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恋の障害排除編06

「お茶会、すごく楽しかったわ!」

「それはようございました…………」

 元気いっぱいで上機嫌なルシンダに、サンドラは死んだ目で応えた。こちらは疲労困憊だ。死ぬかと思った。……巫女姫の社会的立場が。

(……まあ失言があっても何とかするしかないのだけど。本人がこれでは先が思いやられるったら……)

 お茶会は無事に終わったが、ある意味まったく無事ではなかった。ルシンダの精神面は無事だがサンドラの精神は死にかけ、そして後々の火種になりそうなこともあった。

(エイミー・ロートレット。ロートレット家ね……)

 サンドラは記憶を探った。ロートレット侯爵家……エイミーの父が当主だ。当然のように上院議員を輩出する名家で、教会とは距離を置いている。巫女姫の輿入れは教会の権力を大きくするので、それを牽制する立場だということだ。話が進んでいるということもあり、他に皇子の妃に適する女性がいないということもあり、結婚自体は避けがたいが、娘を側室にさせてロートレット家の権力拡大を目論んでいるのだろう。

 ということをルシンダに説明すべきか、サンドラは少し迷った。彼女は当然知っておくべき事柄だが、なんだかもう何も知らないままの方が彼女は上手くやってくれそうな気がしてきた。

(……そこで投げては駄目でしょう、私!)

 サンドラは頭を振って気を取り直した。このことはいつか機会を見て彼女に説明することにして、今はとにかく、何よりもこれだ。

「ルシンダ様。くれぐれも、婚約者のふりをお忘れなく。ふりをしなくていいのはこの部屋の中だけです」

「分かったわ」

 ルシンダもさすがに神妙に頷いた。国を挙げての結婚準備を台無しにしてはいけないことを、彼女もさすがに分かっている。

 だが、心から分かっているかというと怪しい。最終的には自分がドミニクと結ばれることを疑っておらず、ということはこの婚約もなくなるものだと疑っていない。

「……ルシンダ様、どうしてそんなにドミニク様のことがお好きでいらっしゃるのです?」

「え? それはもう、一目見ただけで分かったからよ。わたくしの運命のお相手は彼だって……」

 頬に手を当て、どこか遠いものを見る目でうっとりと呟く。サンドラは匙を投げた。一目惚れということでしかない。手の施しようがない。

 彼女の脳内のことは放っておいて、とにかくも外面だけは保っておいてもらわなけばならない。サンドラは念を押した。

「フェリクス様の婚約者というお立場がなくなれば、ドミニク様にも会えなくなります。それに、皇子に忠実な騎士殿は、ルシンダ様が皇子の婚約者の立場をないがしろになさったら不愉快に思われるでしょう。騎士殿に嫌われないためにも、どうかそのお立場はお守りください」

「……分かったわ。ドミニク様に嫌われてしまうのは嫌ですもの」

 さっきよりも神妙にルシンダは頷いた。本当に分かってくれたのか怪しいが、ひとまずこれでよしとする。

「……それで、サンドラ……」

 ルシンダはもじもじと指を組んだ。

「あのね、これからドミニク様のところに行きたいのだけど……」

「ルシンダ様。そういうときは、フェリクス様のところへ行きたいのだと仰ってください」

 溜息を押し殺し、とりあえずそこだけ訂正しておく。そもそもドミニクのところへ行きたがるなという話ではあるが、自由時間の自由行動を止める筋合いはない。本音を言えば全力で止めたいのだが、止めたら止めたで碌なことにならない気がする。

 ルシンダは素直に頷いた。

「分かったわ。同じことだものね」

(ああ……フェリクス様の扱いが……)

 皇子が完全に護衛騎士の添え物になっている。サンドラは遠い目になった。

 気が遠くなりそうでもあるが、諄々と諭す。

「そう、同じことですので……これから『ドミニク様』と仰りたいときは代わりに『フェリクス様』と仰ってください。そのくらいでちょうどいいかと」

「そうするわ」

 頷くルシンダに、サンドラはさらに念を押した。

「くれぐれもフェリクス様を第一に扱うようになさってください。そうでないと騎士殿にも会えなくなりますから」

「分かったったら。サンドラってば心配性ね」

 切実な思いで言うサンドラに、ルシンダはおかしそうに笑った。

(解せない…………)

 こちらの心配を斜め上に軽々と飛び越える存在にそう言われるのは納得いかない。

 化粧直しを済ませて、髪型やドレスも問題ないか確認し、ルシンダはうきうきと上機嫌でフェリクスの――もとにいるドミニクの――もとに向かう。

 さきほどのお茶会に出席していた令嬢の一人がその様子を偶然見かけ、フェリクスとルシンダの仲が良いというサンドラの言葉を思い出し、あれはやはり事実だったのかと更に誤解を深めるのだった。

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