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結末はお約束の大団円編13

 クロフトとの話を終えて、今まで不思議に思っていたことが少しずつ分かってきた。

 あのバルコニーでのお茶会の後にフェリクスからのアプローチが明確なものになったのだが、それはサンドラが隙を見せたからではなく、フェリクスがクロフトからサンドラの事情を聞いたからだったのだろう。サンドラが王女であると知ったことと、クロフトからの事実上の許可を得たことによる行為だったわけだ。

 だが、まだ分からないことがある。サンドラが王女であると知る前から彼はアプローチをしてきていた。いったいどういう考えてそうしたのか、知りたい。……結婚の前に。

 尋ねると、フェリクスはあっさりと答えてくれた。

「最初から僕は君を手に入れるつもりだったからね。君が王女でなくても、宰相から許可を貰えなくても」

「でも……後者はともかく、前者は大問題では? 殿下はルシンダ様との婚約関係を進めていらっしゃったわけですし……」

「妬いているの?」

「そういう話ではありません!」

 指をおとがいに掛けられて、サンドラは赤くなって顔をそむけた。フェリクスが少し笑った気配がする。

「何度も言うけど、僕は君が好きだし、君が欲しかった。君を側室にして巫女姫とは表面上だけの関係でいればいいと思ったんだ。幸い巫女姫も僕に興味がなかったし、ドミニクとの関係の隠れ蓑になり続ける提案をすれば断られなかったと思うよ」

「…………」

 サンドラは複雑な表情になった。自分は恋心を押し殺して皇子と巫女姫の輿入れに向けて頑張っていたというのに、当の皇子はまるで違う未来を思い描いていたのだから。

「でも……世継ぎのこととか、問題が多いのでは……」

「少なくとも血筋に関しては問題ないよ。ドミニクも帝国の皇子だから、巫女姫との間に子供ができても血筋は正統だ」

「!?!?!?」

 さらりととんでもないことが明かされた。

「ドミニク様も皇子でいらしたのですか!? そんな話、初めて聞いたのですが!?」

「まあ、帝国内でも知られていない話だからね。帝国内どころか皇帝陛下すら忘れているかも。でも、事実だ。いったんは認知されたけど母親の身分が低すぎるせいでなかったことになった。政治的な都合でね。でも僕は当時の皇帝陛下の意思決定の記録を押さえているから、必要となればドミニクのことを皇子に戻すことができる。当の本人が僕の護衛騎士でいることを望んでいるからしなかっただけで、できなかったわけじゃない」

「…………そうなのですか…………」

 驚くとともに、サンドラは確かに安堵も覚えていた。フェリクスはそこまで考えて自分を口説いてくれていたのだ。ルシンダとの表向きの婚約関係の裏で、サンドラにも誠実であろうとしてくれていた。そのことが……すごく、嬉しい。

「それと、君の出自も早くから見当がついていた。もしかして君が王女であれば、君が側室であっても生まれてくる子供は正統性を持つだろうと。そもそもそうした身分であれば、側室でなく正妃にするなり僕が女王婿になるなりできるだろうとも」

「私の出自に!? それは本当ですか!?」

 後半部分も聞き流せないが、それよりも前半だ。最初のくだりだ。サンドラが王女であると見当がついていたというのは本当だろうか。

 フェリクスは頷いた。

「本当だよ。僕の母は、前王妃の友人だったんだ。かなり親しかったようで、王妃が懐妊したことも知っていた。その後であんなことになって、獄中で亡くなったと聞いて嘆いていたけれど……君はちゃんと生まれてきてくれていた。神に感謝するよ」

「そうだったのですね……。お母様が……。……私も、少し聞いたことがあります。幼すぎて直接は覚えていないのですが、宰相閣下づてに。母には親しくしていた友人がいたが、その人は国外に嫁いだから情報漏洩を恐れて無事を知らせることができなかったと……」

 「国外に嫁いだ」が「皇帝の妃になっていた」なら大いに納得できる。いくら親しい友人とはいえ、帝国の中心にいる人間に下手なことを伝えられはしないだろう。

 フェリクスは少し目を瞠り、頷いた。

「確かに、それは知らせられないよね。でももう隠す必要はないから、よかったら君に僕の母と話をしてほしいな。国王夫妻が獄中死せずに脱出できていたのだと、娘である君の口から聞けたらきっとすごく喜ぶよ。結婚式には来るから」

「そうですね。私もお話ししてみたいと思います」

 サンドラも頷いた。

「でも、母と話してもらう前に。何か忘れていることはない?」

「忘れていること……?」

「求婚の返事をまだ貰っていないよ。まあ、断られても逃がす気はないけど。結婚準備もいよいよ終わりかけて外堀も埋まりかけているけどね?」

「…………!」

 確かに、きちんと言葉で返事はしていない。なしくずしにルシンダに代わってサンドラが皇子の婚約者になっただけだ。

 サンドラは覚悟を決め、言葉にした。

「私も……殿下のことが好きです。許されるなら侍女ではなく伴侶としてお傍に上がりたいと思います。…………っ!?」

 返事の返事は、唇によって――ただし言葉を紡がずに――伝えられた。角度を変えて繰り返される口付けに、自分がどれほど彼から求められているのかを教えられる。

「……結婚式が待ち遠しいな」

 名残惜しげに唇を離したフェリクスがそう言ったが、サンドラはもう突っ込む気力さえ無く、ぐったりと彼の腕に身を預けていた。

 これからも、彼に振り回される日々は続いていく。きっと、ずっと。

 そんな予感が、胸の奥から暖かく湧いてくるのを感じていた。

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