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結末はお約束の大団円編08

「どう、とは?」

「しらばっくれるつもり!? もちろんあなたの不誠実についてよ! 帝国の皇子様という婚約者がありながら護衛騎士に心を寄せているという噂についてよ! 聞いているわよ、あなたたちがただならぬ関係だって!」

 この大声はよく通った。噂を知らない人がいたとしても、これを聞いただけで充分に理解できてしまう。エイミーは懇切丁寧に非を鳴らした。

 しかも、噂とは言っても、一部で囁かれているだけで火消しが簡単にできるような可愛らしいものではない。もはや大勢に広まって共通理解となってしまった、ほとんど確定事項だ。

(しかも、事実に基づくどころか事実だし……)

 否定のしようがない。サンドラはどうフォローを入れていいか分からない。否定すべきなのに、否定したところで状況が好転する目が見えない。単にサンドラが嘘つきになって終わりだ。

(どうしよう……!)

 しかし、焦って気を揉んでいるのはサンドラだけのようだった。ルシンダはといえば、

「え……そうなの? みんなからそう見えていて?」

(なぜそこで頬を赤らめる…………!)

 サンドラは心の中で思い切り突っ込んだ。もはや心の中だけの突っ込みが癖になりすぎて実際の言葉が出てこない。表情だけは冷静なまま、心の中では大荒れだ。

(そこは焦ったり否定したりすべきところではないの!? それをなぜ、顔を赤らめる!? 肯定する様子を見せる!?)

 もはや訳が分からない。

(これ、私の感覚がおかしいの!? そんなわけないわよね!? これがおかしいと思うのっておかしくないわよね……!?)

 見た目だけはまともに見えるルシンダだが、見た目で言えばフェリクスもドミニクもそうだが、三者三様に曲者すぎて常識から外れすぎている。サンドラは自分を常識人であると自認していたが、この三人に揉まれるうちに感覚がおかしくなってきてしまったかもしれない。

 一方、エイミーの反応はサンドラにとっても理解できるものだった。彼女は常識的な反応を示した。すなわち、

「…………っ! 馬鹿にしているの!?」

 顔を赤くして声を荒げたのだ。もちろん彼女が顔を赤くしているのは、ルシンダが頬を染めているのとは理由がまったく異なる。

「馬鹿になんてしていないわ。もう一度言って? わたくしとドミニク様が……」

(ルシンダ様……!? 建前をどこにお忘れですか……!?)

 もはやドミニクへの恋情を隠す気もないらしい。これまではフェリクスを立てるという建前だけは忘れていなかったのに。

 確かに彼女はフェリクスとの政略結婚を嫌がっていた。だが悲劇に酔っていたとはいえ、結婚自体をぶち壊そうとはしていなかった。

 まさかここへきて、こんな形でぶち壊そうとしてくるとは。多方面に喧嘩を売って……勝算もないのに。

(……いや、あるのか。……彼女の中では……)

 ルシンダが見た未来は彼女とドミニクが結ばれるものだ。だからこの現在の状況は間違っている、そう素直に信じている。

 サンドラはもちろん未来を視たことがないから分からない。そんなに確信をもって信じられるものなのかどうか。記憶以外に証拠もなにも残らない未来視、それはもはや夢と変わらないレベルの不確実さだとサンドラなら思うのに。

 エイミーはぎりっと唇を噛んだ。

「本当に、馬鹿にしているの!? それとも馬鹿なの!? あなた、自分の立場というものが分かっていないようね! 王国の代表として帝国の皇子殿下と結婚する身でありながら、その臣下といい仲になるだなんて……ありえないわ! 恥を知りなさい!」

(もっと言ってやって!)

 思わずサンドラは応援した。彼女に加勢したいくらいだ。……立場が許さないが。

「まあまあ」

 取りなしたのは、こちらに歩いてきたクロフトだった。

「噂は噂だ。違うかな、巫女姫殿?」

(あああ……ごめんなさい、宰相閣下……)

 サンドラが何もできずにいるせいで、とうとうクロフトが動くことになってしまった。

 申し訳ないが、ルシンダはサンドラの手に負えない。クロフトから彼女のことを任されているのに不甲斐ないが、クロフトが出てきてくれてほっとしてしまった自分がいる。

 クロフトは力技で巫女姫の結婚をそのまま進めようとしている。これだけ噂になってしまったことを無かったことにはできないから、帝国へは頭を下げたりお金を出したり便宜を図ったりすることになるだろう。だが、それで片がつくという判断だ。まだ取り返しはつくと。これは巫女姫の不始末ではあるが、帝国の護衛騎士の不始末でもあるのだから。

 違うかな、とルシンダに話しかけているようで、実際は圧力をかけている。肯定以外の返事を求めていない。長く政争の中に身を置いてきたクロフトの貫禄はさすがの一言で、穏やかな物言いながら眼光の鋭いクロフトに気を呑まれたルシンダは頷くしかできないようだった。

 だが、この事態がそれで片付くはずもなかった。

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