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運命の出会い演出編12

(出会いの舞台となるなら……やっぱり、庭よね)

 サンドラは大広間から外に出て、美しく整えられた城の庭を歩きながら考えた。

 舞踏会に先立って、その準備のための顔合わせにも先立って、二人をなんとか運命的に出会わせなければならない。皇子の方はともかくとして、巫女姫の側があの調子だ。互いの身分が割れる前に、互いに好感を……少なくとも、悪くない印象を持ってもらわなければならない。

 皇子の来訪は近いし、それまでに巫女姫が城の外に出る用事はない。出会いの場を用意するなら城の中しかない。

 画廊や図書室は人目があるし、私語にも適さない。礼拝堂はさすがに不謹慎すぎるし、巫女姫にとっては祈りの場だ。避けるのが無難だろう。

 やはり、屋内よりも屋外、美しく整えられた庭がいい。植栽が適度に目隠しをしてくれて、雰囲気もあって、適度な距離を保つこともできる。密室に二人きりというような、後ろ指を指されかねない状況も避けられる。

 それに……近付く者の気配に気付くこともできる。

「……誰?」

 サンドラは振り返って木立に目を向け、油断なく、しかし力まずに身構えた。

 もちろん木立が喋るはずなどない。しかしそのまま視線を向け続けていると、やがて木立の陰から人影が現れた。

 背格好や姿勢からして男性と思われるが、よく分からない。教育機関の学徒が着るようなローブを羽織ってフードを目深に下ろしている。

 怪しげな風体ではあるが、少なくとも敵意や殺意は感じない。ただこちらを明らかに追いかけている視線があったから気付いただけだ。

「……気付かれちゃったか」

 不審者は軽い口調で言い、フードを脱いだ。輝くような金髪が目を射る。現れた顔貌は端正で、こちらに向ける瞳は青。……どこかで見たような。

 サンドラは少し目を細め……次いで、大きく見開いた。

「フェリクス皇子殿下…………!」

 間違いない、絵姿の通りだ。見間違いようもない。

 王国の巫女姫ルシンダの婚約者、帝国の皇子フェリクスが目の前に立っていた。

(え……何、どういうこと!? 本物!? ご到着はまだ先のはずよね!?)

 混乱するが表情には出さない。そんなサンドラに、フェリクスと思しき青年はにやりと笑い、少し距離を詰めた。

「それにしても、どうして僕に気付いたの? 物音なんて立てていなかったのに。視線?」

「……そうかもしれませんね」

 大広間のような人が多い場所ならともかく、こういった屋外なら自分に集中して向けられる視線があれば気付きやすい。とはいえこれはサンドラが身につけた技能であり、決して一般的とは言えないものだということも分かっている。

 相槌を打つに留めたサンドラに、推定フェリクスは面白そうに笑った。

「確かに、視線を感じることが不可能だとは言わないよ。でもそれは、訓練を積んだ武人とか、見られることに敏感になる高位の者とか、そうした立場の一部の者の話だ。一介の侍女が普通にできることじゃない」

「…………」

 サンドラは用心深く口を噤んだ。

 彼は侍女と言ったが、サンドラの格好は侍女というよりメイドに近い。その自分を見て侍女と呼んだのだから、彼はサンドラのことを知っている。しかしこちらは向こうのことを知らない。この状況で余計なことを言うべきではないだろう。

(一体……誰? やはり皇子殿下ご本人なの?)

 青年はおどけたような口調で言った。

「警戒させてしまったかな? もしかして、大広間からすでに気付いていたのかな」

「………………」

 さすがに大広間のようなところで視線を拾うのは難しい。向けられていて気付かなかったのか、それとも向けられていなかったが鎌をかけられているのか、どちらにせよ沈黙が吉だ。相手に余計な情報を与えるべきではない。

「無表情でこぶしを振り上げたり下ろしたりしながらも僕に気付いてたってことなのかな」

「……………………」

 余計な情報を与えるべきではないし、余計なことを考えるべきでもない。見られていたのか恥ずかしい、とか、何なんだこいつ、とか。

 相手に敵意はないようだが、得体が知れない。用心深く出方を窺いつつ、まずは当然の疑問を投げる。

「私のことはともかく。……フェリクス皇子殿下でいらっしゃいますね?」

「分かってるんじゃない? 僕のことを調べていたのだから。そうだよ、僕がフェリクス、この国の王になる者だ。将来的には君の間接的な主かな、侍女サンドラ」

「…………!」

 こちらのことを知っているのはそれほど驚かない。皇子が巫女姫の周囲の人物に気を配るのは当然だからだ。

 しかし、サンドラが皇子のことを調べていたと把握されているとは思わなかった。内密に調べる必要性を感じなかったからあまり気を配っていなかったが、悟られないように動くべきだったか。これは下手なことをしたかもしれない。

 サンドラは深く頭を下げた。

「探るような真似をしてしまい申し訳ありません、フェリクス皇子殿下。ご賢察の通り、私はルシンダ様付きの侍女サンドラでございます。ですが、これは私が勝手にしたこと、我が主は何もあずかり知らぬこと。どうか責は私だけに……」

「分かってるよ。だからこそ君に声をかけたんだ。責めるなんてとんでもない。必要なことだと理解しているとも」

 鷹揚な言葉に、まったく不愉快に思っていない態度に、安堵する。しかしその安堵は、フェリクスの次の言葉で一瞬にして吹き飛んだ。

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