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六年制ニート、時々、世直し。〜愛犬の介護をしたいので、バカな男はまとめて沈めます〜クソガキ殲滅!  作者: ダメだ里香ちゃん


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13/20

夏の終わり

~佐藤家の紹介~


【ジョセフ】

佐藤家のアイドル。ゴールデンレトリバー。老犬。いつだって里香の味方。


【里香】

大学一年生。ジョセフに寂しい思いをさせないため、ニートになる。


【玲弥】

中学二年生。姉思いの優しい弟。自信過剰。


【パパ】

食品卸売会社勤務。娘のニート費用を稼ぐため、全身全霊でギャンブルに挑む。


【ママ】

お菓子メーカー勤務。玲弥にとことん甘い。


挿絵(By みてみん)


里香の部屋には、どこか物悲しい夏の終わりの夕陽が射し込んでいる。

ジョセフは布団の上にうつ伏せになって、全身タイツに身を通す里香の背中越しに、毎年恒例「ブルっこアイランド」での隠し撮り写真を眺めていた。

(里香ちゃんはどうして僕の寝顔をコレクションしているんだろう……?)

シュッ! と小気味好い音を立てて伸びた「ミサワのV-MAXネオお奉行様」が、再びシュッ! と縮まり、里香のポケットに収まる。

「大好きッ!」

ジョセフの目線に合わせてしゃがんだ里香が、優しく頬にキスをした。ジョセフは尻尾を振り、フンッと鼻を鳴らして「僕もッ!」と目で答える。

二人が階段を駆け降りると、里香はパパに買ってもらった反射材付きのランニングシューズに足を通し、玄関に立て掛けたリュックを背負った。そしてジョセフの逞しい胸に、新品のハーネスを装着する。

「スイッチON!」

里香が告げると、魔法のようにハーネスが七色に点滅した。光が音楽を奏でるように流れる。

「いいね~……イカしてる!」

ジョセフもそう思う。これならバッチリ目立つから、夜の横断歩道も安全だ。

「ジョセフと中央公園行ってくるねー!」

「いってらっしゃーい! 気をつけてね~」

(今日は中央公園をパトロールか)

リビングにいるママと声だけで挨拶を交わし、ドアを開けた。おシゴト開始だ。

中央公園へ向かう途中、大通りの橋に、見るからに「カットモデル探してます」風の「美容師」風男が立っていた。

「こんばんは~、かわいいワンちゃんですね~」

すれ違い様の唐突な犬褒め。それで喜んで足を止めるとでも思っているのか。

(心がこもってないんじゃッ!)

無視して通り抜けようとしたが、男は不自然に道を塞いできた。

里香は心の中で『オイッ』とツッコむ。ナンパじゃないんだから、立ち塞がるのは反則だ。

「お散歩中、申し訳ありませんッ!私、plumeという美容室でスタイリストをしているのですが、カットモデルさんを急ぎで探しておりまして……」

(出た。チャラ美容師。カットモデルなんて常連のババアでいいだろ。なぜ若い女と繋がりたがる)

「近隣住民には迷惑を掛けてはいけないという日本で仕事をする上での鉄則をご存知ないんですか?無視してんのに道を塞ぐのは迷惑です。そのプルームとやらに電話してやるから名刺出せよ」

里香の隙のないクレームに、男の顔が苦虫を噛み潰したように歪む。里香が冷めた視線を送り続けていると、男は突如本性を現した。

「ンだよ!若けぇだけのブスが調子ノリやがってッ!声掛けてやってんだから喜べよッ!勘違い野郎がッ!言っとくけどテメェ全然可愛くねぇかんな。急ぎで妥協しただけだぞ」

男は吐き捨てて去っていった。

里香は深いため息を一つ。短距離選手ばりのダッシュで距離を詰め、聖母のような声で肩に触れた。

「お、に、い、さんっ」

振り向いた瞬間、襟を掴んで押し込み、右足を天高く振り上げる。豪快な大外刈りで地面に叩きつけた。

「なに勝った気になってんだテメェ!」

男は背中を強打して声が出ない。遅れてジョセフが仲裁に入ったが、時すでに遅し。

「次、同じことやってみろ。プレーンだかミキプルーンだか知らねぇが、地獄の底まで追い込んで、ケツの穴にハサミぶっ刺して、キリストみてぇに磔にしてやんよ」

電撃を浴び、歯をガタガタと震わせる男を置いて、里香は散歩を再開した。

(ふぅ~……今日も世直し完了っと……)

中央公園に着くと、誰もいない東屋のテーブルに腰を下ろした。星空の下、里香は水筒に入れたダージリンティーを飲み、ジョセフには折り畳み皿にポカリスエットを注ぐ。

ジョセフは二人きりのこの時間を大切に思う。なにも言葉を交わさず、ただ傍にいて、ぐるぐる回って、見つめ合い、微笑み合う。生暖かい風が少しずつ冷えていくから時間が進んでいると分かるだけ、まるで時が止まったような幸せな時間。

彼が初めて佐藤家に来た時、里香は彼よりも大きな女の子だった。里香はまだ名前の決まっていない彼に『私が一生守る』と永遠の愛を誓ってくれた。だから彼も『里香ちゃんを一生守る』と永遠の愛を誓った。

彼は始めの頃、幼い玲弥を守るのが自分の仕事だと思っていたが、それは違った。

家族のなかで一番傷ついていたのは里香ちゃんだった。学校から帰ってくると里香ちゃんはいつもひとりぼっちで声を出さずに泣いていた。人間が発する匂いだけの涙。『悲しい、寂しい、辛い』という匂いだった。

その匂いが分かって、彼は心底犬として生まれてきて良かったと思った。もしも人間なら彼もまた里香ちゃんの涙に気づけなかったかもしれない。

パパもママも玲弥も優しいが、里香ちゃんの優しさだけは別格。里香ちゃんは優しくすると、大切にすると、もっと彼を優しく、大切にしてくれた。だからどんどんどんどん里香ちゃんとの愛が膨らんでいって、彼の心を幸せな気持ちで満たした。

里香ちゃんがこの世から「舐め」を一掃しようとするフェミニストに目覚めたのにも彼は納得がいった。

多かれ少なかれ人間は上下関係を作って生きる生き物だ。そこには里香ちゃんのいう「舐め」も含まれる。犬というのは舐められている生き物だ。人間より下の生き物と思われている。でも里香ちゃんにはその「舐め」が無い。人間と同じように彼に接してくれる。パパもママも玲弥も里香ちゃんを「犬好き」だと思っているが、そうではない。里香ちゃんはただ「優しい人」が好きなだけだ。

(僕が死んだ後、里香ちゃんを守ってくれる「優しい人」は現れるのだろうか……)

ジョセフがそんな心配をしていると鼻の奥かムズムズしてきた。

「……グフッ!」

心配した里香が覗き込んでくる。「どうしたのジョセフ!」

(……うーん、わかんない……)

「グフッ! グフッ!」

治まったので帰ることにしたが、里香は心配顔だ。「風邪ひいちゃったのかな?」

家に着いてスマホで調べてみると、『逆くしゃみ』だと判明した。病気ではなく、鼻の奥の粘膜がならんらかの刺激を受けて痙攣する花粉症のようなものらしい。里香はホッと胸をなでおろした。


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