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六年制ニート、時々、世直し。〜愛犬の介護をしたいので、バカな男はまとめて沈めます〜クソガキ殲滅!  作者: ダメだ里香ちゃん


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ランニングシャツ

~佐藤家の紹介~


【ジョセフ】

佐藤家のアイドル。ゴールデンレトリバー。老犬。いつだって里香の味方。


【里香】

大学一年生。ジョセフに寂しい思いをさせないため、ニートになる。


【玲弥】

中学二年生。姉思いの優しい弟。自信過剰。


【パパ】

食品卸売会社勤務。娘のニート費用を稼ぐため、全身全霊でギャンブルに挑む。


【ママ】

お菓子メーカー勤務。玲弥にとことん甘い。


挿絵(By みてみん)


「ジョセフがおかしいのッ! 話しかけても何も反応しないし……認知症みたい……」

娘からの着信に折り返したママへ、里香が告げたその表現は、残酷なほど的を射ていた。

ママが急いで帰宅すると、リビングには別人のように精彩を失ったジョセフがいた。彼は虚ろな目で、とり憑かれたようにリビングを徘徊していた。壁や家具に突き当たって行き止まりになると、どうしていいか分からないといった様子で、絞り出すような声で辛そうに鳴く。

里香が向きを変えてやっても、部屋の真ん中に戻してやっても、ジョセフはすぐにまた当てもなく歩き始める。そしてまた行き止まりにぶつかって、鳴く。

やがて、ジョセフは燃え尽きたように力尽きて眠りについた。

夕暮れ時、少しだけ意識が戻ったのか、ジョセフは床にぺたんとうつ伏せになったまま、うっすらと目を開けた。里香は自分も床に這いつくばり、ジョセフと視線を同じ高さにした。

ジョセフの瞳はぼんやりと宙を彷徨っていたが、里香が名前を呼び、語りかけ続けると、一瞬だけピントが合った。そして、かつての面影を残した力ない笑顔を、一度だけ返してくれた。

その日の晩、佐藤家は緊急の家族会議を開いた。議題は、ジョセフに手術を受けさせるかどうか。

成功の確率は五〇パーセント。決して高いとは言えない。

誰も答えを出せなかった。出せるはずがなかった。手術台の上でそのまま帰らぬ人になるかもしれないのだ。それも、二分の一という極めて高い確率で。

しかし、迷っている暇などないのだと、すぐに気付かされた。

犬の自然治癒力は人間の二倍。だがそれは裏を返せば、病気の進行速度も二倍だということだ。ジョセフの病状は累乗の勢いで悪化し、彼の脳を、心を、食い潰していった。

翌日、ぼうっと穏やかに過ごす時間は短くなり、徘徊と悲痛な鳴き声がリビングを満たした。その次の日には、穏やかな時間はもうほとんど残されていなかった。一日中、ただ歩き続け、泣き続けた。

沈黙を破り、決断を下したのはパパだった。

「ジョセフに、手術を受けさせよう」

パパの声は、震えていたが真っ直ぐだった。

「パパは、最期までジョセフには希望を持って生きてもらいたい。たとえ手術の結果がどうなろうと、逃げずに、最期まで戦ってほしい。……もし、手術が失敗した時は……里香、パパを恨みなさい」

里香は溢れ出す涙を拭うこともせず、嗚咽を必死に堪えて応えた。

「……恨むわけ、ないッ。パパ、ありがとうッ! 私もパパに賛成だよ……私もッ、ジョセフには最期まで希望を持って生きてほしいッ!」

「俺も、パパに賛成だよ」

「ママも、パパに賛成するッ!」

四人の意志が、一つに固まった。

ジョセフの手術が決まった翌日、里香はジョセフが眠りについた隙を見計らって、狂ったように自転車を漕いだ。向かった先は近所のペットショップ。

そこで彼女が選んだのは、白地の犬用ランニングシャツだった。みんなでジョセフへの寄せ書きをしたためるために、書き込めるスペースが一番広いものを選んだ。

帰宅した里香は、唇を血が滲むほど噛み締めた。

そして覚悟を決めた目で、油性マジックの太い方のペン先をシャツへと突き立てた。

真っ白な背中の真ん中に、大きく、力強く。

『必勝』

その二文字を、魂を削り出すように書き記した。


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