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4話 労わらないで

4話


 朝焼けの空。まだ薄暗く肌寒い中で、私はテキパキと動き回っていた。

 小さな焚き火でコトコトと鳴く鍋のそばで、トントコトンと野菜を切る。出汁を取るために茹でていた動物の骨を取り出してから、肉、根菜、葉物野菜の順で鍋に放り込み、少しのスパイスと塩胡椒で簡単に味を整える。

 もう少し材料があれば美味しいものが作れるのだけど、今はこれで精一杯だろうか。私には狩りなどはできないから、ゆくゆくはそれも覚えなくては。まぁ、もし今すぐ魔物狩りに行けと命令されれば、この隷名、裸一貫で行ってくるけどね!

 スープを煮込んでいる間に使ったまな板や包丁などを洗って干しておく。カトラリーを人数分用意し、火の近くにパンも置いて温める。アルベルト王子殿下たち(現:ご主人様たち)の荷物の中には小鍋も幾つかあったため、一つお借りしてミルクも温めておく。

 火の様子を見つつ、殿下たちが起きるまでに大急ぎでお洗濯。布製品は洗って干し、革製品はウエスで磨いて陰干しに。剣や鎧なども磨いておきたいところだが、もしかしたら特殊なお手入れの仕方や本人のこだわりなどがあるかもしれないので、武器や防具には触れないでおくことにしよう。


 昨夜はあの後大変だった。同行して働かせてくださいと頼み込む私に、危険だから戻るべきだと主張するご主人様たち。特にリリアンは厳しく、私を抱きしめて「こんなに幼い子を危険な旅に同行させるなんて可哀想ですわ!」と啜り泣く始末。

 最終的には私の渾身の土下座と、現在地から最寄りの村までが遠すぎるというアルベルト殿下の一言で、はれて私の魔王討伐の旅への同行が決まった。

 

 洗濯物を全て干しきり、焚き火の勢いを調節しているところで、寝巻き姿のご主人様たちが起き出してきた。

 昨夜は全員で寝ようとするから驚いた。見張りはいらないのですかと問うと、魔法で結界を張っているから不要らしい。便利だな、魔法。

 

「レイナ、おはよう・・・・・・これ君が一人でやったのかい?」

「はい。皆様おはようございます」


 出来上がった温かなスープを器に盛りながら返事をする。うん、いい香りがするし火の通り具合もちょうど良い。

 個人的には大満足の出来なのだが、何故だか殿下たちは浮かない顔だ。何故だろう?このご主人様たちも私の態度が気に食わないのだろうか?いい感じの理不尽をぶつけてくれる?え?これ期待していいやつ?


「昨日の今日でこれは・・・・・・回復魔法で傷は治したとはいえ、まだ疲労は取れていないだろう。魔法も使わずに、小さな女の子がたった一人でやることじゃない。もっと休んでいていいんだぞ?」

「いえ!!!好きでやった事ですので!!!」

「そうは言っても」

「いえ、本当に!!!大丈夫ですから!!!!」


 本当に勘弁して欲しい。私ができそうな労働まで取り上げられてしまうところだった。

 私の必死のお願いを聞いて、リリアンがまた涙ぐむ。


「可哀想に・・・・・・きっと今までの苦労を苦痛じゃないと思い込むために、自分を偽るようになってしまったのですね」

 

 いやそうじゃなくってぇ!!!違うのに!!!

 普通、マゾヒストといえば愛のある嗜虐を求めるのだろう。

 私は違う。

 愛なんて無くてもいい。

 私に指示・命令・やることをくれればあとはなんでもいい!

 ToDoリストが長ければ長いほどいいんだよね。リストにずらっと並んだお仕事を見て愉悦に浸っていたい。

 だって考えなくていいんだもん。何をしようかなんて考えたくない。自分で決めたくない。

 ひたすら誰かに依存して、決めてもらったことをやっていたい。


 新しいご主人様たちの中で、一番の問題はリリアンだ。彼女は私のことを甘やかしたがるところがある。

 彼女が聖職者であることもそうだけど、今の私の体が幼いのもきっと彼女の庇護欲を掻き立てるのだろう。

 早く私の有用性を示して、せめて私をお役立ちツールとして認識してもらえるようにしないとね。


「リリアンさん、私の作ったご飯を食べていただけませんか?」

「レイナちゃんが作った朝食を?嬉しいけれど、これからは一緒に・・・・・・」

「いえその、とりあえず食べてみてください」


 そう伝えると、リリアンは渋々といった風情でスープをひと匙口に含む。

 瞬間、リリアンは目を見開き、顔を綻ばせる。どうやら大変お気に召したらしい。


「お、美味しい・・・・・・!」

「そんなに美味いのか?」

「ええ!殿下、ダストルも。ぜひ食べてくださいませ!」


 そう言われたアルベルト殿下とダストルもスープやパンを一口食べ、衝撃を受けたように固まった。


「レ、レイナ。これは本当に君が作ったのかい?君一人で?」

「驚いたな・・・・・・これは本当に美味い」

「でしょう!?レイナちゃん、本当にお料理が上手なのですね!」


 前世で頼まれるままに料理を作りまくっていたのが功を奏したようだ。これで殿下のパーティの中で人型クッキングマシーンとしてのお仕事は手に入った・・・・・・はず!この調子で奴隷街道まっしぐら!やったね!


