結末はお約束の大団円編03
サンドラは神を信じていない。祈れば何とかなるなどとは思っていない。人は自分の力で状況を打開していかなければならないものだ。
だからルシンダの発言には共感できないでいた。頑張れば神が見ていてくれるなどというのは、小さい子供に対する方便のように思っていた。
だが……
(こんなふうに自分の力で何とかしようとしないで欲しかった……!)
サンドラは紙をぐしゃりと握りつぶした。
その紙には、ルシンダの筆跡でこう記されていた。
――ドミニク様と駆け落ちします。探さないでください、と。
(どうしてそこで余計な行動力を発揮する……!? 神様が見てくれているのではなかったの!? 事態が改善するのを神に祈って待つのがお決まりの行動パターンではなかったの……!? そもそも駆け落ちって……上手く行くと思っているの……!?)
話が違う。山ほど文句を言ってやりたいが、そもそも文句を言う対象がここにいない。
山のような文句を心の中に押し込め、サンドラは素早く行動を開始した。人を使ってクロフトに伝言をし、ルシンダの行き先の手がかりを探し、今日の彼女の予定をすべてキャンセルする。キャンセルが今日だけで済むか、それとももっと重大なことになるか、それはとりあえず考えないことにする。
諸々の手配と伝達を最小限の手間と時間で済ませ、サンドラはフェリクスのところへ向かった。もちろん、甘い気持ちなど微塵もない。もう一人の当事者であるドミニクのことを確かめるためだ。
フェリクスは人を招いて歓談をしていたところだったが、サンドラの深刻な調子を見て非常時だと分かってくれたらしい。申し訳ないがまた時間を作るからと約して客を帰し、サンドラを室内に招いてくれた。
「これをご覧ください。ルシンダ様の筆跡で間違いありません」
サンドラはルシンダの書き置きを見せた。口で説明するよりも手っ取り早いし、うまく説明できる自信もない。なにせ自分もまだ理解が追い付いていないのだ。
フェリクスは素早く視線を走らせ、愕然とした表情になった。いつも余裕の笑みを浮かべている彼がこれほど驚くのを見るのは初めてだ。
「ドミニク様はどちらにおいでですか?」
「鍛錬……だと思っていたけど、これが本当なら訓練場などにはいないだろうね」
かすかに期待したが、やはりここにもルシンダはいなかった。ドミニクだけがいてルシンダの出奔を知らなかったという展開にもならなかった。二人が揃って姿を消している。
それにしても展開が急すぎないだろうか。ルシンダがドミニクに首ったけなのは知っていたが、まさかドミニクの側も応じるとは思ってもみなかった。サンドラの目から見て、彼は実直で朴訥とした騎士だ。浮名を流すタイプではないし、そもそもルシンダの思いに気付いているのかいないのか分からないような対応をしていた。ルシンダを邪険にするわけではなかったが、恋焦がれるような様子を見せていたわけでもない。生真面目に頷いたり相槌を打ったりしていただけだ。
彼の性格を考えても腑に落ちないが、現実にこうなってしまったからには切り替えるしかない。
フェリクスも切り替えたらしい。立ち上がり、直ちに行動に移った。
「まだ駆け落ちと確定したわけではないけど、ひとまずはそれを前提として動こう」
フェリクスはサンドラよりも使える人員が多い。指示を飛ばしてドミニクを探させたり自身の予定をキャンセルしたりしつつ、合間にサンドラと情報を共有した。
「この書き置きはいつのものか分かる?」
「おそらく昨夜かと。使用人や教師たちに確認しましたが、今朝からルシンダ様の姿を見た人がいません。出奔は深夜から朝方にかけてかと」
「情報助かるよ。こちらでもドミニクの行動と突き合わせて確かめよう。それと、駄目元で聞くんだけど……行き先に心当たりはある?」
サンドラは首を横に振った。
「いいえ、全く……。一応、教会など彼女に縁があった場所を探させていますが……駆け落ち先や立ち寄る場所としては選ばないかと……」
探し物をする時と近い感覚だ。多分ないだろうとは思っても、身近な場所を真っ先に探し、可能性を潰す。
「場所は駄目か。なら日時についてはどう? 今日である必然性はあったのかな」
「そうですね……。今日は午後に数名の来客を予定していたくらいで、午前中も大きな用事は入っていませんでした。抜け出しやすいタイミングではあったかと思います」
サンドラは少しだけ躊躇ってから言った。
「……それと、私と少し口喧嘩のようになってしまったから……そのせいもあるかもしれません。私が彼女を追いつめてしまったのかも……」
サンドラがルシンダを窘めるようなことを言うのも、その結果として彼女が泣くのも、時々あることだ。
いつもはサンドラがすぐに折れるというか堪えて関係を修復してきた。しかし前回はそれができなかった。
焦りもあった。苛立ちもあった。認めたくないが認めざるを得ない。……私情が混ざった。
「君は悪くない」
フェリクスはそう言ってくれるが、とても頷けない。
「いいえ、私の責任です。責を負わなければ」
「いや、それは違うよ。その人の行動はその人の責任だ。君は背負い込みすぎだ」
「いえ……」
サンドラは首を横に振った。
そこへ知らせが入ってきた。ばたばたと走ってくる足音の後に、息を切らしてフェリクスの侍従が伝えた。
「手がかりが掴めました!」




