2話 勇者パーティに助けられる 助けなくていいのに
2話
熱気が迫る。焚火が目の前でパチパチと弾け、肌を炙る。
目の前が真っ赤に染まり、全ての世界がスローモーションになったようだった。
刺すような火熱の中に顔を埋められるように頭を押され、私は目を輝かせて───
「そこのお前!何をしている!」
ご主人様の手が止まった。チッ、良いところだったのに。
眉を顰めつつ声の方を見やると、立派な剣を手にした精悍な顔つきの眼鏡をかけた青年、優しげな雰囲気を身に纏うシスター服の女性、そして騎士のような格好をした壮年の男性が現れた。
突然の乱入者に、ご主人様は鷲掴んでいた私の頭を乱暴に振り払い(ありがとうございます!)声を荒げて仲間を呼んだ。
「な、なんだテメェらは⁉︎おいお前ら!怪しい奴らだ!捕まえろ!」
テントの中からご主人様たちがわらわらと這い出てくる。各々手には棍棒や大斧などの凶器を持ち、青年たちを囲むように対峙する。
「テメェら何者だ?随分身なりが良いようだが、こんな森の中で何してやがる」
「それは僕らのセリフだ。君たちこそ、魔王城近くの森で何をしているんだ?若い女の子まで連れて・・・・・・しかもこの子、ボロボロじゃないか」
「うるせぇな、俺らの物をどう扱おうが俺らの自由だろうが!テメェらもこの女と同じようにしてやるよ!」
「かかれ!」という掛け声と共に、ご主人様たちが青年パーティへと襲いかかる。
先頭の一人が凶器を振り翳し、青年へ斬りかかろうと腕を大きく振り上げた途端。
ドグッ!と鈍い音がして、青年の剣が先頭の男の首元に深くめり込んだ。
他のご主人様たちも見る間に駆逐されていく。
大勢で壮年の騎士へ殴りかかっては、彼の素早い剣裁きにまとめて切り伏せられる。
数名が人質にでもしようと女性へ襲いかかっても、祈る彼女から放たれる光線に射抜かれ、その場に倒れ伏す。
数秒もしないうちに、ご主人様たちは全員動かなくなってしまった。
・・・・・・え?あ。どうしよ。私も何かした方がいいのかな?ちょっと、あの、展開が早すぎて何が起こったのかよく分からなかった。
しまった。とりあえず誰かの盾にでもなればよかったのか。隷名一生の不覚。
「───ふう。こんなものかな。君、大丈夫かい?」
「あらまぁ!こんなに怪我をして、服もズタボロで・・・・・・可哀想に。今治して差し上げますからね」
「王子!お下がりください。見たところただの少女のようですが、何が起こるかわかりません。ここは我らにお任せを」
壮年の騎士に警戒したような視線を投げかけられながら、悲しげなシスターの女性に手を取られて傷の様子を探られる。
何はともあれ、治さなくていいから!むしろ治さないでください!
*ーーーーー*ーーーーー*
───めちゃくちゃ治されてしまった。さっきの顔の火傷や爛れはもちろん、殴られた腕の腫れから水仕事の手のアカギレまで綺麗さっぱり無くなった。
傷は奴隷の誉なのに・・・・・・。
しょんぼりとしていると、私に回復魔法をかけたシスター服の女性に話しかけられる。
「可哀想に、随分と怖い思いをしたのでしょう。もう大丈夫ですからね」
いや違うんですけれども!貴女に治されてしまったんですけれども!怖い思いをした覚えは無いんですけれども!だいぶこき使ってもらえて幸せな思いはしたよね(歓喜)。
「ところで、君は何者だ?あんな扱いをされていたなら、何か訳があるんだろう?」
青年にも話しかけられ、ゆるゆるとそちらに顔を向ける。
つい恨みがましそうな目をしてしまったのは許してほしい。だって、理想的なご主人様たちだったのだ。あんなにしっかりと奴隷としての役回りをもらえたのは生まれて初めてだった。一回死んでるけど。
「私は奴隷です。ご主人様たちに使っていただいておりました」
何者、と言われても。このレイナという女の子が奴隷だということしか分からないのに、なんて説明をしたら良いのだろう。
労わってくるシスターの女性と気遣ってくる眼鏡の青年は新しいご主人様になってくれそうもない。優しすぎる。
ああでも、じっとこちらを見ているあの壮年の騎士様。あなただけはもしかしたら私を奴隷として使ってくれるかも・・・・・・。そう思っていると、騎士様が話しかけてきた。
「お前、名はなんというのだ?」
「隷名です」
「れいな・・・・・・レイナか。良い名だ。アルベルト殿下、この者には我らへの反抗の意思は無いものと思われます。ひとまずこちらで保護するのはいかがでしょうか」
だめだコレ。望みは潰えました。優しくてつらい。
なんで助けたんだよぉ、せっかくのパラダイスが水の泡じゃんかよぉ。せめてあなた達が新しいご主人様になってよぉ!私のこと馬車馬みたいに働かせてよぉ!
気づけば両の目から涙がつたい、私はぽろぽろと泣き出していた。
突然泣いてしまったことに困ったのか、眼鏡の青年がオロオロとした様子でなだめ始める。
「⁉︎な、泣かないでくれ。あー、と・・・・・・失礼した、レディ。君に名を尋ねるならば、先に名乗るべきだったな。僕の名前はアルベルト=サクルス。サクルス王国の第二王子だ。魔王を討伐するために、シスターのリリアン、騎士のダストルと共に魔王城へと向かっているんだ」
「怖がらせてしまってごめんなさい。私はリリアン。サクルス国立教会のシスターで、パーティの回復役をしております。特に光魔法が得意なの。よろしくお願いしますね、レイナちゃん」
「俺の名はダストル。サクルス王国騎士団の副騎士団長を拝命している。殿下やリリアン嬢を護り、敵を屠るのが私の役目だ。万が一お嬢さんが人に化けた魔物だったらと思い、不躾な態度を取ってしまった。大変失礼したな、お嬢さん。怪我はもう良いのか?」
ダストルの質問に、私はこくりと頷く。涙がどうにも止まらない。だって、私にとっての天国がたった一日で壊されてしまったのだ。せっかくの無限コンティニュー、夢の奴隷ライフが始まると思ったのに!あんなに容赦無いご主人様たちは初めてだったのに!
「問題ありませんわ。あらかたの外傷は全て治癒いたしました。あとは服と体の汚れですね」
問題ありまくりだ。やめて。このボロボロ加減が最高なのに。
苦しい首輪!放置された泥汚れや血液のシミのついた布衣!極め付けに冷たくて石や鋭い草の多い場所での素足!これ以上無い完璧な奴隷スタイル、ずっと憧れだった。
「レディがこんなボロ切れのような服で、可哀想に。リリアン、野営用の風呂の用意を。レイナを綺麗に洗ってやってくれ。その間の見張りや食事の用意は僕とダストルでしておこう」
「承知いたしました、殿下。さぁレイナちゃん!私と一緒においでなさいな」
「え、あ、そ、その、私は」
「あらまぁ、もしかして怯えているの?大丈夫ですよ、もう怖い人たちはいませんからね。安心してくださいな」
承知できない!安心もできない!食事の用意と見張りは私にさせて!できれば肉盾にでもして!!!私の桃源郷を返してぇ!!!
そんな心の声をよそに、私はリリアンに引きずられるように簡易風呂へと向かうのだった。
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