華麗なるデビュー戦①
~佐藤家の紹介~
【ジョセフ】
佐藤家のアイドル。ゴールデンレトリバー。老犬。いつだって里香の味方。
【里香】
大学一年生。ジョセフに寂しい思いをさせないため、ニートになる。
【玲弥】
中学二年生。姉思いの優しい弟。自信過剰。
【パパ】
食品卸売会社勤務。娘のニート費用を稼ぐため、全身全霊でギャンブルに挑む。
【ママ】
お菓子メーカー勤務。玲弥にとことん甘い。
決戦の場となる店。その女子トイレの鏡の前で、乱破隊の面々は各自思い思いの戦隊ヒーローポーズを決め、臨戦態勢に入っていた。初陣を飾る里香だけは、鏡の隅で会長とマンツーマンの最終調整――「あざとテク」の伝授を受けている。
「里香、やってみろ」
「はッ!」
「三秒見つめて……恥ずかしそうに逸らす! ヨシ、いいぞッ!」
「アザッス!」
「里香ちゃん、カレシいんの?」
会長の即興の振りに、里香は間髪入れずに応じる。
「え~……いなかったらぁ~ん……カレシになってくれるんですかぁ~ん?」
「ヨシ! いいぞ! 上目遣いは十度から十五度を死守しろ。角度が命だ」
「はッ!」
「俺の好きなタイプ? まあ、特にないけど、強いて言うなら美人系より可愛い系かなぁ……」
「えっ……? それってぇ~ん……里香のことですかぁ~ん?」
「ヨシ! 首を十五度傾けて三秒キープ。そこから流れるような上目遣いのワンツー! 忘れるな」
「はッ!」
軍隊並みの厳格さで予行練習を終えたところで、里香はずっと喉に引っかかっていた疑問を口にした。
「ところで会長。会長は……その、処女じゃないんですか?」
「当たり前だろ。もう三年だぞ。やりすぎて穴ガバガバだ」
予想だにしない豪快な告白に、里香は目を丸くした。
「……っえ? いいんスか?」
「いいって何が?」
「クソガキと、その、致していいんスか?」
「いいよ。ただな、スッキリしたら必ず教育しろ。クソガキをクソガキのまま野に放つな。その矜持を忘れたらフェミニスト失格だ」
「はッ!」
医学部一年、ボンボンクソガキチームVS乱破隊。
一ラウンド目から、試合の主導権は完全に乱破隊が握っていた。もし場外にジャッジがいれば、乱破隊のフルマーク(完勝)を付けていたであろう。
クソガキどもは、自分たちがこの場をエスコートし、リードしていると盛大に勘違いして鼻を赤らめている。もちろん、それはまやかしだ。乱破隊の「あざと戦略」によって、そう思わされているに過ぎない。
(バカめ……お前らは私らが卓球でラリーしているだけのピンポン玉だ。その時が来たら、地面に叩きつけ、踏み潰してやる)
里香は流れるような動作で髪を耳にかけ、ターゲットのクソガキを見つめ――正確に三秒、視線を外した。
それだけで、魚が餌に食いつくようにクソガキが釣れる。面白いように釣れる。内心、笑いが止まらなかった。
ノってきた里香は、さらにギアを上げる。クソガキを呼ぶ時にあえて指先で服の裾をくいくいと引っ張り、潤んだ瞳で上目遣いを繰り出した。
「なんで理沙さんとばっかり話してんのぉ~ん……」
(……自分でやってて思う。これ、あざとい通り越してギャグだろ! ガハハ!)
心の中で自分に猛烈なツッコミを入れながらも、表情は一ミリも崩さない。対するクソガキの目は、分かりやすすぎるほどにハートマークへと変わった。
(……男って、なんでこんなにアホなんだ……っ!)
戦いが六ラウンド目に差し掛かった頃、会長から鋭い目配せが飛んできた。こんな雑魚を十二ラウンドフルに相手する必要はない。「KOへ追い込め」の合図だ。
里香はグラスを両手で包み込み、もはや真性のギャグにしか思えないトドメの一撃を放った。
「お酒、弱いんですってばぁ~……んも~……酔ったら、ちゃんと責任、取ってくれるんですかぁ~ん?」
(……あっ、これは流石にやりすぎたか?)
一瞬、背筋に冷たいものが走ったが、杞憂だった。
クソガキの鼻の下は、物理的な限界を超えてでろんでろんに伸び切っている。
(あ、やっぱアホだ、こいつ)
勝利を確信した里香の耳に、運命のゴング――「じゃあ、この後、どっか行く?」という誘いの声が響いた。




