5話 襲撃
5話
地割れのような音がした。
アルベルト殿下やリリアンと会話をしているところだった。少し離れたところで武具のお手入れをしていたダストルが、慌ててこちらへやってくる。
「殿下、お下がりください!」
「レイナちゃんも!こちらへ下がって!何か来ますわ!」
ダストルとリリアンが叫ぶ。地面が揺れる。遠くから巨大な何かがこちらに向かって突進してくる、そんな音が周囲を包む。
霧が深くて姿は見えないが、揺れと足音、木々がバキバキと薙ぎ倒されるような物音から、何かが迫ってきている方向はわかる。
私は万が一にでも現ご主人様たちの邪魔にならないよう、音の反対方面へ周り、全員から少しだけ距離を取るように移動した。
全長三メートルを超える物陰が見えたかと思うと、ズシン、メキメキ、ミシ、バキバキ、と私たちの近場にあった木々が悲鳴を上げて折れ朽ちる。
轟、と凄まじい鳴き声を上げて、そいつは姿を現した。
極大な猪のような生き物だ。体は針山めいた剛毛で覆われており、二本の白柱を思わせる大牙が生えている。
まるで山が丸ごと襲いかかってきたような、動く要塞のごとき重量感。
「ボアだ・・・・・・こんなに大きいのは珍しいな」
ダストルが歯軋りをするように呻く。アルベルト殿下も緊張したような面持ちで剣を構え、リリアンは全員を守るように守護の魔法陣を張った。
リリアンが光を纏い、彼女の足元を中心に青に耀く魔法陣が展開される。
「物理防御の結界を張りましたわ!ですが相手の攻撃力は未知数です。攻撃を喰らわないように気をつけてください!」
ボアのその強大な姿を見て、私は。
いい感じの肉盾にくらいはなれるだろうか・・・・・・と考えていた。
ちょっとナメてたかな。魔物を。あまり戦闘で皆さんの役に立てそうにないどころか、下手に動くとひたすら足を引っ張ってしまいそうで不本意だ。
一旦ここは大人しくしておくのが得策なのかもしれない。ううん・・・・・・今から鍛えてどのくらい経てば戦闘用奴隷になれるだろうか。
私がぼんやりと考えている間に、戦況は動いていた。
最初にダストルが剣で一気に切り掛かる。けれど、浅い。ボアの針のような毛皮に阻まれ、ほとんど傷を負わせられていない。
攻撃に怒ったボアが、こちらに向かって突進しようと、後ろ脚を地面にガンガンと打ち付ける。
ダメか、と思った瞬間、リリアンの体が先ほどより強く煌めき、手元から光線が迸った。
光線は一直線にボアへと向かい、その体を貫く。
ブゴォォォッ!と巨猪は喚き、前足をバタつかせてのたうつ。ボアが脚を地面に打ちつけるたびに、地面が跳ねるように振動する。
ボアが弱ったその瞬間、アルベルト殿下がすかさず前に出た。
剣を構え、渾身の力でボアの胴体を突き刺し───巨猪は再度悲鳴をあげた。
強い。現ご主人様たち、強いぞ。
私は目の前で繰り広げられる一方的とも言える戦いに少なからず興奮していた。
完璧な連携、チームワーク。正直に格好が良かった。私も何か役に立ちたい!けれど何をしたらいいのか考える脳を持ち合わせて無い!
「今のうちに畳み掛ける!リリアン、援護を頼んだ!」
「ええ!後ろは任せて!」
ダストルが再度攻勢に出る。悲鳴をあげてのたうつボアの胸元を狙って剣を振るい、ズブリと深く突き刺す。
仕留めたか。
そう思った瞬間、ダストルを巨猪の極大な牙が襲った。
「ダストル!」
風を切り、うなるような薙ぎ音。牙に横なぎに突き飛ばされ、ダストルの体が宙を舞う。
王子が叫び、咄嗟に弾き飛ばされたダストルの方へと視線が逸れる。
刹那。草陰から先ほどのボアより小柄な、もう一体のボアが霧の中から飛び出してきた。喚き声を聞いて仲間がやってきたのだろうか。
小柄と言っても2mはありそうな魔物は、一直線にアルベルト殿下の方へ突進していく。
「ダメです殿下!前を!」
リリアンが殿下に防御魔法を展開しようとするが、間に合わない。
アルベルト殿下の目の前にボアの巨体が迫る。
私は咄嗟に走り出していた。
間に合え、間に合え・・・・・・間に合った!
渾身の力でアルベルト殿下を突き飛ばし、代わりにその場に倒れ込む。
───車に激突されたような、重い、重い衝撃に飲み込まれる。体が宙に浮く。重力に従って落ち、ドサ、と地面に叩きつけられた。
攻撃のショックが強すぎて、痛みすら感じない。
空が見える。遠くで誰かに名前を呼ばれるのが聞こえる。
意識が遠のき、目の前が真っ白になっていく。何も考えられない。
・・・・・・でも、これだけは分かる。
念願の肉盾になれた!!!完璧なお仕事!!!やったぁ最高───ッ!!!
そんなことを思いながら、私は完全に意識を失った。
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