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運命の出会い演出編15

 悲鳴を上げなかった自分を褒めたい。彼女はどうしてこうも、いつも人の苦労を台無しにしてくれるのか。

 だが、サンドラははたと思い直した。

(いや、むしろこれでいいのかも? フェリクス様に関心をお持ちなのは良い傾向だし。でも、この場で明かしていいの……?)

 サンドラと同様、フェリクスもすぐに立て直した。瞬きひとつで事態を飲み込み、微笑んで愛称を名乗った。

「フリック、と呼んでほしいな。ルシンダ嬢」

「フリック様……。それと、あの……」

「ルシンダ様! 差し出がましいようですが、あまり個人的なことをお話しになるのはよろしくないかと。城内でまたお会いになる機会もあるでしょうし、そろそろこのあたりで!」

 サンドラは強引に割って入った。フリック、もといフェリクスの機転のおかげで彼の身分に直ちに辿り着くところまでいかなかったが、これ以上はよろしくない。

 ルシンダはなおも名残惜しそうにしていたが、素直なのは彼女の美点だ。大人しく引き下がった。

「それでは、失礼いたします。またお会いできますよう」

「色々とありがとう。こちらこそ、そう願っているよ」

 挨拶を交わす二人の後ろで、サンドラは胸を撫で下ろした。

(よかった……これは上首尾と言っていいんじゃない? 和やかに終わったし、ルシンダ様が彼の身分に気付く前に彼個人と個人的な関係を築けたし、なんなら少しいい感じになっていなかった?)

 そんなふうに、二人の非公式の顔合わせは終わった。


 そして、二人の公式の顔合わせは――別の意味で終わった。

「サンドラ…………!」

(どうしてこうなった………………)

 サンドラは溜息を押し殺し、自分に縋り付いて泣きじゃくるルシンダの頭を撫でてなんとか気持ちを宥めようとしていた。ふわふわのストロベリーブロンドは触り心地がいいが、頭の中身がどうなっているのか、そちらの方が大問題だ。

 あの、非公式の顔合わせの後。このまま上手く事が運ぶのではないかと期待してしまったのが甘かった。

フェリクスと談笑していたし、なんなら彼に関心がある様子だったから、彼の身分を知っても大丈夫だろうと判断してしまったのが間違いだった。

(例えば「あなたはあの時の……!」「やあ、また会ったね……!」みたいに、お約束の運命の出会いを演出してみたつもりだったのだけど……効かなかったか……)

 帝国の皇子フェリクスとして紹介された彼を見たルシンダは、驚き、そしてショックを受けた様子だった。その後はまともに話もできずに退出し、こうやって、大失敗に終わった顔合わせの後始末をつけようとサンドラが困り果てているといったわけなのだ。

「あの方……皇子殿下だったのね……! わたくし、あの方と結婚しなければならないの……!?」

「ルシンダ様……お嫌ですか?」

 こくん、とルシンダは頷く。可愛らしい仕草ではあるが、心が荒んでいるせいか何でもわざとらしく見えてしまう。

「仲良くお話ししていらっしゃるようにお見受けしましたが……」

「それは……別よ……! 政略結婚なんて嫌だわ……!」

 サンドラは天を仰いだ。

(私に、どうしろと…………)

 政略結婚をしてもらう前提は動かないのだから、その状況でも相手のことを受け入れやすくなるように、関係を先に築かせて、身分を知らない状態で為人ひととなりを知ってもらおうとしたのに。

(……彼の為人がどうかということ自体、かなり怪しいけれど……)

 爽やかに笑ってはいるが、彼は腹の底が読めない。兄弟皇子たちを押しのけて王国の支配者の座を得たのだから、笑顔の通りに人畜無害な好青年ではあるまい。

 だが、悪い相手ではないはずだ。容姿も身分も財力も申し分なく、内面も性格はともかく有能さは疑いない。妻に乱暴をはたらくようなことがあるかどうかは未知数だが、こちらも国としての意地があるから巫女姫にひどい扱いをすることは許さない。それに、そうした弱みを握れば帝国の他の皇子と交代させることもできるだろう。やられっぱなしにはならないくらいの好材料はあるのだ。

 ルシンダにとって、悪い話ではないはずなのだ。……そもそも政略結婚を悪とするから、前提からすべてがひっくり返ってしまうのだが。

(どうしよう…………)

 無理に話を進めることはできない。嫌がる者に結婚を押し付けるのは非道だし、そもそも彼女には国を代表して幸せな花嫁になってもらわなければならないし、国のためには政略結婚をしてもらわなければならないし……あちらもこちらも立たない。

 困り果てたサンドラの耳にノックの音が届いた。

 サンドラは振り向き、扉の横に控えている護衛に注意をしようとした。誰も通すなと言っておいたはずなのに。

 扉が開き、サンドラは口を開き……そのまま固まった。

「彼を責めないでやってくれ。入らせろと僕が無理を言ったんだ」

「殿下!?」

 まさに問題の中心人物、フェリクスが部屋に入ってきた。

 びくりとルシンダが震え、目に新たな涙が湧き上がる。そんなルシンダを特に心も動かされた様子もなく見て、フェリクスはサンドラに言った。

「彼女と二人で話をさせてほしい」

「そんな状況では……」

「その状況を変えるためだ」

 フェリクスは相変わらず、笑顔ながら押しが強い。こんな状態のルシンダと二人きりで話など成立するのだろうか。

「君に関わることだ。僕の話を聞くだけ聞いてみてほしい」

 今度はルシンダに向かって言う。サンドラがはらはらと見守る中、ルシンダはなんと頷いた。

 ルシンダが頷いたことにもびっくりだし、美少女の涙にまったく絆された様子のないフェリクスにもびっくりだし、何が何やら分からない。

「……サンドラ、お願い」

 ルシンダに言われてしまっては仕方ない。サンドラは躊躇ったが頷いた。

「……では、私は外に控えております」

 礼をして外へ出、硝子戸をきっちりと閉める。室内で二人きりにさせるわけにはいかないので、硝子戸越しに見守らせてもらう。話は聞こえないが、険悪な雰囲気になったら割って入るしかないだろう。

 いったいどうなることやらと、サンドラははらはらしながら二人の会話を見守った。

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