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恋の障害排除編05

「ようこそお越しくださいました。急なお誘いなのに来てくださって嬉しいわ。どうぞおかけになって」

 庭に着いた二人の前に、主催者なのだろう金髪の令嬢が進み出て挨拶をした。表情も言葉も、表面上はにこやかだ。だが、言葉には多分に棘が含まれている。「やっぱり暇なのね」といったところか。

 彼女はルシンダの髪色に似たピンク系統のドレスを纏っており、露骨に挑発していた。あわよくば色被りを狙って恥をかかせてやろうという魂胆が見えていた。

 だがルシンダは当然そんなことには気付かない。こちらもにこやかに――こちらは内心の通りに――挨拶を返した。

「お招きありがとう。これを機にお近づきになれたら嬉しいわ。お名前を教えてくださる?」

 ルシンダの言葉に辺りがざわついた。お茶会の出席者とみられる令嬢たちが十人弱おり、主催者の令嬢と立場を同じくする者や、付き合いで仕方なく出席せざるを得なかったと見える者もいる。

 サンドラは素早く顔ぶれを確認し、注意の度合いとともに記憶に留め、もちろん即座に顔と名前を照合していた。家族構成などの背景事情も思い出していた。

 しかしルシンダはそもそも何も記憶していなかった。

(初っ端からそう来たかーーーー!!)

 サンドラは冷静な表情を保っていたが、内心では盛大に叫んでいた。

 金髪の令嬢はひくりと頬を引き攣らせた。

 ルシンダは主催者の名前を知らないと堂々と宣言したのだ。失礼にもほどがある。

 だが、そもそも失礼だったのは向こうの方だ。もちろん意図的に仕掛けている。だからこれは当然の帰結として、やり返しと認識された。

 だがそんなことをルシンダは知らない。名前も本当に知らなかったのだが、相手はそんな可能性を微塵も想像していないだろう。それなりの地位があり年頃も近しい相手をまったく認識していなかったなどとは。

 完全にルシンダの不勉強なのだが、結果的にこれは強烈なカウンターになった。お前など眼中にないという態度の現れのように見えた。

 金髪の令嬢はすうっと目を細めて名乗った。

「……エイミーですわ。エイミー・ロートレット。お見知りおきくだいませね」

「まあ、ご丁寧に。ルシンダですわ」

 ぴりっと空気が緊張をはらみ、油断ならない相手として巫女姫が認識されたことにサンドラは気付いた。しかし当の巫女姫はにこにこと言葉を言葉通りに受け取っている。刺すような視線もどこ吹く風だ。

(……このくらい突き抜けていられれば人生楽なのかもしれない……)

 一人だけ状況をすべて把握しているサンドラは遠い目になった。

 席に着き、香り高く熱いお茶が給仕され、ケーキスタンドに載せられた華やかなお茶菓子が勧められる。ルシンダは無邪気に喜んだが、喜んでいるのは彼女だけである。ぎすぎすした空気は継続中で、エイミーは反撃とばかりに言った。

「そういえば、巫女姫様は家名がおありにならないのでしたわね。なんでも生まれは平民だとか?」

 くすくすと取り巻きたちが笑う。気の弱い令嬢なら、まして貴族社会に気後れする平民上がりの少女なら、泣き出してしまってもおかしくないところだ。

 だがルシンダは平然としていた。むしろ相手を窘めるような表情で応えた。

「まあ、そんな仰りよう……あなたご自身を貶めてしまいますわ。身分など関係なく、人はみな神の前に平等な存在なのですから……」

(こんなところばかり巫女姫らしい…………!)

 優しく諭すように言ったルシンダに、サンドラは心の中で突っ込んだ。婚約者を差し置いて護衛騎士に一目惚れをするという最高に――というか最悪に――俗っぽいところを知っているサンドラにとっては欠片も心に響かない言葉なのだが、エイミーたちはたじろいだ。

「ふ、ふん! そうやって気取っていられるのも今のうちですわ! お堅い巫女姫様があのお美しい皇子様のお心をいつまで留めておけるものか、見ものですわね!」

 すぐ飽きられるのではないか。むしろそうさせるように、こちらからも仕掛けていく。そういう遠回しな宣戦布告だ。彼女は側室の座を狙っているのかもしれない。

 警戒するサンドラをよそに、ルシンダはいかにも困ったふうに言った。

「実はわたくし、皇子様より……」

「ルシンダ様! そんなに謙遜なさることはありませんわ! お二人は仲の良い婚約者同士でいらっしゃるのですから!」

(今、いったい何を言おうとした!?)

 サンドラは焦って言葉を被せた。ルシンダもさすがにはっとした表情になった。そういえば婚約者のふりをするのだった、と顔に書いてある。おおかた気の置けないおしゃべりでもしたかったのだろうが、それはアウトだ。一発退場だ。お茶会の場からではなく貴族社会から。

「皇子様より?」

 エイミーは聞きとがめた。ルシンダを視線で黙らせてサンドラが答えを返した。

「仰るようにルシンダ様は皇子殿下より身分が低くていらっしゃるので、気後れしておいでなのですわ。でも殿下は巫女姫様のことを気にかけてくださって……本当に、お似合いのお二人ですわ」

 厄介さ加減が。

 もちろんそこまで言葉にしなかったが、サンドラの言葉に実感が籠った。エイミーは悔しそうな表情になったが、実際のところを知っているサンドラは何とも言い難い気分になった。

 エイミーはその後も喧嘩を吹っ掛けるようなことを言っていたが、ルシンダは平気で捌いていた。……ように見えて、そのじつ何も分かっていなかった。

(…………大丈夫そうだけど…………大丈夫なの、これ…………?)

 ある意味大丈夫ではあったが、別の意味でまったく大丈夫ではない巫女姫の様子に、サンドラはそっと天を仰いだ。

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