悪役令息、BL世界を裏切ってヒロインと幸せになりました。(今のところ)
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王子と婚約破棄した今、僕の心は決まっていた。
さっさとあんな家、出ていってやる〜。
ここで重要なのは家から追い出される訳でなく、自分から出ていく事。
だって、追い出されたりしたら、不吉な運命が待ってそうで……
とりあえず、家に(お金をとりに)戻れば父と母は大激怒していた。
凄い早耳だ。誰だよ、チクったの。
両親の激怒理由はもちろん、
役立たずの次男が王子から婚約破棄されるなど、家名に泥を塗りおって!
ってこと。
要約すればこんな感じ。
概ねあってるけど一つだけ訂正する。
「父上、違います。婚約破棄したのは僕からです」
澄まして答えると、父上は最近買ったばかりのムチを振り上げてきた。もしかしてこの世界、ハードBL世界?そのアイテム、どこで買ったの?
……ほんと、兄様には愛の言葉と金貨を渡すくせに、僕にはムチと罵声。差が激しすぎない?
ムチで打たれて喜ぶ趣味はないから、
即座に闇魔法で反撃。
今日まで、ザマァ返し失敗してヤバくなったら、学園ごとぶっ壊してトンズラする計画もあったから、闇魔法の実力を抑えてたけど、婚約破棄が成立した今、もう修行の成果、見せてもいいよね。
6年前、ディーナに言われたあの日から、僕は必死で勉強も闇魔法も鍛えてきたんだ。
父上など、一撃。両足の骨を折ってあげたよ。これで追いかけてこれないでしょ?
それに過去、何度も殴られた恨みも込めて、これくらい許されるよね?
さすがに母上は女性だから酷いことはしたくないけど、父上の暴力を黙認していたんだし泥水くらいぶっかけてもいいよね?
僕って優し〜。
父上が骨折で悶え苦しむ間に(オーバーな奴だな)
金貨を鞄に詰め込み、二度と戻らぬ決意で家を出る。
家の金貨だって?これは僕の稼いだお金だよ。
いつか、この家から出ていかなきゃ、だったからディーナに教えてもらったカジノで、稼いで、稼いで、稼ぎまくった。コンプラ?この世界にそんな物はありません。
なぜそんなに強いのかって?
僕が本気で相手を見つめると頭が働かなくなるみたい。僕の美貌、こんな利用方法あるんだね。お陰でポーカーは最強でした。
家を出る直前、
……仕方ないからお医者様くらいは呼んであげたよ。父上など苦しめばいいと思ってたのに。罪悪感に負けちゃった。なんか敗北。
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海辺近くの料理屋。ディーナがここで働いているのは事前に調べ済み。
「……ディーナ」
実は15歳の時、どうしても彼女に会いたくて、従者に住処を探させたことがあった。
勇気がなくて来れなかったけれど、今日、ついに来てしまった。
ああ、もし忘れられていたら、どうしよう。結婚していたら……
ガチャリ
「まあっ、フィルベルト様!? どうしてここに?」
6年ぶりの再会。ディーナが店から出てきて僕を見つけてくれた。ああ、やっぱり君は僕の女神だ。
(ディーナ談:フィル様、店の前で9時間迷っていたんですよ。私はすぐ気づいたのですが、佇まいが面白…
美しかったので客寄せパンダになってもらいました。お店、大繁盛!)
そのまま僕は店内へ招き入れられた。彼女は母親と二人でこの料理屋を切り盛りしている。
あの時、病気だったお母上も元気そうで本当に良かった。
そして、ディーナはまだ独身。
やった……!
心臓が破裂しそうに鼓動する。
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僕はディーナに想いを伝えた。
「僕はもう、君なしでは生きていけない。
君が笑えば世界は輝き、泣けば崩れてしまう。
君が泣く日があるのかはしらないけど…
身分なんて捨ててきた。
ディーナ、どうか僕の隣にいてほしい。
これからの人生、すべて君と生きたい」
息が震える。喉が渇く。
何度も練習した言葉。
ただ君だけに届けばいい。
しかし返ってきた言葉は予想の三段階上だった。
「えー!? 公爵家次男の身分、捨てて来ちゃったんですか?」
ディーナは眉をひそめて肩をすくめる。
「あなたが捨てた“身分”、“受け”として利用価値の高い最大級のスパイスだったんですよ?
分かってます? BL界隈の期待値──全部、棒に振りましたね!」
……うん……
予想はしてた。普通の返事ではないだろうなって。
でも……
凍りつく僕。頭は真っ白。
今の僕じゃダメってこと……?
僕の苦悩、どこの界隈に評価されてるの?
絶望に落ちた僕を、ディーナはいたずらっぽく笑って慰める。
「冗談です、フィル様」
そっと伸びた手が頬に触れる。
うっとりと細めた瞳に、僕だけが映っていた。
「ああ、なんてキレイな肌。男は皆、この肌に触れたくて仕方ないでしょうね」
ん?男は?