「あ、でもレイナちゃん。一人で全部やろうとするのはやめてくださいね。私たちと一緒にやりましょう?」


 ───そんなぁ!

 

*ーーーーー*ーーーーー*


「そういえば、レイナは魔王についてどれくらいのことを知っているんだい?」


 食事がおおよそ済んだ頃、アルベルト殿下にそう聞かれた。


「申し訳ありません、何も存じ上げないです」

「そうか。いや、謝ることはない。簡単に説明してあげよう」


 なんでも、魔王という存在は比較的最近現れたらしい。強大な魔力を持つ魔王は魔族のトップとして君臨し、ここ数年でヒト族の国を攻め滅ぼし、じわじわと勢力を拡大しているとのこと。

 最初に魔法大国であるウェリーズ王国が滅ぼされた。多くの優秀な魔法使いたちを輩出してきたウェリーズ王国が滅亡したとき、「あの難攻不落の魔法兵軍を下した存在が現れた」として、周辺国には震撼が走った。魔王は一国、また一国と手近なところからヒト族の国々を襲い、ついにはサクルス王国の隣国まで侵攻してきた。そのため、サクルス王国は勇者を立てて魔王討伐に乗り出すことにしたそうだ。


「そういえば、なぜアルベルト殿下自らが危険な旅に向かっているのですか?王位継承権を、とおっしゃっていましたが」

「ああ、俺の兄であるグレディウスを黙らせるだけの功績が必要だったんだ。それに・・・・・・俺はどうも政治上の人間関係のどうこうは苦手でな。分かりやすい武勲を立てる方が性に合っているんだ」


 本当は王になる気も無かったんだがな、とアルベルト殿下はこぼす。それに対して、ダストルが気遣うように言った。


「殿下は裏表がなく、お優しいのです。それは政治上では不利に働くのかもしれませんが、殿下の美徳なのだと俺は思います。実際、失礼ですがグレディウス第一王子殿下よりも貴方様の方を支持する人間は多いのです!・・・・・・第一王子派の目がありますから、表立っては申し上げづらいのですが」

 

 くぅ、と悔しそうにダストルが歯噛みする。

 この王子様も、どうやら苦労してきているらしい。私にその苦悩肩代わりさせてくれないかな。

 ダストルを宥めるアルベルト殿下を見ながら私は思う。まぁ、流石に私みたいな奴隷が一国の王子の責務を肩代わりなんてできるべくもないか。そもそも戦闘すらもできない。肉盾にでもしてくれれば役には立てるだろうけれど、きっとそんな使い道をしてはくれないだろうし・・・・・・とりあえず、現ご主人様たちの身の回りのお世話をさせていただこう。


 そんなことを考えながら、私は使い終わった皿を洗うためにこっそりと川へ向かった。

 (なお、すぐリリアンにバレて手伝われてしまった。)


 *ーーーーー*ーーーーー*


 Side:ダストル


 アルベルト第二王子殿下はお人好しすぎるのだ、と俺は思う。それが彼の良いところである事は理解している。しかし、グレディウス第一王子殿下との王位継承争いで勝つには多少の悪辣さも必要だ。

 それができないから、魔王討伐という危険な旅に出たというのに。


 パーティの皆がお喋りに興じている間、俺は一人で鎧の手入れをしながら、はぁ、と深いため息をつく。

 

 王国騎士団の副団長である俺は、王国の王である者を守る責務がある。正直、あの傍若無人なグラディウス王子殿下が御王の座を継いだとして、今ほど仕事に身を入れる自信がないのだ。

 そういう意味では、俺にはアルベルト殿下の命が何より大切だ。殿下の将来に不穏な影は必要無い。


 ならず者の冒険者パーティらしき集団に虐げられていたあの少女。敵である危険性はまず無いだろう。

 しかし弱すぎる。見たところまだ10代中頃の少女で、戦う術も持っていない。料理などの家事の腕は確かなようだけれど、この先は魔王の本拠地。戦いで役に立たない人間を連れて行けるほど、現実は甘くないのだ。

 

 可哀想だが、任務に支障が出る前に何とかしなければ。一番良いのは彼女自身の意思でパーティを離れてくれる事なんだが・・・・・・まずは一旦、彼女の意思について探りを入れようか。

 そう決心し、俺は磨きあげた武具を着込む。


 その時。遠くから、地鳴りのような音が響いた。

読んでくれてありがとうございます。面白いと思ってくれたかた、ぜひ評価と感想をよろしくお願いします。

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