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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
閑話、隊員たちのほのぼの日記
60/64

大路と三枚の恋文 前編

「はあ…」


 一番大隊中隊長、大路愛華(まなか)はため息を漏らした。


「どしたあ?珍しく難しい顔して」


 朝日を浴びる駐屯地で、大路の親友、榎本がいぶかしげに声をかけてくる。


 いつも明るく前向き、全てを照らす一番大隊の王子様である彼女が悩んでいることは非常に珍しい。


 そんな首を傾げている榎本に大路は向き直った。


「難しい顔もしたくなるよ。ホラこれ見おくれ!」


 両腕を広げて、雪のように積もった、机の上に溢れんばかりの紙束を指し示す。

 それは仕事の書類…ではなく大路宛の大量の恋文があった。


 榎本は興味をなくしたように自分の席へ戻る。


「ちょっと待った親友!」

「誰が親友だよ!?」


 大声で榎本を呼び止めた大路は、数ある恋文のうちの一部を掲げる。


「実はね…」

「聞いてねえよ」

「この三通の呼び出しのお手紙をくれた子たちの時間がかぶってしまったんだ。しかも三人別々の場所で!」

「あーそうかよ」

「あいにくこの時間にはボクに相談したいことがあると言ってくれた先約がいてね。この危機を一体、ボクはどう乗り越えたらいいんだ!?」

「知るか」


「何を騒いでいるんです?」


 突然の声に、書類に落書きしていた榎本と、仕事そっちのけで恋に頭を悩ませていた大路は固まる。

 見ると二人の背後には薄い笑みをこぼした副隊長、滲が佇んでいた。


「やあ副隊長!キミもボクを助けてくれるのかい?ありがとう!」

「は?何の話です?私そんなこと一言も…」

「おい、“も”ってなんだ!?『キミ“も”』って。オレを数に入れんなよ!」


 大路が名乗りを上げてくれた二人の協力者に感謝を述べた時、三人目の協力者が現れる。


「ん?どうした三人?なんか面白そうな話でもしてるの?」


 厠から帰って来た宇野は興味津々で大路の近くの席に座る。


「実は同じ時間、別の場所に彼女たちに呼び出されてしまって。けれどボクには予定があるし、苦悩に明け暮れていたわけだよ」


 ありのままの真実を大路は宇野に伝えると、この壮大な悩みに非難の声を上げたのは滲だった。


「くだらな!全部断りなさい!あなたには仕事が残っています!」

「なんてこと言うんだい副隊長!?ボクに勇気を出して愛をしたためてくれた子たちの思いを無下にすることなんて、ボクにはできない!」


 滲を困惑させるほど熱く語った大路は席に座り直す。


「という訳でボクは今から彼女たちにお返事を書く。それをキミたち三人に届けてもらいたい!」

「え、おれ今その三人に入れられたの?」


 決め顔で宇野、滲、榎本を指している大路は名案だという風に、ご機嫌で文をしたため始める。


「ダメです。あなたは仕事があります。休憩時間にしなさい」

 そう言うと、滲は大路の筆の先を冷ややかに書類に変える。そして件の手紙を全て没収した。

「ああ!ボクの大事な愛の欠片がーっ!」

「愛の欠片はその書類の束が終わったら返しますから。後で宇野たち諸共付き合ってあげるので今は仕事してください」

「おい何勝手に!?」

「いいよ~、了解~」

「本当かい!?いや~、皆ありがとう!」


 一人反対意見の榎本を指し置き、一同は大路の恋文配達員となるのだった。

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