夏休み!①
【ジョセフ】
佐藤家のアイドル。ゴールデンレトリバー。老犬。いつだって里香の味方。
【里香】
大学一年生。ジョセフに寂しい思いをさせないため、ニートになる。
【玲弥】
中学二年生。姉思いの優しい弟。自信過剰。
【パパ】
食品卸売会社勤務。娘のニート費用を稼ぐため、全身全霊でギャンブルに挑む。
【ママ】
お菓子メーカー勤務。玲弥にとことん甘い。
競輪場の大型スクリーンに、ゴールの写真判定が映し出される。
場内に流れる独特の緊張感。理久と小林は、祈るように拳を握り、固唾を飲んでその結果を見守っていた。
『6』-『4』……そして……『3』!
理久の手には、三連単「6-4-3」の車券がしっかりと握られていた。掲示板の確定ランプが灯った瞬間、その手が小刻みに震え始める。
「……ッ……っしゃあああああああ!!」
理久は突き抜けるような青空に向かって、勝利の雄叫びを上げた。
勝ったのだ。人生の大一番、娘の「夢」を背負った勝負に、彼は間違いなく勝利した。
そして、今年も待ちに待ったこの季節がやってきた。夏休み!だ。
佐藤家は毎年恒例、犬用大型室内プールを完備した旅館へと向かっていた。
ファミリーカーのハンドルを握るパパは、鼻歌混じりに最高の上機嫌だ。隣に座るママも、高級オイルマッサージとレストランのフルコースを約束され、これ以上ないほど機嫌が良い。
「あなた、疲れてない? 運転、代わろうか?」
「ぜ〜んぜん、平気ッ! 最終秘密兵器ッ!」
「新兵器ッ! 神経にッ! 電撃ッ!」
「電撃浴びても止まらぬ進撃ッ!」
「フゥ〜〜〜ッ♪」「YEEEEEEE♪」
両親の即興ラップが車内に響き渡る。
それを冷めた目で見守る後部座席では、里香と玲弥がぴったりと寄り添い、ジョセフ専用の「生身のソファー」と化していた。あまりのハイテンションぶりに、玲弥が尋ねる。
「二人とも、やけに機嫌いいじゃん」
「玲ちゃ〜ん、パパ、競輪で大勝ちしたんだって〜。今なら何でもおねだり通るわよぉ」
「マジかよ、さすが俺のパパ」
「玲弥、何が欲しい?」
理久がバックミラー越しに息子を見る。
「えっ……えーっと……じゃあ、木刀」
「欲しいものがビームサーベルから進化してねぇぞ」
里香は弟の横顔を覗き込みながら、中二男子という生き物の幼稚さに改めて溜息をつく。
「そんなことないよ。木刀は現実的だろ。でさ、太刀と脇差しが欲しいんだ」
その言葉に、パパがすぐにピンときた。
「おっ、宮本武蔵だな」
「そそっ。二天一流を極める」
「いいぞ〜、買ってやる」
「あと、練習用と本番用も!」
「いいぞ〜、買ってやる」
「本番用ってなんだよ……人を叩く気かよ」
里香の正当なツッコミは、興奮した男二人の耳には届かない。
「ありがと! 姉ちゃんもなんか頼みなよ」
「そうだな〜……私はデッカイお願いしたばっかだし」
「二年分のニート費用?」
「そう」
すると理久が、誇らしげに胸を叩いた。
「里香、そのことならもう心配いらんぞ。資金はバッチリ用意できた。なんなら今すぐ大学に乗り込んで、目の前で札束叩き付けてやりたい気分だ」
「……凄っ! 本当にありがとうパパッ!」
「任せなさいッ!」
(これは……思ったより勝った額がデカいぞ……ッ!)
「じゃあ、私は新しいランニングシューズがいいな。散歩が多くなって、靴がボロボロになっちゃったから」
「いいぞ〜、買ってやる」
「ありがとう!」
「ジョセフは何が欲しい?」
「パパが『ジョセフは何が欲しいの?』だって」
里香が問いかけると、ジョセフは尻尾を激しく振りながら、つぶらな瞳で里香を見つめ返した。
「新しいハーネスが欲しいそうです。夜になると光る、カッコいいやつ」
「いいぞ〜、買ってやる!」
「良かったね、ジョセフ。これで夜のパトロールも安全だ」
幸せを詰め込んだ車が角を曲がると、ついに目的地が見えてきた。
犬用大型室内プール併設の旅館――その名も「ブルっこアイランド」!




