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3話 丸洗いされたら、まさかの

3話

 ふわふわ。あわあわ。ふわあわわ。

 リリアンに連れられて、私は真っ白の泡風呂の中に、ドボンと入れられた。

 そのまま丸洗いされる。泡が濃密すぎるせいで息がしづらくて、逆にイイかもしれない。

 髪を洗われ、顔に体、全身をほんのり温かい泡まみれにされるという初めての体験は・・・・・・やはり私がどなたかを洗って差し上げる側に回りたかったなという感想になる。何故私は洗っていただいているんだ。しんどい。

 いやお風呂用の丸洗い人形って役割を与えられたなら喜んでやりますけどね?そういうのじゃないじゃない、コレ。ただ洗っていただいてるだけじゃない。しんどい。


 しばらく泡の中に閉じ込められた後に、ザバリとお湯を頭からかけられる。

 その瞬間、リリアンが歓声を上げた。


「まぁ・・・・・・!貴女、そんなに綺麗なプラチナブロンドだったのね。まぁまぁ、どうしましょう。お人形さんみたいだわ!」


 そう言われて目を開けると、水面からは色素の薄い儚げな美少女がこちらを見ていた。先ほどまでは薄汚れていて気が付かなかったが、水滴を纏ってキラキラと輝く透き通るようなプラチナブロンドは美しく、アクアマリンの瞳と合わせ、どこか浮世離れした美貌を造りだしている。

 傷跡どころかシミひとつ無い肌はまるで陶器人形のようで、触れたら壊れてしまいそうな、脆く繊細な雰囲気を醸し出している。

 よくこれで襲われなかったものだ。いや、体の元の持ち主は襲われるのを恐れてわざと汚れた格好をしていたのかもしれない。


 やっとお世話をされる拷問から解放され、お風呂から上がって簡易的なワンピースに着替える。リリアンの寝巻きらしく、悲しいことに上等な布地だ。こんなに良いものを頂くなんて奴隷の名が廃る。なお、先ほどまで着ていたボロ切れを着ようとしたら却下されてしまった。あれが良かったのに。


 テンションの高いリリアンに再度連れられてアルベルト王子やダストルのところへと戻る。二人は一瞬きょとんとした顔つきをしたかと思うと、おぉ、と感嘆の声を上げた。

 

「君は、一体何故・・・・・・い、いや、すまない。レディの事情にあまり踏み込むべきではなかったな」


 アルベルト王子の顔は真っ赤だ。風邪でもひかれたのだろうか?事情は私もよく知らないので、聞かれなくて助かった。レディではなく奴隷ですけれども。


「随分とさっぱりしたな。さぁ、パン粥をどうぞ。出来立てで温かいからゆっくり食べるんだぞ」


 ダストルに感心したように声をかけられ、ミルクスープでふやかしたパンのようなものを勧められる。ミルクのほんのりとした甘い香りと、湯気を立てる柔らかそうなパンの香りが食欲をそそり、私のお腹がキュウと鳴る。

 奴隷の分際で皆さんを差し置いてご飯を食べるわけにはいかないと遠慮したけれども、三人とも既に夕飯は食べ終えているらしく、パン粥は胃が弱っていそうな私のためだけに作られたものであるようだった。

 お世話になっている上に特別扱いまで。つらすぎる。私は奴隷でいたいのに、こき使われるどころか至れり尽くせりお世話されてしまうなんて・・・・・・!


 パン粥をひと匙掬い、パクリと口に含む。たっぷりとミルクを吸ったまろやかで優しい味のパンが口の中でとろけ、ちゅるりと胃へ落ちていく。温かくてほっとするような味だ。体が弱っているであろう私への気遣いに溢れた味。

 その気遣いがしんどくて涙が出てくる。どうして私が世話されているんだ。こんなの主人側の人間の扱いじゃないか。全然奴隷扱いしてもらえない。むしろその逆。


 悲しすぎてぽろぽろと泣きながらパン粥を食べ進めていると、隣にいるリリアンが労るように私の背をなでる。それはまるで傷ついた子供を慈しむ母のようで、大切なものを護ろうとする聖母のようで。

 私は。

 私は・・・・・・。

 本気でボロ泣きした。優しくしないでください!もっとこう、ボロ雑巾みたいに扱ってください!

 私の意思を尊重しようとかやめてください!そんなもの無いから!他人からの指示に従って生きていきたいの!

 

 違うのに、違うのに。私は命令されて使われる側でありたいのに!

 ここからどうしたら私はボロ雑巾奴隷扱い桃源郷(パラダイス)に戻れるの?

 誰か教えてーーーーーッ!!!

