我ら二番大隊 中編
昼下がりの駐屯地。
夫婦なのに無言。この状況を打開すべく、二番大隊の香山、黒羽、剣持、小口は知恵を絞る。
生憎二番大隊は一番大隊のように報告書処理に時間はかからない。少々小口が手間取る程度だが、遅れはたかが知れている。
「いいですか大隊長。フランソワーズの人ってのは、デートを重ねてやっと互いを恋人だと認識するらしいですよ。告白なんてのは普段はしないそうです。見合い婚の香山大隊長はこれをすっ飛ばしたから会話がないんじゃないですか?」
「ええ!?わ、私にデートしろって言ってます!?」
「言ってます。非常に不服ながら」
黒羽は「あはは」と自信のない香山を乾いた声で笑う。
「それどこ情報だべ!?」
自分の知らなかった、好きだった人の国の情報に、小口は訛りの強い口調で目を丸くした。
「貿易商だったときの伝手でね。フランソワーズの人とも取引してたんだよ。…そういえば会社が倒産したとき、向こうの人とも連絡取れなくなったな…。所詮人の繋がりなんてそんなものだよね。利益がないとわかれば見限ってポイさ。覚えておきなよ小口くん。君はそんな輩に弄ばれないようにね。あははははは…」
「おい自爆すんなー。小口にも変なこと吹き込まないの」
机に突っ伏した黒羽は剣持に軽く受け流されると、またむくりと顔を上げる。
「でもその時に『デートしてください』って言っちゃダメなんだって。向こうの人からしたら必死過ぎて格好悪いらしい。もっとスマートに、もっとフランクに。『たまたま時間があるから』って体裁を装わないといけないよ」
「そ、それどう言って誘うんです…?」
「さあ?」
「さあ!?」
そこまではと、黒羽は肩をすくめる。本人も誘ったことなどないから知らないらしい。
不安に表情が曇った香山に、小口はバンと勢いよく机を叩いた。
「香山大隊長にそんなまどろっこしいこと無理だあ!もっと堂々と、泥臭くたって正面から『好きだ』って言えばいいべ!要は根性だあ!」
「そっちの方が難しいですぅ~!」
約十歳年下の、至って真面目な小口の解答に、香山の顔はもっと曇る。このどう仕様もないほどどっちつかずな男に、両極の意見を持つ黒羽と小口はため息をついた。
すると黙っていた剣持が不意に口を開く。
「そう言うことなら、『お庭にでも行きませんか?』って誘ったら?」
「「庭?」」
黒羽とも小口とも違う意見に、二人は首を傾げる。香山も曇った顔で少しだけ目線を上げた。
「ほら、香山大隊長って貴族の御家柄でしょう?きっとお庭は副隊長が回り切れてないほど広いって。『散ってしまう前に最後の紅葉でも見ませんか』とか言って誘っちゃえばいいじゃない」
剣持の誰よりも自然且つ雅な誘い文句に、男たちは驚愕する。そして香山は空に一筋の光がさしたように晴れた顔をした。
「そ、それで行きましょう剣持さん!ありがとうございます!」
微生物ほどの息を吹き返した香山は、「すごいすごい!」と興奮気味の小口と一緒に沸き返っている。
「うちの庭なら池がありますし、そこでピクニックもできます!」
「庭に池!?大隊長の家、やっぱり規模が違うだあ…」
資本力に負けた小口はがっくりと肩を落とす。
その様子を見ながら、黒羽は隣の剣持に問いかけた。
「ねえ、それって剣持ちゃんが考えた言葉だけど、香山大隊長本人の言葉じゃなくていいの?そっちの方が喜ばれない?」
「別にどっちでもいいのよ。たとえ誘い方が下手でも、そこで会話がなくても、好きな人と一緒にいられるってだけで、案外幸せなものよ」
数多の恋人たちの会話を聞いてきた元電話交換手、剣持は言葉がうわべだけであることを知っている。大切なのは結局、互いを思いあう気持ちなのだ。
当然のような涼しい横顔の剣持に黒羽は目を丸くした。
「剣持ちゃん、かっこいい…」
「そう?ありがと」
その凛々しさに、黒羽は少しの敗北感と羨ましさを抱いた。
こうして、香山夫婦のお庭デートが決定したのである。
だが、四人は知らなかった。この会話を、早めに帰ってきていたキュリー本人にすべて聞かれていたことを。




