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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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老猿と雪鬼

 南の山頂付近。木の陰に潜む二体の魔族在り。


 一体の猿のような年老いた魔族は、西洋から輸入した双眼鏡を持って、燃え盛る集落を観察していた。

 するとそこへ、こちら側へ向かって来ようとする一団を見つける。


『ほウ?気づく奴がおったカ』


 老猿の言葉に、傍らにいた鬼は、血のように赤い目を丸くした。


『なんダト?…ウッ、そんなことよりもマズイ』


 鬼は芳しくない面持ちで呻く。


『どうしタ?』

『力を抑え込むのがキツくなってキタ…。うっかり一発くしゃみでもしてしまえば、ここら一帯は氷河になってしマウ…』


 必死に堪えているが、どうしてもつらいのか、ここの来た時よりも多くの冷気が漏れ出ている。

 だが、老猿は落ち着いた様子で、静かに言い返した。


『それは大変じゃナ。儂もあやつらも仲良く氷漬けとハ』

『それはダメダ!我慢スル!我慢するから…。というか僕の出番はまダカ!?』


 弱音を吐いていた鬼は慌てて気合を入れなおすと、少しだけムッとした表情をする。

 しかし大猿は、枯れ松の葉の如き毛を生やした首を横に振った。


『残念ながらまだじゃナ。だが人間たちも良くやっとル。このままいけば、もしかするとお主の出番はないかもしれんナ』

『なニ!?僕が人間“ども”に…』


 自然に口から出た言葉。だが言葉に、鬼ははっと自らの口をふさぐ。振り向いた猿も、わずかに眉間にしわを寄せた。


『いや、この呼び方はやめたんだっタナ…』


 鬼は口から手を離すと、少しだけ、苦い記憶を思い出したかのように言い直した。


『僕が人間“たち”に遅れを取るとでも思っているノカ?』


 大猿も眉間の皺をとく。


『そうは言っとらン。これだけ奴が暴れれば、お主が出る幕もなく、彼らが勝手に片付けてくれるかもしれぬと言っておル。そちらの方が好都合ではないカ?』


 そう言って、老いた猿はまた双眼鏡を覗き込む。


『まあそう焦るでなイ。仮にも思惑通りに事が運んだらの話じャ。最後まで見守ることに変わりはないサ』

『…。これで出番がなかったら、僕は氷で岩をゴリゴリ削っただけになるんダガ…』


 不貞腐れた様子の鬼は、釈然としないまま肩をすくめ、引き続き一帯を氷河にしないように、渋い顔で耐え忍ぶのだった。

次回更新は2月4日(水)予定です。また本編か閑話かは決まっていません。出来栄え次第となります。

すみません。

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