛い。
「ミカエルの可愛い物好きは相変わらずだな。お前に睨まれて震えているヤツらは想像もしないだろうな」とエルドラドがおかしそうに言う。
しかし急に真面目な顔になった。
「で、お前は何処までヘーゼルちゃんの事を知っているんだ?」
俺はどきっとした。
「ど。。どこまでって、素直で食べる姿が可愛くて。。。」
「誰も惚気ろとは言っていない。家族の事だ。お前は魔法以外は本当にポンコツだな」
確かに俺はヘーゼルの事を何も知らないな。歳だって怪しい。
エルドラドは一枚の紙を出した。
そうだよな。この馬車に乗る時点で、しっかり調べているだろうな。
俺はその調査の内容を読んで思わず
「これは本当なのか!」
「おい、静かにしろ。ヘーゼルちゃんが起きるだろう」
俺はまた読み返す。
「良かったな。これは上手い事転がせば、みんなが望むものが手に入るぞ」エルドラドが静かに言った。
本当に恐ろしい男だ。
きっとその上手い事転がす計画はすでに始まっている。
その瞬間、馬車がガタンと揺れてヘーゼルが俺の膝に倒れてきた。
ひ。。膝枕!!!!!
エルドラドは慌てる俺を目を細めて見ているが何も言わない。
ヘーゼルの髪が顔にかかっている。それをそっと元に戻して顔が見えるようにする。あまりの触り心地の良さに、つい頭を撫で続けてしまう。
「予想以上だな。お前がそこまでヘーゼルちゃんにハマるとは。もう俺たちには番の衝動とかは残っていないと思ったんだがな」
「初めて会った時から目を離せない。2週間も離れるなんて、気が狂いそうだ」とジト目でエルドラドを見る。
「じゃあ頑張って仕事しろよ」とエルドラドは本を手に取って読み始めた。
俺はヘーゼルの髪を一房取った。先端の部分の白っぽい所にキスをする。
「俺がヘーゼルを守るからな」
「そう言うのは起きている時にいえよ。魔獣を目の前にしても一瞬で灰にするお前がヘタレだとはな」
「俺はタイミングを待っているだけだ」
「タイミングね。。。」エルドラドは興味無さそうにまた本を読み始めた。
アストリア領の街につき、ヘーゼルとは一旦ここでお別れだ。ヘーゼルは外出用の帽子をきっちりと被る。ヘーゼルの髪が見えないのは残念だが、帽子を被ったヘーゼルもすごく可愛い。
馬車から降りるヘーゼルに手を貸す。
「家まで送ろうか?」
「大丈夫です。ミカエル様は体調不良にならないようにお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ああ、ヘーゼルは家族と楽しんでおいで」
ヘーゼルはぺこっと礼をして歩いて行く。俺は馬車にすぐに戻れず、ヘーゼルの後ろ姿を見送った。何だか胸が痛い。
するとヘーゼルが振り返ったので、手を振ったら。振り返してくれた。
俺は少し満足して、エルドラドがいる馬車に戻る。
「エルドラド、お前はどんな計画を考えているんだ?」
「おやおや、やる気だね。視察先まではたっぷり時間がある。初めから順に話していこう」
俺達の話は宿泊地の宿屋についてからもずっと続いた。
そしてやっと約束の2週間が明日に迫った今、俺は頭痛に悩まされている。
連日の寝不足もあるが、元凶は目の前にいる。
「ミカエル様ーーーーー。魔法の話をしてください。私はすごく興味があるんです」
ド派手に着飾った令嬢が俺にまとわりついて、彼女の声が頭に響く。
「話すことは特にない」と腕を取ろうとする令嬢を振り払う。
「ミランダ、ミカエル様は視察でお疲れなんだ。無理を言ってはいけないよ」と後ろから声がした。
エルドラドの隣に立っているのは、アストリア伯爵でこの女の父親だ。
「でもーーお父様、私はミカエル様とお話がしたいんです」と頬を膨らませている。
「殿下、娘もこう言っていますので、ご夕食を一緒にいかがですか?部屋の用意させますので」
おいおい、こんなとこに泊まったら、俺がこの女に襲われる。確か、アストリア伯爵はハリネズミの獣人だったか?
顔だけで見たら、美人の部類だし本人もそれを知っている。でもヘーゼルの可愛さには到底及ばない。早く明日にならないものか。
「申し訳ないな、伯爵。今夜は予定が入っているんだ」とエルドラドが笑顔で言う。
「えーー〜だったら、ミカエル様だけでも」とまたくっついてこようとする。つい拘束魔法をかけそうになった。
「ミカエル、そろそろ時間だ行くぞ。伯爵、邪魔したな」
俺は振り上げた手を下ろして、エルドラドに続いた。
「で。。これが予定何ですか?」
宿屋で仮眠をして、少し頭痛が治ったのでエルドラドとお忍びで街に出て食事をする事にした。
エルドラドが選んだ店は、酒も提供する食堂だ。すごく混んでいる。
カウンターにいる帽子を被った男は何故か見覚えがある。
オーダーを取りに来てくれた女性におすすめを聞いて、適当につまみを注文する。
「俺はちょっと酒のセレクションを聞いてくるよ」とエルドラドはカウンターに向かった。変装しているとはいえ、まさかこの国の王太子が食堂で食事をしてるとは誰も思わないだろうな。
あーー早くヘーゼルに会いたい。
「お待たせしました」
なんか会いたすぎて、幻聴まで聞こえてきた。
「こちらがひまわりのパン、鶏肉のアヒージョと牛の串焼き。。。え?ミカエル様???」
俺がガバッと顔を上げると目の前には布巾を被ったヘーゼルがいた。
「え?何でもう?明日じゃなかったんですか?」
慌てるヘーゼルが可愛すぎる。でも俺の大好きな髪が見えないのが残念だ。
「少し早くついたんだ。エルドラドがこの街も視察したいと言うから。近くの宿屋に泊まっている。ヘーゼルは何でここで働いているんだ?」
まさか、メイドの仕事を辞める気ではないだろうな?
「ここは兄夫婦のやっているお店なんですよ。いつもは母も手伝っているんですが、甥っ子が熱を出してしまい。人手が足りないので手伝っているんです。あのカウンターにいるのが兄で。。。え?エルドラド殿下!!!」
エルドラドはカウンターの男と何か真剣に話している。そうか彼が。
「ミカエル様、お疲れの様子ですね。やはり寝られませんでしたか?」
「いや、ヘーゼルがくれたサッシュのおかげで、いつもよりマシだ。本当に助かった」
そういうと、ヘーゼルはとても嬉しそうに笑った。胸がドキドキする。
「ヘーゼルちゃん、注文いい?」と隣のテーブルの若い男達が手を振っている。
「ミカエル様申し訳ございません。また後で」
「はーい、注文をどうぞ」と笑顔をその男に向けるヘーゼル。俺は何だかイラッとした。
「ミカエル、変な魔法を発動させるなよ。あれぐらいで嫉妬してたら、ここにいる男全員に拘束魔法をかける羽目になるぞ」
いつのまにかエルドラドが席に戻ってきていた。
「話は済んだのか?」
「ああ、彼は俺の事はすぐにわかったよ。何せ元上司だからな」
「だから見覚えがあったのか、まあヘーゼルにも似てるがな」
「ああ、彼が俺の諜報部隊の隊長で、元ハリスティード伯爵子息のエバンだ」
私の話でエバンって名前のお兄ちゃんは大抵アレなんですよ。




