結末はお約束の大団円編01
最近のサンドラは悩みが深い。
フェリクスの前で色々と流し出してしまったのだが、心が整っただけで悩みの種自体は健在だ。おまけに、新たな悩みの種まで蒔かれる始末だ。
「殿下……私はこういうものを頂くわけにはいかないと何度申し上げれば……」
「婚約者にものを贈るのは普通どころか礼儀でさえあるし、それなら周りの人にも少しくらい気遣いをするのも当然だよね。何もおかしなことなんてないよ」
山積みの箱を贈り物として運ばせ、いい笑顔で言うフェリクスに、サンドラはふるふると震えた。
(少しくらい、じゃない……!)
サンドラに贈られたものは、南国でしか咲かない花をブーケにしたものや、帝国の流行の先端を行くドレス、聖王の身代金にでもなりそうなジュエリー、……を手始めとした諸々だ。わりと目が肥えているサンドラにさえ値段の想像がつかないものもある。
(どうしよう……賄賂以上にたちが悪いのだけど……)
断れないところなど、本当にたちが悪い。しかも始末に負えないことに、サンドラは……贈り物を喜んでしまっている。高価なものは遠慮したいが、彼が自分のために選んでくれたことを嬉しいと思ってしまっている。色合いも寸法も、ルシンダではなく自分に贈られたとはっきり分かるものばかりだ。そういった心遣いを……好きな人からされて、嬉しくないわけがない。
フェリクスには絶対言えないが、花束に付けられた直筆のカードはこっそりと宝物として仕舞っている。乾燥させた花びらとともに。
(私の恋も……花びらのように乾かして仕舞っておければいいのに……)
サンドラは切実に思った。
自分の使命は、皇子と巫女姫を無事に結婚させることなのだ。その通りにするかどうか――できるかどうか――は別の話だが、皇子を巫女姫に夢中にさせろと聖王から言われてもいる。自分の恋心は邪魔者、障害でしかない。
フェリクスはルシンダに関心がないようだが、そつのない彼のことだ、彼女とも上手くやっていくだろう。サンドラが考えるべきなのは、どうやってルシンダにフェリクスとの結婚を受け容れさせるかということだ。
(心が痛い……)
ルシンダがフェリクスのことを好きであれば、自分は恋心を封印して応援に徹することができた。だが、何とも思っていない二人をくっつけるために自分の恋心を踏みにじってしまうと……やはり、じくじくと痛む。
「どう?」
フェリクスが首をかしげてサンドラの顔を覗き込んでくる。いたずらっぽい表情の中に、わずかにこちらを窺うような……気に入ってもらえたかと案じるような色が混ざる。
(…………!)
反則だ。見目の良い青年のふとした表情というだけなら眼福で済ませられるが、それが好ましく思う相手であるなら話はまったく別だ。心臓に悪い。心が痛い。
サンドラは自覚した恋心をなんとか押し込めて頑張ろうと思うのに、フェリクスはこうやってちょっかいをかけてくる。あれ以降、距離が近い。
(やっぱり、涙を……隙を見せてしまったせいでしょうね……)
彼は紳士的に横を向いていてくれたし、室内のルシンダたちから見えないように気を遣って体で隠したりもしてくれた。弱っているときにそんなふうに気遣われたら……どうしようもない。口説かれただけなら流せばいいだけだが、そんなふうに行動で示されると弱い。
人前で……というか、涙を流したこと自体ものすごく久しぶりだ。下手をすると父母と別れた時以来かもしれない。泣いた後の瞼の腫れを引かせる方法などは知っていたし、侍女として使う機会もあったのだが、まさか自分で役立てる日が来るとは思ってもみなかった。
「見て。今日はこういうのもあるんだ」
「あの、ですからこれ以上は…………!?」
フェリクスが宝石箱を取り出して開けてみせる。中にはもっと高価なものが入っているのだろうと恐々としたサンドラは、内部に何かの機構が入っているのを見て驚いた。
そして、さらに驚く。なんと宝石箱から、美しい音が零れ出してきたのだ。ルシンダにも同種のものが贈られたらしく、そちらからも彼女が驚く声とともにぽろぽろとした音色が聞こえてくる。
「オルゴールというんだ。きれいでしょう? 内部にぜんまい仕掛けの細かい機構が入っている。帝国では最近、音への関心が高まっていてね。こういうものが職人の手によって作られたり、技術者が部屋の音響効果を……」
サンドラはフェリクスの話を聞きながらオルゴールに見入った。音がやがてゆっくりになって止まってしまうと、フェリクスは箱の横についたぜんまいを巻き、また音を奏でさせた。
(帝国の技術ってすごいのね……)
そういえば最近は、帝国からの技術者が城のあちこちを改修していたりする。もしかすると技術供与もあるのかもしれない。巫女姫を貰い受けることへの見返りといったところか。
(見返り、か……)
そう、この婚約は進んでいるのだ。いくらルシンダが騎士に夢中でも、皇子の腹が読めなくても、二人の結婚はもはや秒読みだ。ドレスや宝飾品の準備も着々と進んでいる。
「……やっぱり、受け取れません」
サンドラがオルゴールを押し返そうとするのをフェリクスが止めた。
「気に入らなかったなら持って帰るよ。でも、そうではないのなら君に持っていてほしいな」
「でも……」
「欲しいものがあるなら手に入れればいい。僕はね、欲しいものは全部手に入れる主義なんだ。覚えておいて」
その言葉の含みは明らかだ。
サンドラは途方に暮れた。




