運命の出会い演出編13
「ただし、必要以上のことを探るとなると話は別だ。趣味嗜好くらいならともかく、移動の行程や宿泊予定場所まで手際よく調べ上げられてしまうと、さすがに気になるんだよね。何か良からぬことを企んでいるんじゃないかと。僕の護衛騎士も驚いていたよ? 情報の集め方が素人のそれではない、って」
(……やりすぎた…………!)
しまった、と思うがもう遅い。結局そうした情報は使わなかったが、これは不審に思われても無理はない。
フェリクスはにこにこと微笑んでいる。しかしまったく優しそうには見えない。獲物をいたぶる猫のような笑みだ。敵意は感じないが……当然だ。猫がネズミに敵意を抱くわけがない。
「だからいちおう日程を変更して、前倒しで先触れなしにこの城へ来たわけなんだけど……これで君の計画は狂ったかな?」
(大いに狂いましたとも…………!)
サンドラは顔を覆いたくなった。彼がほのめかすような物騒な――たとえば暗殺とかの――計画ではないが、巫女姫と偶然を装って出会わせる計画が水の泡だ。相手に警戒心を植え付けてしまった。
サンドラは口を開いた。
「誓って、殿下をおびやかすようなことを企んでいるわけではございません。殿下がお越しになる道程やご宿泊の場所を知りたかったのは……どこかで、我が主とお会いいただけないかと思ったからでございます」
「……うん? 聞こうか。続けて」
「ありがとうございます。実は……」
サンドラは嘘にならない範囲で、嘘に聞こえない範囲で、ルシンダの事情を伝えた。……後者の方が難しかったことはきっと気のせいだろう。
巫女姫は箱入りで、帝国の皇子という立場を恐れており、このままでは顔合わせが上手く行かないのではと危ぶんだこと。立場を抜きにどこかで非公式に会っていただいて巫女姫に心の準備をさせてさしあげたかったこと。道中のどこかでお願いすることも考えたが、日程の問題もあり、やはり城の中しかないと考えたこと。どこで会っていただいたらいいか、候補として考えた庭を歩きながら考えをまとめていたこと。
決して、嘘ではない。夢見がちな巫女姫が帝国の皇子を当て馬役だと思っており、自分の運命の相手がこの不本意な政略結婚から自分を救い出してくれると思っていることを言っていないだけだ。恐れているというより嫌がっていると言った方が正しく、しかもそれも運命の出会いのスパイスのようなものと思っている節があることを伝えていないだけだ。
「……ふうん。うんうん、なるほど」
サンドラの話を聞いたフェリクスは一応の納得を見せた。
「まあ、嘘はついていないみたいだしね。一応そういうことにしておこうか。道中で暗殺とか買収とかハニートラップとかそういう話ではなさそうだし」
「誓って、そんなことはありません」
ぶんぶんと首を横に振るサンドラをフェリクスが面白そうに見た。
「君の話が本当なら、僕が巫女姫を怯えさせずに上手く関係を築ければ文句はないんだよね?」
「それは、もちろん。つつがなく婚約発表の舞踏会を終えていただくことが今の私の目指すところですので」
サンドラの真に迫った様子にフェリクスが少し身を引いた。
「……いやに真剣だね? ……そんなに心配?」
「心配性なのです。お許しください」
「……まあ、いいけど」
フェリクスは気圧されるように少し顎を引いて頷いた。
「じゃあ、君の望み通り、立場を抜きに巫女姫と話をしてみよう。君の言う通り庭がいいかな。少し挨拶をして、大丈夫そうならお茶でも一緒に飲んでみようか。セッティングはしてくれるんだよね?」
サンドラは瞬いた。あまりに上手く行きすぎて、話がすんなりと通り過ぎて、かえって戸惑ってしまう。
「その……よろしいのですか?」
「もちろん。巫女姫と良い関係を築くのは僕の利益にもなるのだからね。皇子という立場が彼女を怯えさせてしまうなら、まずはそれを抜きにして、個人で話をさせてもらおう。彼女が怯えていると教えてくれて助かった。君のおかげだ」
「………………!」
ぱあっと目の前が開ける思いだった。独りで訳の分からない戦いをしてきたのが、心強い助っ人……もとい主戦力のおかげで、まともな形になってきちんと決着がつきそうだ。
(よかった…………!)
サンドラは深く、心を込めて頭を下げた。
「どうかよろしくお願いいたします、フェリクス皇子殿下。お茶のセッティングはお任せください。お二方のお好みに合わせてご用意いたします。決して邪魔にならないように、しかし何かあればすぐに対応できるように控えておきます。人払いもいたします。場所ですが……花が見頃を迎えている庭がよろしいでしょう。この後すぐにでもご案内できますが、いかがいたしましょうか」
フェリクスは少したじろいだ様子で苦笑した。
「話も早いし……つくづく優秀だね、君」
「恐れ入ります」
侍女の優秀さは主の評価点になる。卑下はせず、サンドラはかしこまって頭を下げた。
だからサンドラは、今回も気付かなかった。
フェリクスの青い瞳が、面白がる色と……獲物を見つけた猫のような色を浮かべてサンドラを見下ろしていたことに。