彼女の白い手は首へと滑り、首筋をそっと撫でる。
ぞくりと背筋を走る熱。指先が少し触れるだけで体の奥がじん、と熱くなる。
思わず息を止める自分に気づく。
ディーナ……
僕が彼女を抱きしめようとした瞬間、
「受けの憂い顔……発狂!」
ディーナが叫ぶ。
「……僕はディーナに、撫でてもらうことが好きだよ……」
彼女の頭の中で僕がどんな酷い事になっていようとも、彼女の手の温もりが、心までじんわりと満たされる。
この距離、この柔らかさ、この感覚――全部、僕だけのものだ。
ディーナは優しく笑う。
「ああ、ここまで理想的なBL界の『受け顔』はめったにないわ。最高級品、私の超タイプ!」
「う、うん! 褒めてくれてるんだよね? もうちょっとロマンチックに言ってほしいけど…」
「あら? 最上級のロマンチックですよ?」
「ロマンチックがマニアックすぎない?!」
僕達のやり取りに、厨房から彼女の母親の声。
「ディーナ? その子は……攻め?受け?どちらかしら?」
「お母上!?」
なるほど、君はこんなお母さんに育てられたから、性格も自由なんだね。
ディーナは当たり前のように言う。
「もちろん受け側よ。私に対しても、ね?」
君に……対しても受け?
意味はよくわからない。
けど……何、この絶望感……
相変わらずディーナは謎めいた微笑みを浮かべている。
でも僕はもう、すべて君に抗えない。
「フィル様」
ディーナは手を取り、微笑む。
「あなたが、絶望しても、絶望しても絶望しても、『自分で選んだ道』を歩んでいるところが好きです」
絶望をなぜ三回もいった?
「ディーナ、君があの時、僕の過酷な運命を教えてくれたから、すべてを捨てることができたんだ…」
「うふふ、まだ伝えてないこともありますけどね…」
「え?」
ディーナは優しく抱きしめてくれる。
僕は照れて、でも嬉しくて、顔が真っ赤になる。
「……ありがとう。君と一緒なら、どんな未来でも生きていける」
ディーナは僕を見つめ、そっと囁く。
「はい。私もあなたといれば、一生ネタには困らない。今年の新作、『顔だけ貴族の転落人生、僕は兄と同僚に堕とされる』にしますね」
「???」
やっぱり、言ってることはよくわからなかった。
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ディーナはギュンター兄様とメルツェル君に手紙を出すように勧めてくれた。
きっと二人はフィル様を大切に思っていますからと。
僕は勇気をだして、居場所を連絡した。
数日後、ほぼ同時に二人から手紙が届いた。
ギュンター兄様の手紙(要約済)
「お前のことを、ずっと気にかけていた。今日まで、お前に辛い思いをさせていたことはわかっていたが、それについては謝りたい。
今更だが、フィル……。
何処にいてもお前の幸せを願っている。
そして今度こそ、ゆっくり話そう。
…その時、お前の最高に美しい笑顔を見たいと思う。こんなことを考えるのは兄としておかしいだろうか?」
メルツェル君の手紙(要約済)
「君が選んだ道なら、きっと素晴らしい未来が待っているだろう。
学園で君と皮肉を言い合うのはとても楽しかった。
口下手な私は本当は皮肉ではなく、君に美しい言葉をかけたかったのだけれど…
今なら言えるよ。
君の幸せを、心の片隅でずっと願っている。
…できれば、その未来に、僕も関わっていられたら嬉しい。」
二人とも誠実な文字で超、超長文で丁寧で金箔を散りばめた高価な手紙を送ってくれた。僕はとても穏やかな気持ち。
そして、二人は近々、長期休暇をとって訪れてくれるとのこと。二人に会えるのが楽しみだ。
ディーナがニコニコ笑っている。
「龍と鳳凰と白虎の三つ巴。新たなバトルもうすぐ開幕」
「白虎?西の国のおとぎ話に出てくる伝説の生き物だよね?」
「ええ、龍はギュンター様、鳳凰はメルツェル様ね」
「? 兄様がドラゴンでメルツェル君がフェニックス?」
「はい!」
ディーナが元気に返事した。
「グリフィンは?」
「まだ現れてませんけど…
きっとフィル様の心をかき乱す存在になりますよ」
ディーナは頭の中の妄想をお楽しみのご様子。何よりです。
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こうして――
僕はBL世界を裏切り、
ディーナと一緒に料理屋を切り盛りしながら、新しい人生を歩み始めた。
ディーナが笑えば、僕の世界は満たされる。
たとえこの先どんな“イベント?”が待とうとも、
その全てから全速力で逃げ切って、君と生きる。
時々、彼女のつぶやく不穏なセリフを聞きながら、
僕が選んだのは、BL世界の外側の幸福だ。
——君がいれば、それでいい。
今はとっても幸せです。
今は!
終
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