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1話 目覚めたら奴隷だった やったぜ

ギャグです

 とろけるような苦痛が身を貫いた。

 丸太で殴られたような衝撃。否、たしかに殴られたのだ。

 左肩が熱い。心臓が破裂しそうなほどドクドクと早鐘を打っている。

 つらい、いたい、しんどい。涙が止まらない。

 苦しくて、狂おしくて、あぁ、あぁ、

 ───興奮してきた。


*ーーーーー*ーーーーー*

 

 はたと目を開けると、地面に横たわっていた。目の前には冷たい視線を向ける男が一人。その奥には下卑た笑みを浮かべる男たちが六人ほど、焚き火を囲むように座っている。周囲の空気は冷えており、木々に囲まれていて・・・・・・野営地か何かだろうか。霧に包まれた針葉樹の森の中を無理矢理進んできたような跡も見える。


「何ジロジロ見てやがるんだよ。まさか反抗する気か?奴隷の分際で」


 目前の男が吐き捨てるようにそう言うとともに、第二撃の蹴りが飛んできた。

 腹部に爪先がめり込み、体が吹っ飛んだ。そのままゴロゴロと数回転がり、止まる。肺の中の空気が押し出され、反射的にゲホゲホと強く咳き込む。

 気管か口の中のどこかを切ったのか、咳には少量の血が混じった。

 全身がボロボロで土まみれ、血混じりの酷い匂いが身体中から立ち込めており、髪や肌も荒れてガサガサで。


 ───たまんない!もっとボロ雑巾みたいにしてほしい!私にサンドバックという仕事をくれてありがとう!


*ーーーーー*ーーーーー*


 一旦整理しよう。私は櫻木隷名(玲奈)、アラサーの社畜。某小売大手のオンラインクレーム対策課(俗称:クソ客処理場)に勤めている。罵られるのも理不尽な要求も最高に分かりやすい私の役割になってくれて、私にとっての天職!毎日毎日怒鳴られて、絶対に叶えられないダブスタ要求をされて、それに自作のカスタム詫びメールを送りまくっているだけで上司に認められて・・・・・・まさに私のための仕事って感じ。

 ちなみに仕事上では流石に親に貰った名前の「玲奈」を名乗っているけれど、普段は通称で「隷名」って名前を使ってる。幼い頃に「玲奈のレイは奴隷の隷〜!」とからかわれて、それが気に入っちゃったんだ。悲しいことに氏名変更申請は通らなかった。まったく、日本の役所はお堅いよね。


 たしかさっきまで会社にいて、今日も今日とてクレーム対応メールを打っていたはずなのに。ここのところ眩暈や頭痛が酷くって、それが若干楽しくなってきたところだったはず。メールの最中にふと意識が遠くなったのも、いつもの貧血かなって思っていたんだけれど。

・・・・・・もしかして私、過労死しちゃった?


 普段の私より明らかに視線は低いし、手足も細く小さい。私はアラサーのはずなのに、まるで子供みたいなこの身体・・・・・・


「何黙ってんだよ奴隷!聞こえてんのか?この程度でへばってんじゃねぇぞ!」


 ───おっと、そうだった。今まさにサンドバッグにしていただいている最中だった。

 この人また奴隷って言ったな。奴隷って、つまり私のこと?

 私は死んで、目が覚めたら全く知らない場所で奴隷になっている。え、奴隷?マジで奴隷って言った?

 つまりここは・・・・・・天国!!!(二重の意味で)

 どんなご褒美⁉︎最高じゃない⁉︎まさに私の桃源郷(パラダイス)!!!!苦難と理不尽ほど甘い蜜はないよね。っはー!あたまとろとろになる!とろとろになっちゃうぅ!!!(蜜だけに)


「おい!!聞いてんのかっつってんだよ!!」

「・・・・・・っ!申し訳ありません」

「っは、馬鹿の一つ覚えみたいに口先だけ謝りやがって。早く仕事に戻れよこのノロマ」

「はい」


 危ない危ない。あまりの幸福感にトリップしちゃってた。

 反論はせず、返事は短くはっきりと。接客の基本だね!

 まだ混乱はしているけれど、私はとりあえず目の前のお仕事に集中することにした。

 

 ご主人様たち(暫定)に言いつけられたのは、山のような泥まみれの洗濯物に、洗えども洗えどもやってくる汚れた皿。今この世界の季節は冬なのだろうか?大量の皿洗いで手がかじかんで動かなくなった。

 奴隷は私一人だけみたい。私だけで合計七人のご主人様たちのお世話をする必要がある。

 殴られた左腕が熱を持ち、ズキズキと痛む。冬の寒さの中に靴も履かせてもらえず、石の破片を踏むたびに鈍い痛みが走る。どこの誰かも知らないご主人様たちのお世話の後は、日が暮れて極寒の川辺で簡単に体を拭き、焚き火から遠く離れた所に置かれた半分腐った板の上に座って次のご要望を待つのだ。


