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運命の出会い演出編11

 クロフトに釘を刺しておいたからか、舞踏会の日付が決まってすぐ、その情報がサンドラに伝えられた。皇子をいつどうやって出迎えるか、どこに泊まっていただくか、なども確認することができた。

 情報源はクロフトだけではない。サンドラは侍女として本来の仕事をこなす傍ら、帝国の刊行物などを取り寄せたり、独自の情報網を使ったり――名家の侍女として勤めていたため人脈が広いのだ――、帝国に縁のある人に直接尋ねたりして、ルシンダの相手となる帝国の皇子フェリクスについて調べ上げた。

 年齢は二十三歳、皇子としては十七番目に当たるらしいが定かではない、皇帝に目をかけられながらも帝国の中枢部に残る道を選ばず自ら王国行きを決めた、王国の貴族階級出身の母を持ちこの国にゆかりがある、学問を幅広く修めており眉目秀麗…………

(…………調べれば調べるほど、完璧な「王子様」ね……)

 サンドラは唸った。

 特に、母方で王国の血を引いているというところが重要だ。ぽっと出の王という印象をかなり薄めるだろう。

 帝国は強大だが不安定さを抱えているというのが大方の見方だ。現状では逆らえないが、うまくやり過ごして時を待てばいずれ瓦解する、その時に国を自分たちの手に取り戻そう……帝国の支配下に入りながらもそのように考えている国は多い。

 王国もそういった立場ではある。いざとなったら巫女姫ごと帝国の皇子を切り捨てて、実権を名実ともに自国に取り戻すのだと。

 だが、皇子がこの国にゆかりがあり、その上で善政を敷いてくれるなら話は変わってくる。有能な為政者であれば、彼を追いやったところで聖王や議会――それも貴族から成る上院だけ――が権力を取り戻すことになるのだから、むしろそのままの方がいいかもしれない。

 そのような存在であってほしい、とサンドラは願った。これは良い意味で予想外だった。

 それなら、巫女姫の輿入れまでだけでなく、それからのことも心から応援できる。力を尽くせる。やってくる皇子が真実この国のためになる王になってくれるのならば。

(そのためにも、まずは輿入れを成功させないとね)

 サンドラはぐるりと大広間を見渡した。舞踏会の会場になる場所の下見だ。

 城にはいくつか広間があるが、特に大広間と呼ばれるのが、正面の入口を入ったところにある吹き抜けの広い空間だ。もちろん何度となく通りかかっている場所だが、念のためだ。今は特に何も使われておらず、使用人たちが掃除のために行き交っている。邪魔にならないように端に寄りつつ、会場となる場所を見渡して考えをまとめる。

 舞踏会でいきなり二人が顔を合わせ、ぶっつけ本番で踊る、というわけにはいかないので、もちろん日程は余裕をもって組まれている。とはいえそれは「及第点のマナーとダンスを身につけた二人が確認のためにリハーサルをする時間を取れる」くらいのものでしかない。「政略結婚を嫌がって白馬の王子様が助けてくれると信じる巫女姫の考えを改めさせて皇子の手を取らせる」ことに必要な時間などもちろん誰も考慮してくれない。頭が痛い。

 本来なら、どちらの国にとっても上手く行ってほしいお披露目なのだ。それぞれの国内にはもちろん反対派もいるが少数だ。巫女姫と皇子が仲良く踊る様子を見せたい、という立場の者が多数派だ。――ただし、巫女姫本人を除く。

(あのルシンダ様のことだから、皇子様と引き合わされてさあ踊ってくださいと言われても、はい分かりましたと納得して手を取ってもらえるとはとても思えないのよね……)

 好き合っていない者同士が手を取るなんて間違っている、と目に涙を浮かべるかもしれない。もしも皇子のことが気に入ったとしても、まずはお互いを知るところから始めましょう、などとある意味正論だが思い切りずれたことを言うかもしれない。すんなり物分かりよく「分かりました」と受け入れる未来だけは見えない。

 彼女が恋物語に夢中になった様子を見るに、ときめくポイントや美醜の感覚は一般的なのだと思う。姿絵や評判の通りならフェリクス皇子は優れた容貌を持っているようだから、その点は問題ないだろう。引っかかる点があるとすれば、彼が「帝国の皇子である」、その一点だけだ。

(そこに引っかかるのがそもそもどうなんだ、って話だけどね……)

 彼女にとっては帝国の皇子こそが悪役で、自分に結婚を無理強いしようとする存在なのだ。最初からその色眼鏡で皇子を見てしまったら、まとまる話もまとまらない。

(だから……皇子を皇子と悟らせず、出会わせる! 運命的な出会いを演出する! そうすれば上手く行く目もあるはず! これしかない……!)

 サンドラはこぶしを天に突き上げてから、はたと我に返った。自分はいったい何をしているのだろう。

 本来なら、侍女として、巫女姫をいかに美しく装わせるか、いかに皇子の気を惹くように教えられるか、舞踏会でのダンスやマナーの仕上がりはどうか、そういったことに心を砕いていたはずだ……そのはずだったのだ。巫女姫がドレスの型や色を選ぶのに助言をしたり、やってくる要人の誰とどんな話をすればいいか教えたり、そういう腕の見せ所があったはずなのだ。

 しかし話がそもそもそこまで進んでくれない。そうしたすべてが些事と思えるくらい根本的なところで躓いている。無事に二人が踊り終えてくれれば御の字だなんて、あまりにも目標が……高すぎる。

(低すぎるはずの目標が、高すぎる…………)

 サンドラは溜息をつき、突き上げたこぶしを力なく下ろした。

 ――その姿を柱の陰から見ている者がいることなど気付かずに。

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