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恋の障害排除編14

 そして、彼に累が及ぶくらいなら、自分のことを切り捨てた方がずっとましだ。

 聖王が言った「最後の王国法」というのは、王の有罪が確定された時の法律だ。法律はそれを最後に王国法ではなく議会法と名前を変えた。

 王を断罪したその法律は、王の近しい係累や王を助けた者の有罪をも定めている。だからサンドラの存在が明るみに出てしまえば、クロフトは厳しい処罰を免れない。王の子の存在を隠し、自分で後見までして育て上げたとなると、どんな求刑になるのか……考えたくもない。クロフトは王国に必要な人材だが、その必要度合いは年々薄れてきている。王政がなくなった直後こそどうしても必要だとされて上院に組み込まれたが、そこから結構な年月が経ち、国も安定して後進も育ってきている。国に必要だから法を曲げろ、と言うのは無理だろう。彼がいなければ国が立ち行かなかった時代とは違うのだ。

 そして芋づる式に、当時協力してくれた人たちのことまで探り出されて……暴き立てられてしまいかねない。恩のある人々をそんな目に遭わせたくない。

 それに、父母のことも。

 聖王の脅しは……サンドラが言うことを聞かなければ、父母の墓を暴いてやるという意味だ。安寧を妨げ、遺骨を罪人のものとしてごみ捨て場に捨て、鳥や獣に漁らせてやるということだ。

 クロフトのことも父母のことも、それは絶対に我慢できない。

 自分だけのことなら諦めたかもしれない。でも、自分のせいで周りまで巻き込んでしまうのは絶対に嫌だ。

 落ち着こうと努め、サンドラは言った。

「向こうにとってもこの情報は切り札ですから、そうそう切ることはないはずです。すぐにばらされる可能性は低いはず」

 戦うと決めたサンドラの様子に、クロフトは少し安心した顔をした。

「そうとも。それに、戦う意志さえあれば、お前ならきっとどうにかできる。私も力を尽くそう。その時間を稼ぐためにも、今はなるべく聖王の言葉に逆らわないように動くのがいいだろう」

「そうします」

「して、何をしろと脅されたのだ? まったく呑めない要求であるなら話は変わってくるのだが……」

「それが……巫女姫を無事に輿入れさせよと。それだけでなく、皇子を巫女姫に夢中にさせ、聖王が皇子の手綱を握っておけるようにしろと……」

「ふむ、なるほどな。それならまだ良かったではないか。方向性は変わっておらんし、無茶な要求をされたわけでもない」

(それが無茶なんです! 無理難題なんです!!)

 だが、そんなことを言えるはずもない。サンドラは引き攣った笑みを浮かべ、頑張ります、とだけ答えた。


「……どうした?」

「…………え?」

 ルシンダがいるだろうフェリクスの滞在場所へ向かったサンドラは、珍しく笑みを浮かべていないフェリクスに出迎えられた。彼は案じるような視線をこちらに向けているが、サンドラにこんな表情を向けるのは初めてだ。胡散臭い笑みが消えるだけで彼の印象がまったく異なるものになった。こちらを見透かすような青の瞳、額にかかる金の髪、はっとするほど整った容貌、均整の取れた体格。恵まれた容姿だけでなく、頭の回転の速さや学識、帝国で切磋琢磨してきた経験まで備わっている。控えめに言っても完璧な皇子様だ。

(この皇子様を……ルシンダ様に夢中にさせる…………?)

 ちょっとどうしていいか分からない。そしてそのルシンダは護衛騎士に夢中だ。

 とりあえずいつものように、サンドラは表情を取り繕った。侍女として笑顔は必要になる場面があるが、常に浮かべればいいというものではない。相手の虫の居所が悪いときは、何をへらへらしているのか、と咎められることもある。笑顔ではなく無表情を基本に、やや真面目な雰囲気を足し、なるべく自然さを心がける。風景に溶け込み、視線を向けられたときになるべく引っかかりがないようにするのが理想だ。

 だが、いつものようには装いきれなかったらしい。フェリクスは目を眇めた。非難する様子はないが、これは咎められたととしても仕方ない場面だ。

(いけない、まだ動揺が尾を引いている……こんなことではいけない)

 サンドラはさらに自然な表情を作ったが、フェリクスはごまかされてくれなかった。少し何かを考えていたかと思うと、彼は硝子戸を開け、バルコニーに椅子を二脚持ち出した。手すりに近いあたり、室内から遠い場所に椅子を据え、さらには小さな丸テーブルも運んでいく。

「殿下?」

 ルシンダのお喋りに生真面目な相槌を打っていたドミニクがそれを見咎めた。フェリクスは二人に言った。

「こちらは気にしないで。ちょっと彼女と話をするから外でお茶でもと思ってね。二人はそのまま室内で話を続けていて」

「それなら私が外に……」

「巫女姫を外に出させるのは気が引けるから君はそこにいなよ。今日は天気も良くて風も気持ちいいから大丈夫。僕たちは外で話しているから」

「え!?」

 当のサンドラが置いてきぼりだ。いきなり何を始めたのかと思ったのだが、そういうことなら自分が椅子などを運ぶべきだった。ぼうっとしすぎだ。

「殿下、申し訳ありません! それに、その、お話なんて……」

「いいからいいから、僕がお喋りしたいだけだから。あの二人の話を聞いていたら退屈で眠り込んでしまいそうだし、僕を助けると思って」

「……ありがとうございます……」

 さすがに額面通りには受け取れないが、そんなことを言われたら断れない。こうしてサンドラはバルコニーでフェリクスとお茶をすることになった。

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