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運命の出会い演出編02

 クロフトの言葉にサンドラは少し考えた。

 国力の圧倒的な差を考えるに、王国が帝国の傘下に下ることは避けられないだろう。そうした状況の中でもなるべく国の形を保っていくために、可能なら帝国領の中でも独自性と存在感を保つために、巫女姫の婚姻が重要なのだ。

 巫女姫には、国を象徴する存在として幸福な花嫁になってもらわなければならない。少なくとも民からはそう見えるようであってほしいし、民に安心感を与えてほしい。そして夫となる帝国の皇子と良い関係を築き、可能な限り夫を盛り立てて、帝国の中でも発言権を確保してほしい。属国であっても国としての立場を強めてほしい。そういうことだろう。

 サンドラは言葉を選んだ。

「……それは、少々……難題でございますね……」

 少し考えただけでこれだ。どれもこれも、世俗に染まっていないだろう巫女姫には荷が重すぎる。神への奉仕は学んでいるだろうが、国への奉仕はまったく別の話だ。そうしたことは、それこそ王女が時間をかけて身につけていくものだ。

「一応確認させていただきたいのですが、巫女姫様は……」

「幼少期に素質を見いだされて教会に入られたと聞いている。お生まれは平民階級で、裕福な家ではあったようだが貴族令嬢のような教育は受けておられないそうだ」

「……お輿入れの時期は……」

「早ければ一年。遅れるにしても二年以内だろう」

「…………一年、と。……申し訳ありませんが再度確認をさせていただきたく。先ほど、私に動いてほしいと仰いました…………?」

「言った。お前に、巫女姫付きの侍女になってほしい」

「………………」

 サンドラは沈黙し、天を仰いだ。失礼なふるまいであることは承知しているが、そうせずにはいられない。

 クロフトが言葉を重ねた。

「巫女姫様は、少々、その……世間知らずでいらっしゃるようなのだ。だからお前に頼みたい」

「話が繋がっていませんが!?」

 サンドラは思わず突っ込んだ。何が「だから」なのだ。

 クロフトは「おやおや」とでも言いたいように眉を上げてみせたが、サンドラは恐縮せずに視線を返した。クロフトは肩をすくめた。

「では話を繋げようか。お前は数々の名家で経験を積み、城での教育も受けた優秀な侍女だ。年頃も巫女姫様と近い。だから同性の友人として、良き相談相手として、頼れる教師として、巫女姫様の婚姻を成功に導いてほしいのだ」

 サンドラは胡乱な顔をした。

「……一介の侍女には荷が重すぎるのですが。教師はおつけになるはずですよね?」

 相談相手になるのは侍女の領分だが、友人や教師という肩書はついでのように同列に並べられるものではないはずだ。求められるものが多すぎる。

「もちろん用意する。だが、考えるまでもなく間に合わない」

 クロフトは首を振った。

「巫女姫様は少々浮世離れして天然なところがおありだが、教会で過ごしてこられたからだろうか、勤勉で素直な性質でいらっしゃるようだ。だが……いかんせん、時間が足りなすぎる」

 一年という期間は目安のようだが、帝国をいつまでも待たせておくわけにはいかないだろう。しびれを切らして武力行使されては事だ。明確な期限があるわけではないが、それゆえに厄介だ。

「教育は並行して進めていくが、付け焼刃の知識では太刀打ちしきれないだろう。だから優秀な侍女であるお前に傍についていてほしいのだ。これから彼女は人前に出る機会も増える。値踏みされたり悪意にさらされたりする機会も増えるだろう。だが、折れてもらっては困るのだ」

 巫女姫という存在は王国に一人だ。だから当然、替えがきかない。彼女に逃げ出されたり潰れられたりしたら終わりなのだ。

 巫女姫との婚姻がうまくいかないとなると、帝国は間接的な統治という道を選べないことになり、王国にとっては好ましくないことになってしまう。要は完全な属国化だ。そうではなく、形だけとはいえ自国の者を上に立てて国の形を保つことが望ましいのは言うまでもない。

「……巫女姫様の重圧が大きすぎますね……」

「私もそう思う。だが、耐えていただくしかない。私たちは全力でお支えするのみだ」

 王国を取り巻く事情が特別というわけではない。他国の王女たちは同じ重責に耐えて国外に嫁いだりするものだ。

 だが、生まれながらの王女とは違い、巫女姫は心の準備ができていない。心構えも、知識も、経験も、何もかもが足りない。それは確かに、今から教師を雇って教え込むにも限度があるだろうと思われた。

「お前しかいないのだ、サンドラ。お前の有能さをもって巫女姫様のお傍に侍り、お支えし、お助けし、帝国との間に強固な婚姻関係を結べるよう動いてほしい」

「……――――」

 それは明らかに侍女の範疇を超えている。工作員まがいのことも必要になるだろう。

 だが、サンドラに断る選択肢はない。クロフトに恩があるから、能力を買ってくれているからというだけでなく、ここまでの事情を聞かされたら断れないではないか。自分の手の届かないところで国が沈んでいくのを見て見ぬふりなどしていられない。

 難題だ。だが決して、太刀打ちできないとまでは思わない。

 必要な知識と経験が足りていない巫女姫に仕え、うまく補佐し、輿入れを成功に導く……やるしかない。

 サンドラははっきりと頷いた。

「かしこまりました。お受けいたします」

 クロフトは重々しく、しかし満足そうに頷いた。

「お前ならできるだろう。……お前しかできないかもしれない」

「それは過分なお言葉かと。ですが、全力を尽くします。……すでに教会と公爵家には話を通しておられるのでしょう?」

「その通りだ。今日の午後三時に巫女姫様の私室に向かうように。公爵家への挨拶は後でいい。そちらは私が何とかする」

 片手間にできることではないから、公爵家の侍女という立場は返上することになる。だが惜しいという気持ちはない。侍女として誇りをもって職務に当たっていたが、王国の筆頭公爵家の侍女の立場は望めばまた得られるだろう。そのくらいの自信はある。

 クロフトはサンドラが話を受ける前提ですでに動いていたようだが文句はない。侍女として、そのあたりは察するのみだ。余計な説明の手間はかけさせない。

 クロフトの身じろぎに話の終わりを悟り、サンドラはすっと立ち上がって完璧な礼をした。

 姿勢よく歩き去っていく後ろ姿を見送り、クロフトはぽつりと呟いた。

「サンドラ、お前ならできる。お前ならきっと…………」

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