 あぁ!アドレナリンが!アドレナリンが出てる!!!もっとこう・・・・・・血反吐吐くような要望でもいいんだよ⁉︎


 っあー、また興奮しちゃってた。ついね、つい。


 顔を洗うために先ほど体を清めた川へ戻る。改めて自分のどうも今の私は全く違う顔つきになっているようだ。歳も若く・・・・・・まだ15歳くらいかな?汚れが酷くてよくわからない。髪も肌も色素が薄く、目もアクアマリンのような淡いブルー。完全に純日本人の塩顔だった私とは似ても似つかない。

 

 なんにせよ、ここのご主人様たちは随分とこき使ってくれるみたい。随分と華奢な身体になってしまった。しかし私はただ与えられた命令をこなすだけ。さぁ、次はどんな命令が貰えるのかな!

 

 体を休めるために待機場に戻るけれど、ワクワクしてうまく休めない。何かできることはないかと辺りを見渡すと、茂みの中に薄汚れた小袋が見つかった。

 そっと中を見てみると、小さく折り畳まれた一枚の紙。とても綺麗な字で『私の身体に入った魂の持ち主さま』と書かれている。

 これは流石に私宛だろう・・・・・・なんだか見た事もない文字で書かれているけれど、何故か読めるな・・・・・・まぁいいか。深く考えるの苦手だし。

 

 手紙を袋から取り出し、そっと開いてみると、中にはやはり綺麗な字でメッセージが書かれていた。

 

『私の身体に宿った魂の持ち主さま。突然のことに驚いたことでしょう。

 私の魂が離れた後、残った身体にあなたの魂は宿りました。

 この手紙を読んでいる時、私の魂は既にこの世にはおりません。神様のもとへ参ります。


 毎日毎日殴られ蹴られ、仕事中によろければ鞭を打たれ、味方も友達も居ない。

 疲れ果てて病気になっても、死なれるのは困るのかギリギリで回復魔法をかけられてしまう。

 つらかった。もう何もかもが嫌でした。私には耐えられませんでした。

 お父様やお母様のもとへ行きたくて神様に願ったら、空っぽの身体に別の魂が入るならという条件で私の魂を解放してくれました。

 そこで私は、生きたいと願う強い魂と交代してもらうことにしました。


 お父様、お母様、ごめんなさい。せっかく命をかけて私のことを守ってくれたのに。

 私の身体に宿った魂の持ち主さま、ごめんなさい。つらい役割を押し付けてしまって。

 わがままな私を、どうか許さないで。

         

 レイナ』


 ・・・・・・これやっぱり私は死んだってこと?

それより何より。『死にそうになってもギリギリで回復される』ってことは・・・・・・つまり無限に働けるってことぉ⁉︎ いやっほーい!無限コンティニュー!

 

 最高。まさに私の理想の人生第二ステージ。

 

 私はひたすら依存したい。自分で考えるのは面倒くさい。誰でもいいから私の“主人”になって、命令して仕事を与えてほしい。

 そんな望みを叶えてくれる完璧なシチュエーションに身を置けるなんて。やっぱり普段の行いが良いからかな!


 レイナさん、私と同じ名前でなんだか不思議な感じだけど、本当にありがとう。謝ることないじゃない!こんなに最高なプレゼント、他に無いっていうのに!

 ・・・・・・まぁそれはそうか。この子にとっては奴隷の身分は地獄だったのだし。私にとっては天国だけれど。


 というかこの世界、魔法なんてあるんだね。私もがんばれば使えたりするのかな?

 そんなことを考えていたら、ご主人様たちのうち一人に呼びつけられ、私は喜んで彼の居る焚き火の方へと向かった。

 

 *ーーーーー*ーーーーー*


「はい、どんな御用でしょうか?」

 

 最初に見た、焚き火のある小さな広場。そこに先ほど私を殴りつけたご主人様が立っていた。他のご主人様たちはもう休まれているのだろうか?姿が見えない。


「御用も何もねぇんだよ。てめぇ、俺のことナメてるだろ?」

「滅相もございません!」

「じゃあなんだよその目はよ!ムカつくんだよその視線、私はなんにも悪くありませんみたいな態度しやがって。奴隷のクセに、奴隷のクセに!」


 何故かブチギレていらっしゃる様子。けれど、話ぶりからは私の仕事内容には文句は無いみたい。要するに私の態度が気に食わなかったってことか。

 折檻していただけるのは嬉しいけれど、いたずらにご主人様を苛立たせるのは本意ではない。さて、どうしたものか・・・・・・


「クソが!どいつもこいつも俺のこと馬鹿にしやがって!俺に逆らったらどうなるか、思い知らせてやるよ!」

 

 瞬間。怒り狂うご主人様に頭を掴まれ、焚き火に顔を押しやられ、いっそ冷たくすら感じる熱気が顔面を刺し。

 ───炎が、目前に迫った。

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