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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
閑話、隊員たちのほのぼの日記
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雪合戦

 本日の天気は雪。

 一番大隊の書類仕事は珍しく早く終わった。

 ゆえにやることは一つである。


「雪合戦だー!」


 泉は降り積もった雪に飛び込む。

 その掛け声を皮切りに、隊員たちも我先にと外へ走り出す。


「はい。それでは皆さん、がんばってください」


 滲は一人、室内で優雅に湯呑を傾けていた。


「副隊長も来なよ~。ボクらと一緒に雪と戯れようよ~」

「私は帰宅した後の除雪作業で頭がいっぱいです。第一、午前中も訓練してよくそんな元気がありますね?」


 体力馬鹿一同に、滲はため息を吐く。

 窓の外で誘う大路を無視し、滲はあたたかい茶をすするのだった。


「はあ、仕方ないね。大隊長~、彼は遊べないようだよ」

「ふえ!?そう、なのか…?」


 雪に埋もれていた泉がトトトと、寂しそうに大路の隣に駆けてくる。

 やがて窓の前に来ると、大きな瞳を潤ませて滲を見つめた。


 それは反則ですよ。大路。


 滲のツボを心得ている大路は、まんまと天然大隊長を使い、滲を外へ連れ出すことに成功する。

 それを泉は大いに喜んでいた。


 だが、滲には一つ問題がある。


「おりゃっ!」「どりゃああああ!」「ふん!」「はっ!」「だあああ!」


 当たれば永眠してしまいそうな雪塊の投げ合いに、滲は普通に参加したくなかった。

 体力、筋力馬鹿一同には、女性であっても滲は勝てない。


 どうしたものか…。


 雪を固め、ほぼ氷のような塊を作っている泉の隣で、滲は顎に手を当てた。


「泉さん。私は審判をやります。二組に分かれてみんなでやりましょう」


 しれっと自分だけ試合から外れた滲は、にっこりと笑顔を零す。

 その意図を理解していない泉は目を輝かせて、二つ返事で了承した。


「うん!わかった!みんな集まれー!」


 こうして泉に気取られず、思惑通りの地位を手に入れた滲は、雪合戦の審判を務めることとなった。




 二組に分かれた陣営は、攻撃の激しさを増す。

 実力差を考慮した、宇野、大路陣営と、泉、榎本陣営は魔族も真っ青の雪塊を、ひたすら策なしに投げまくる。

 滲は雪玉が当たって気絶した隊員を正の字で数えていた。


 やはり残るのは中隊長クラスですね…。


 足元の雪に落としていた視線を滲は上げる。

 他の隊員も決して悪くはない。むしろ戦術なら四人より上なくらいだ。

 しかし仮にも中隊長、大隊長の肩書を背負う者たちは別格である。

 剛速球で飛んできた雪玉を、同じく剛速球の雪玉で相殺するという荒業により、四人は正面衝突を繰り返している。


 もっと頭を使いなさいよ…。


 保護者の目線で見ていた滲は肩を落とした。


 するとしばらくして、投げすぎたのか足元の雪がそれぞれ抉れるように消えてくると、四人は縦横無尽に駆け回った。

 そこからは実力差が如実に表れる。

 榎本は宇野に力負けし脱落。大路は泉にすばしっこさで負け離脱。


 ゆえに両者一騎打ちとなった。


「がんばれっ!」「負けるなーっ!」


 目を覚ました隊員たちが一斉に声を上げる。

 今、隊のツートップが争うさまを、皆が目に焼き付けるように見ていた。


 普段は泉の方が格上であるが、腕力だけで言えば宇野の方が上である。

 宇野は動かずに泉が走る方向にどかどかと雪を投下する。

 しかしその隙を狙うように泉はぐるぐると周囲を駆け回る。


 泉とて宇野の一撃を食らえばひとたまりもないことはわかっているのだ。

 だからこそ手数よりも翻弄。だが、それを選んだのがマズかった。


「あ」


 やってしまったというように、宇野の動きがピタリと止まる。

 その隙に泉が雪玉を投げた、その時。


「「グハッ…!」」


 泉が投げた雪玉が宇野に当たると同時に、もう一つの雪玉が砕ける音が聞こえる。

 振り返るとそれは、泉の後ろにいた滲の顔面に、宇野の投げた雪玉が直撃する音だった。


「うわわっ!」


 雪の上に倒れ込んだ夫に、泉は駆け寄る。

 上半身を抱え起こそうとするが、滲は顔を鼻血で汚し、完全に伸びていた。


「ごめん!副隊長ごめんッ!」


 起き上がってピンピンしている宇野は慌てて滲に駆け寄る。

 そしてその惨状を目にし、急いで滲を医務室に運んで行った。


「滲!死んじゃヤダー!」


 泉は宇野に背負われた滲に泣きついている。


 結局、雪合戦は中止となり、滲が目覚めたのは二日後の朝であった。


「滲!よかったー!」


 その後、彼は訳も分からず医務室で、泉に抱きしめられたのである。

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