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運命の出会い演出編09

(不安要素が多すぎる……)

 歩きながら、サンドラは溜息を飲み込んだ。

 ルシンダは結婚を強要される状況を単に嫌がっているのではなくて、心のどこかで楽しんでいる節がある。つらいと泣きながらも、そのじつ自分に不都合なように事が運ぶとは欠片も思っていない。自分の都合の良い展開になることを心から信じている。

 だからこそ、お約束に溢れたご都合主義の恋物語がぴったりと好みに嵌まったのかもしれない。

 それを彼女に勧めていっそうその傾向を強めてしまった過去の自分を脳内でとっちめながら、しかしサンドラは未来のことを考えなければならない。

 サンドラは王国の忠臣だから、申し訳ないがルシンダ一人の都合よりも王国全体の都合を優先する。それでも彼女を捨て駒のように扱うことはしないし、嫌がることを無理強いもしたくない。巫女姫と皇子が、王国と帝国が、双方にとって丸く収まる道をなんとか探したいと思っている。

 いちばん話が早く済むのが、ルシンダが帝国の皇子と好き合って、望んで望まれて結ばれることだ。そうなれば何の問題もない。

 相手となる帝国の皇子がよほど変わった嗜好の者でもなければ、ルシンダを嫌うことはそうそうないだろうと思う。彼女の容姿は優れているし、心根も――こう言っていいのか、今となっては確信が持てないが――純粋だ。少なくとも彼女には、悪意や打算がない。

(……その正直さが厄介なところではあるのだけど……)

 サンドラは遠い目になった。計算高く、相手がお金持ちだから妥協しよう、権力者だから目を瞑ろう、そういったところがないのが彼女だ。だから、気に入らなければ遠慮なくあの大きな目に大粒の涙を溜めてみせるだろう。……目に浮かぶようだ。

 とにかくも心根が正直で、教養も立ち居振る舞いも学びの途上ながら及第点、巫女姫という神秘性と特別性も併せ持つ。客観的に見て、多くを兼ね備えた姫君なのだ。血筋の裏付けだけは如何ともしがたいが、帝国に対しては王国の最も尊い存在だという在り方を、王国の民に対しては帝室と結ばれたという事実を、それぞれ示すことができる。表向き問題にはならないだろう。……そこを社交の場で突かれたときに、彼女がうまく捌くことができるかどうかはまた別の話だが。

(それに……いくら帝国側の立場の方が強くても、結婚相手の姫に難癖はつけられないはず……)

 姫君に明らかな瑕疵がなければ非難したりはできないはずなのだ。

 まず一つ目、王国側の反発を招いてしまえば統治に差し支えるからだ。帝国の威光があるとはいえ実際に皇子が腕を振るうのは王国の中だ。下につく者に背かれたら円滑な統治は望めない。円満な結婚を望むのは帝国側も同じなのだ。

 そして二つ目。それは、帝国の皇子は大勢いるという事情によるものだ。

 帝国皇帝は各地から多くの女性を集め、妃として抱えている。もしもこの王国も、目ぼしい姫君がルシンダ一人でなければ、複数いたなら、皇帝の妃として姫君を寄越せと求められていた可能性は大いにあった。

 多くの妃に、多くの皇子と皇女。対して、この王国にいるのは巫女姫ルシンダひとりだけ。彼女は帝国にとっても、統治の足掛かりとなる貴重な存在なのだ。

 帝国に皇子はたくさんいるから、その中での権力争いもある。帝国に残って皇帝の後釜を狙いたい、国外に出てその地で権力を持ちたい、いろいろな思惑の者がいるだろう中で、王国の巫女姫の婿という立場はまあまあ美味しいものと見えるはずだ。この国は治安がよく機構が穏やかで王工業の基盤がしっかりしている。ものすごく豊かだとまでは言えないものの、平均が高いところで安定している。

 そんな国が美姫ごと自分のものになるのだから、その権利を勝ち取った皇子はそれなりに有能なはずだ。そして弁えているはずだ。妃となる巫女姫をひどく扱ったり不平不満を言ったりして離反されては、王国からも帝国からも手痛い報いを受ける。王国からは疎外されるし、帝国からも、小さな国ひとつ御せないでなにが皇帝の息子だ、それなら他の皇子にやらせるからすっこんでいろ、ということになってしまう。

 失敗した皇子の立場は帝国内でも低いものになるだろう。ライバルとなる皇子の数がとにかく多いのだから、一度傷がついた存在が挽回することは容易いことではないだろう。余所者のサンドラにもそのくらいは想像がつく。権力争いの当事者である皇子は当然、身に沁みて知っている。失敗しないように振る舞うはずなのだ。

 だから難しいのは、輿入れまでだ。無事に収まるべきところに収まれば、ひとまずは安心できる。あとは続けていくだけだからだ。皇子の側は梯子を外したりできないし、巫女姫も他に助けになる存在がいない。

(……こういう計算、嫌いなのだけど)

 とにかく外堀を埋めてしまえというルシンダの周りの人々と何も変わるところがない。自戒しつつ、なるべく騙す形にはしたくないと思いつつ、サンドラは考えを巡らせる。

(とにかく、まずは情報を集めなければ)

 この王国を統べる権利を勝ち取った、ルシンダの花婿となることが決定した、その皇子についてなるべく多くを調べなければ。公開情報からだけでもかなりのことが分かるし、皇子と直に会ったことがある者がいれば話を聞きたい。あわよくば女性の好みなども知りたい。

 皇子の側からルシンダを口説いてもらえれば話が早い。自分が権力を握るために必要な存在なのだから、恋心抜きでも熱心に口説いてくれるはずだ。そうなれば恋心も後からついてくる……かもしれない。

(……私もルシンダ様に毒されているかも。それか恋物語の読みすぎかも……)

 政略結婚において恋心は必須のものではないのに、彼女の影響で大切なもののように思わされそうになってしまう。

 恋に恋する夢見がちな巫女姫。帝国の皇子様が、彼女の「王子様」になってくれますように、とサンドラは願った。

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