武道会参戦
俺は武道会に参戦することとなった。
武道会は王都で行われる。
参加者は、王都内の指定のホテルに泊まる。
いつもは、貴族と平民の宿泊するホテルは別だが、今回はみな同じホテルに宿泊する。
ベイリーフの門弟からはアインのほかに5名出る事に決まった。
俺はもちろん、門弟の枠ではない。
たんなる。ベイリーフの使用人だ。
屋敷を発つ前に辞書の先輩使用人から言われた。
「別に優勝なんか目指さなくてもいい。ベイリーフのものは、指導を受けていない使用人ですら強い。
そう思わせれば、十分だ」
俺はうなづいた。
試合はトーナメント方式で、決勝まで残れば、アインとの対戦になる。
ただ、俺もアインも決勝まで残れるかどうかは、わからない。
第一試合。相手はホースという剣士だった。
相手の情報もまったくない。
まずは様子見かなと思い、剣を構える。
「はじめ」
審判の声がする。
上段からの攻撃。
遅い。
と思った瞬間。
俺の剣は相手の横腹をかすめた。
「ヒット。勝者ローレル」
と審判の声が闘技場に響く。
場は静まり返った。
「今のはなんだ」
「今の動き見えたか」
「いや。気が付いたら決まっていた」
ひそひそ話が聞こえた。
闘技場の歓声もひっそりとしていた。
第二試合。相手はオータムという大柄の槍使いだった。
槍使いは間合いが広い分、有利だと聞いたことがある。
ヘタに近づけば、すぐにやられる。
槍使いの男は、槍を器用に動かした。
速い。
ここで終わりかもしれない。
そう思った。
審判の声がする。
「はじめ」
「やー」
槍使いの男は大きな掛け声を発した。
俺の腹をめがけて、まっすぐ槍を突き刺す。
(しゅーん、バシ)
気が付くと、槍使いの男は、槍を落としていた。
俺の剣が槍使いの男の、籠手を叩いていた。
槍使いの男は両手をあげた。
「ヒット。勝者ローレル」
と審判の声が闘技場に響く。
またも場は静まり返った。
「あいつは、なにものだ」
「まったく動きが見えなかった」
「八百長か?」
そんなひそひそ話が聞こえた。
俺は思った。
それは仕方がない。
俺だって、どうやって攻撃したのか知りたいくらいだ。
第三試合。相手はグッド家の三男。
グッド家とは王家の剣術指南役も務める剣の名門だ。
グッド家の剣は、無駄のない美しい剣。
まさに王族に相応しい剣術だと聞いたことがある。
立ち居振る舞いを見ても、まったく無駄がなく。
ほれぼれするほど美しい。
三男は上段に構える。
冗談じゃない。
この上段は隙がなさすぎる。
俺はそう思った。
審判の声がする。
「はじめ」
三男の姿が視界から消えた。
速い。
(かしーん)
俺は剣を受け止める。
三男の顔がまじかに迫る。
「私の初撃を受け止めるとは、さすがベイリーフは使用人といえども侮れない」
と三男は言った。
「試合中にしゃべってると、舌噛むぞ」
と俺は言った。
「ふふふ。その余裕がいつまで持つかな」
と三男はさらに圧をかける。
なるほど。
イメージと違い、実はパワーファイターか。
そう思い、すっと体をそらし、力の方向を変えた。
三男の圧は、エネルギーのやり場に困り、まっすぐに、闘技場の外へと向かう。
俺はすっと体を反転させ、三男の背中を軽く剣の鞘で押した。
「わー」
三男は、よろよろと場外に出て行った。
そして案の定、舌を噛んで悶絶していた。
だから言ったのに……。
「場外。勝者ローレル」
と審判の声が闘技場に響く。
今度は歓声にわいた。
「あいつ強いな」
「グッド家に勝ったぞ」
「これはこいつダークホースかもな」
そんなひそひそ話が聞こえた。
俺はさっきの勝負で、少し安心をした。
いままで、なんとなく、気が付かないうちに勝っていたが、今回ははじめて勝ち方がわかったからだ。
次は第四試合。相手は無名の武道家だそうだ。
鎌に鎖をつけた武器だそうで、まったく戦い方が想像できない。
第四試合は、日を変えて行われる。
その晩、ベイリーフ家の門弟の一人が俺の部屋を訪ねてきた。
「私はピクルス。ベイリーフの門弟だ。お前がローリエだな」
とピクルスは言った。
向こうは知らないようだが、道場に通っている男だった。
「そうです。ローリエです」
と俺は言った。
「明日、お前が戦う男は、やっかいだ。分銅付きの鎖を投げつけてくる」
とピクルスは言った。
「そうなんですか?なぜそれを俺に」
と俺は尋ねた。
「俺はやつに負けた。だがあんな卑怯なやつが、優勝するのは納得できない。できれば、優勝者はベイリーフから出したい。お前は明日やつと戦う。だから教える」
とピクルスは少しいら立ちながら、言った。
ここは少し合わせておこう。
「たしかに、分銅付きの鎖を投げつけてくるのは卑怯ですね」
と俺は言った。
「そうだ。それで俺は剣で防ごうとしたら、剣を封じられた」
とピクルスは言った。
「なにか妙案でもあったりしますか?」
と俺は尋ねた。
「さぁな。それはお前が考えろ。なんでもいい。最後は殴ってでもいいから勝て」
とピクルスは言い去っていった。
なるほど、分銅か……。
俺は明日になれば妙案でも出るだろうと、運命に任せる事にした。
第四試合準決勝が始まる。鎖鎌の男は分銅をぐるぐる回している。
たしかに厄介そうだ。
審判の声がする。
「はじめ」
(しゅーん)
分銅がまっすぐに飛んでくる。
分銅が剣に巻きつく。
鎖鎌の男は、分銅を引っ張る。
(すぽーん)
男の身体が後ろによろめいた。
俺は瞬時に間合いに入り込み、剣を男の喉元に突き立てる。
男は両手をあげる。
「勝者ローレル」
と審判の声が闘技場に響く。
場内は歓声にわいた。
「お前は剣を2本持っていたのか?」
鎖鎌の男は尋ねた。
「いいや。お前が取ったのは剣の鞘だ」
と俺は言った。
俺は分銅が来るのを見越して、剣をさやから抜かず持っていた。
よくよく考えると、バレそうなもんだが、意外と気がつかれなかった。
男は苦笑いをし、
「ありがとうよ。修行するよ。またどっかでな」
そう言い、去っていった。
残りは決勝戦だ。
ふと会場を見ると、そこにはダフネの姿があった。
ダフネは俺に手を振った。
俺も手を振り返す。
俺はダフネに勝利を贈れるのだろうか。




