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恋の障害排除編08

「ねえ、巫女姫についてどう思った?」

 サンドラとルシンダを見送ったあと、フェリクスは自身の護衛騎士ドミニクに尋ねてみた。

 フェリクスは椅子にくつろいで座り、組んだ足を投げ出しているが、ドミニクは椅子に座ってこそいるものの四角四面に背筋を伸ばしている。本当ならずっと立っていたいらしいが、肝心なときに疲れて動けないのは困ると諭したので彼も一緒に座るようになっている。とはいえ居心地が悪そうで、主と対等の存在のように座るのは文字通り座りが悪いと思っていることが透けて見えている。そんな様子も面白いのだが。

 フェリクスとドミニクは幼い頃からの付き合いだ。年はドミニクの方が四つ上で、小さい頃の四歳差は大きく見えがちな上にドミニクは昔から体が大きかったが、彼のことを脅威に思ったことはない。なんなら図体が大きい大型犬のように思うこともある。主人の傍を離れない、忠実な護衛だ。

 その忠犬は真面目くさって答えた。

「は……大変お可愛らしい方かと。殿下に似合いの花嫁になられることでしょう」

 フェリクスは遠慮なく吹き出した。

「ふっ……あはは、そうか! 可愛らしいか! 僕に似合いか!」

「は……」

 なぜ笑われたか分からない、とドミニクの顔に書いてある。フェリクスはからかいたくなって言ってみた。

「君、ああいう子が好み?」

「……!? 私の好みがどうという問題ではありません! 客観的に見て、可愛らしい方かと……」

「うん、まあ確かに、小柄でふわふわして可愛らしいよね。……僕はもっとしっかりしていて、ついでにからかい甲斐のある子が好きだけど」

「? 何と仰いましたか?」

「ううん、ただの独り言」

 口の中だけで呟いた言葉をドミニクに聞かせるつもりはない。サンドラの良さをわざわざ教えてやるつもりはない。

 ドミニクはしみじみと言った。

「巫女姫様、お可愛らしいではありませんか。殿下を目の前にして意識しすぎて碌に話しかけることもできず、緊張を紛らわそうと私に話しかけてこられたところなど……」

「…………君の目にはそんなふうに見えていたの…………?」

 さすがにフェリクスも素で驚いた。ドミニクがこの手のことに鈍いのもあるが、巫女姫がフェリクスを憎からず思っていると信じて疑っていない。自身の忠誠心が高いあまり、フェリクスを高く評価するあまり、他人もそうだと思い込んでしまっているのだ。

(……案外、本当にお似合いかもね……)

 意味深な視線を向けるとドミニクがたじろいだ。そんなところだけ鋭い。

 一応、彼は彼で有能なのだ。護衛としての腕前は申し分ないし、常に鍛錬を怠らない。忠誠心も見上げたものだ。半ば気まぐれと成りゆきで彼を召し抱えただけだというのに、そのことをずっと恩に着てくれている。

(気配にも敏い、悪意にも敏い、頭の出来も悪くない、それなのに……どうしてこうも恋愛面だけポンコツなんだろう……)

 彼は強面ではあるが見た目は悪くないので、それなりにアプローチを受けることもある。真面目な堅物だというところを好む人も一定数いるだろう。

 それなのに、気付かない。まるで気付かない。脈がないと思って諦めた相手が去っていっても、最後まで気付かない。

 そのせいで護衛は皇子と出来ているのではなどと密かに噂され、一部の層を喜ばせていたりもするのだが、知らぬが花だろう。彼に知らせてみたらどんな顔をするか見てみたい気もするが。

「ねえ、君は結婚する気ないの?」

「今のところありません。考えるとしても、殿下が結婚なさってからです。ずっとお傍でお仕えしとうございますし、それなら結婚などしなくてもよいと思っております」

(なるほどねえ……)

 精悍で体格の良い騎士から、こんなふうに一心に忠誠を捧げられてみたいと望む女性の心理が少しだけ分かるかもしれない。守られたい心を満たしてくれそうだ。

(あの巫女姫も、まあ……趣味は悪くない、と言っておこうかな)

 だが、趣味が良かろうが悪かろうが、天真爛漫な少女というのはフェリクスの守備範囲外だ。付き合うならもっと面白い相手がいい。……たとえば、あの侍女とか。

 フェリクスはこれでも帝国の皇子だから、政略結婚の必要性は理解しているし受け入れている。自分を駒として客観的に見ることができる。割り切っている。

 だから巫女姫がどんな者であろうと笑顔で愛を誓うつもりだった。少なくとも外面は仲睦まじく過ごし、他の相手に慰めを求めるにせよ悟らせる愚は犯さないつもりだった。

 だが、ここに来て少し流れが変わったかもしれない。まさかこんなにあからさまに、巫女姫が自分に興味がないと示してくるとは思ってもみなかった。

 正直、それはまったく構わない。自分も彼女に興味はない。観察対象として興味深くはあるが。

 問題はもっと別のところにある。政略結婚をする二人が好き合っている必要はないが……好き合っているふりをする必要はある。結婚の建前を守る必要がある。ましてこれは国単位での結びつきだ。

(帝国に併合される可哀そうな国の可哀そうなお姫様……にはならなさそうで良かったけれど……)

 そうさせなかったのは侍女の力だろう。巫女姫のマナーやダンスがどうのとか監督不行き届きとか言いはしたが、フェリクスはサンドラを咎めるつもりなどない。なんなら高く評価している。……からかうと面白いところも含めて。

(クロフト宰相を後見人とする侍女、ね……)

「殿下……悪い顔をしておいでです……」

「失敬な。こんなに笑顔の似合う好青年の僕に向かって」

 うさんくさいと自覚する笑みを浮かべ、フェリクスはドミニクにいけしゃあしゃあと言ってのけた。

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