 

*ーーーーー*ーーーーー*


 絶望した。奴隷扱いしてくれないこんな世の中じゃ、ポイ⚪︎ン。

 結局、私がメソメソしている間はずっとリリアンに頭をなでなでされており、その間アルベルト王子とダストルは何やら話し込んでいた。やっと涙が止まり始めたところで、アルベルト王子が話しかけてくる。


「レイナ、大丈夫か?」

「は、はい。申し訳ありません。泣いてしまって・・・・・・」

「いいんだ、大変な思いをしたのだろう」

「いえ、大変というわけでは」


 むしろ最高のシチュエーションだったのだが、その思いは通じないようで、王子からは「無理をするな」と言われてしまった。


「疲れているところ悪いのだが、こちらの事情を伝えておきたい。君の今後にも関わることだからな」

「ご事情ですか?」

「あぁ。先に伝えた通り、僕はサクルス王国の第二王子で、魔王討伐に向かっているんだ」

「はい・・・・・・」


 それから暫くアルベルト王子から説明を受ける。

 なんでも、アルベルト王子はサクルス王国の第二王子で、王位継承権を得るために魔王討伐に立候補したのだそうだ。第一王子である兄のグレディウス=サクルスは傍若無人な性格で周囲から顰蹙(ひんしゅく)を買っているが、直系血族で第一王位継承権を持つ。現王である父親も頭を悩ませ、「無事魔王を討ち滅ぼすことができれば、王位を第二王子であるアルベルトに継がせる」と宣言したらしい。

 

 また、聞いているうちにわかったことなのだけれど、この世界にはヒト族と魔族の二種類が存在しているらしい。

 魔法も普遍的にあるが、生活魔法レベル以上の魔力を持つ人間は少なく、リリアンのように強い魔力を持つ人間は重用される傾向があるようだ。なんというファンタジー世界。

 ただ、文化的には中世ヨーロッパくらいの様子でIT機器や便利家電などは存在しない様子。洗濯機や食洗機などの話を出したら不思議な顔をされた。スマートフォンが無いのは痛いな。私対面コミュ障だし、メールでの方が話しやすいのに。

 魔族が不定期にヒト族を襲ってくるため、冒険者職なども一般的で、各地に役職ギルドや情報交換酒場などが存在するようだ。しかし管理しきれていないため、盗賊や奴隷商の真似事をするような冒険者集団も後を経たないらしい。最初の私のご主人様はそれではないか?とダストルが言っていた。なるほど。他にもご主人様になってくれそうな人たちは存在するってことか。夢が広がってきた。


「そういえば、リリアン様やダストル様の苗字はなんとおっしゃるのですか?」

「あら?私たちは王族でも貴族でも無いから、苗字は頂いていないのよ。知らなかった?」

「申し訳ありません、不勉強なものですから」

「気にしないで!というか、そんなに畏まらなくてもいいのよ。気軽にリリアンって呼んでくれると嬉しいわ」

「えっ⁉︎あっ・・・・・・ハイ・・・・・・」


 ついに様付けまで禁止されてしまった・・・・・・悲しすぎる。どんどん奴隷から遠ざかっているんだよな。シンプルにつらい。


 うぅ・・・・・・とまた涙ぐみながら考える。他に行くあても無いし、元の世界の自分はもう死んでいるようだし。この体の持ち主のレイナちゃんには悪いけれど、“レイナ“としてこの世界を生きていくしかない、か。奴隷として扱ってくれた前のご主人様たちと比べると物足りないけど、このパーティの中で仕事を与えてもらおう。もしかしたらこき使ってもらえるようになるかもしれないしね!


「あの、差し支えなければ、私も連れて行ってください」


 私の一言に、アルベルト王子たちは顔を合わせる。あれ?まさか置いていかれる?

 オロオロとしていると、王子が困惑したように口を開いた。

 

「いや、しかしだな・・・・・・魔王討伐は危険な旅だ。たしかに魔王城の近くまで来ていて、引き返すのは大きなタイムロスではあるが。どう思う?ダストル」

「こう言ってはなんですが、この娘は足手纏いになる可能性があります。安全面を考えても、近くの村まで戻った方がいいでしょう」

 

「ええ、ええ。私もそう思います」

 

 リリアンも加勢する。

 

「こんなに可憐な女の子を危険な旅に同行させるわけにはいきません。戦いで命を落とすかもしれませんし、ちゃんとした屋根のある家すらありません。ちょっとした炊事ですら、魔法が使えなくては大仕事です。村に戻って、孤児院へ預けた方が安全かと」


 ───戦いで肉盾になる。野晒しで寝る。手足をボロボロにしながら炊事や洗濯をする。リリアンの話を聞いて、私の脳裏にさまざまな形で酷使されながら楽しそうに働く私の姿がよぎった。

 そんなに過酷な旅だったの?そんなの、そんなの・・・・・・付いていくしか無いじゃない⁉︎

 

「おっ、お願いします!私をパーティのために働かせてください!」

読んでくれてありがとうございます。面白いと思ってくれたかた、ぜひ評価と感想をよろしくお願いします。

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