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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
閑話、隊員たちのほのぼの日記
57/64

宇野十人兄弟 後編

「おーい十番目―。どこだー」

「じゅうべー!」


 駐屯地の外に出て、一番大隊及び宇野兄弟は末弟、十兵衛を探す。


「そんな棒読みじゃ見つかんないよ!八重を見習え榎本!」

「お前なんでそんな上からなんだよ!兄貴を見習え兄貴を!」

「うるさい!」

「じゅうべー!」


 外に出て喧嘩が始まる榎本と三郎の間で、八重は一生懸命に弟の名を叫び、


「ここか?それともここ?こっち?」

「あっちじゃね?」

「あっちかもな」


 泉はその身体能力を生かし、十兵衛のいそうな場所を五彦と七男とともにしらみつぶしに探していく。

 もはや地面を匍匐前進で進んでいく泉に滲は無言で困惑していた。


「なにやってんの副隊長も探して!」


 九太を肩車しながら側溝に顔を突っ込む宇野に滲は悲鳴を上げ、慌てて九太を宇野の頭から引きはがす。


「あなたが何やってんですか!?」

「え!?なに!?いた!?」


 先程の危険を理解していないのか宇野は十兵衛が見つかったのかと振り向く。

 二葉は滲に預けられた九太を抱え、兄たちとは対照的にゆったりと「十兵衛~。でてらっしゃ~い」と練り歩く。

 大路は楽しげにしていれば向こうから寄ってくると考え、四織と六花と歌い踊っていた。


「おい大路邪魔!」

「え?ああごめんよ!」


 表現力が爆発している大路の舞は、幅を取るため榎本の視界を遮る。

 その横を泉と五彦、七男は匍匐前進で素通りした。

 最早なんの集団になっているのかわからない一番大隊に滲は言葉を失う。


 しかしそんな時、どこからか小さな赤子の笑い声が聞こえてきた。


「十兵衛!」


 宇野は顔を上げ声のした方へ走り出す。

 するとそこには木の下にしゃがみこむ、二番大隊の香山とキュリーがいた。

 演習場帰りなのだろうか、二人はその足に対魔飛行装置をつけている。


 その奥には。


「ああい、きゃっきゃ」


 真っ白なキュリーの頬をぺたぺたと触っている十兵衛は楽しそうに笑っていた。


「ああ!宇野さん!この子貴方のお子さんですか!?探していたんですよ~!」


 困り顔の香山が咄嗟に振り返るが、宇野は反応できない。


 その二人の姿があまりにも我が子を世話する夫婦に見えたので、宇野は呆然と立ち止まった。


「え?あの、宇野さん…?」

「大隊長お静かに。この子が泣き出しそうです」

「ひぃ!ごめんなさい!」


 香山の大きな声が怖かったのか、十兵衛は泣きじゃくりそうになる。


 しかしそんな十兵衛をそっと抱え、キュリーはゆっくりと立ち上がり宇野に彼を明け渡した。


「そっくりですね。息子さんですか?」

「え?いや、弟です」

「「弟…!?」」


 香山夫妻はその歳の差に目を見開く。

 だがその背からひょこりとよじ登った九太が顔を出した。


「あ!じゅうべえみっけ!」

「え?」


 宇野の背から同じ顔が出てきて香山は静かに声にならない声を上げる。

 そして九太の声に散らばっていた他兄弟たちは一斉に顔を向けた。


「え?どこどこ?」

「じゅうべー!」

「なんだこんなところにいやがったのか」

「探したんだぞ~」


 ぞろぞろと集まってくる同じ顔に香山は目を回した。


「え、あの、全員、ご兄弟です?」

「あ!こいつが十兵衛か!」


 香山の質問に被せて泉が兄弟面してやって来る。

 その声を聞きつけて榎本、大路、滲、一番大隊の面々がやってきた。


「うわちっちぇ」

「かわいい~!」


 宇野囲む兄弟たちと一番大隊は、十兵衛のあどけなさにメロメロであった。

 呆然とした香山夫婦は立ち尽くす。


 なにはともあれ見つかったことに安心したのか、宇野は息を吐いてその場にしゃがみこんだ。


「うわああ!?大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。あ~ほんとびっくりした~」


 香山の悲鳴に宇野は笑いかける。


 色々あったようだが、それでも隊員たちの中で兄弟たちを抱える宇野は、とても幸せそうだった。

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