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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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戦況は動く

 香山が駆けつけ、状況は好転するかに思われた。


 だが。


「おお!香山大隊長来てくれたのか!聞いてくれ!山が燃えた。敵は晶子さんを狙ってる。以上だ!」

「え、大隊長?それではわからないんじゃ…」

「ええええええ!?佐々木大隊長の奥様が!?想像以上に大変じゃないですか!?」


 わかるんだ…。


 滲と佐々木は二人を驚きの目で見つめる。

 見合いの時に姿も見たことがない佐々木の妻の名を、香山は覚えていたらしい。

 すぐに状況を理解し、香山は蹴散らしてなお視界に増え続ける隊員たちを見回す。


「補足説明だ。俺の隊員たちが操られた。多分敵の親玉はうちの副隊長に憑りついてる。そいつが晶子の方へ逃げて追わなきゃならない。香山、お前増援は何人連れてきた?」

「なるほど。現在私だけが先に飛んできましたが、二番大隊、そして一番大隊の皆さんがこの村に向かっています」

「二個大隊で押し切れるか…」

「待って下さい!あの大岩が道を塞いでるんですよ!月穂さんの地形図を見ましたが、この険しい山を何も知らずに越えるのは、一番大隊ならまだしも、二番大隊には酷に思えます!」

「じゃあどうすりゃいい!」


 佐々木たちの周りには、もう数十の隊員たちが掌の魔法陣を光らせている。

 泉が咄嗟にそれを阻止し、相手の腹に一撃を入れた。

 滲、佐々木、香山も各々の前方の敵をねじ伏せる。


「私に考えがあります!香山大隊長、あなた私を抱えて飛べたりしますか?」

「え!?どういうことです!?」


「怪火は晶子さんの最後を見せるため、部下に佐々木大隊長は残せと命じました。なぜわざわざそんなことをするのか。それは佐々木大隊長の最も嫌がることをしたいからです。部下を乗っ取ったのもそう。奴はあなたの反応を楽しんでいるんです」


「は?話が見えないんだが…」


「しかし逆を言えばそれは、佐々木大隊長が晶子さんの前に姿を見せなければいいだけの話なんです。ゆえに佐々木大隊長と有明大隊長はここで操られた隊員の足止め、時間稼ぎをお願いします。私と香山大隊長は宇野中隊長たちに順路を伝えるべく一度戦線を離脱し、一、二番大隊をなだれ込ませます。これなら闇雲に怪火を追うよりも勝率は高いと考えます」


「なるほどな。香山、そいつを連れて行け。こっちは俺と有明が引き受ける」

「承知しました。ご武運を!」


 香山は即座に滲を抱え空へと舞い上がる。

 そして佐々木は、三人の会話を何も理解できず、ポカンとしている泉に向き直った。


 まさか俺がこれをやる日がくるとは…。


 佐々木は内心とある人物を思い浮かべながら、泉の肩にポンと手を置いた。

 泉は少々驚いていたが、佐々木は言葉を続ける。


「いいか有明、何もわからなくていい。指示は一つだ。ここを制圧しろ。いつも通りやればいい。困ったら俺が何とかする」


 その言葉に、泉は何か懐かしさを感じたように顔を上げた。

 少し呆然とした後に、泉は「うん!」と頷くと、今まで背後を護るように戦っていた構えを、全方位殲滅型に切り替える。


 炎すら意に介さず、脚を蹴りだし、体を捻り、腕を広げて視界に入るすべての敵に躊躇なく立ち向かう。

 そんな泉の動きに合わせるように、佐々木は片鎌槍を構えた。


 武力全振りの大隊長と、経験による臨機応変な戦術を得意とする大隊長は共に抜群の相性を発揮する。


 この炎の山の戦場は、たった二人に預けられたのだった。



 

 滲が香山に抱えられ、宇野たちのもとへ向かう少し前。

 村へと続く一本道にて、宇野たちはキュリーとともに、先に飛んで行った香山を全速力で追いかけていた。


「へっくしゅん!ねえ、なんか変に寒くない?こんなもん?」

「冬ですからね。しかしここまでの寒さは予想外と言うか…」


 先頭の宇野とキュリーが異様な寒さに体を震わせる。

 すると灰色の空の下へ入ると、突如としてカランコロンと奇妙な音が聞こえてくる。

 見上げるとそれは千歳飴のようで、手に取ればすぐに消えてしまった。


「飴の雨ってことかい?」

「やめろこれ以上寒くするなッ!」


 大路の放った一言に、榎本は両腕で体を抱えながら一喝する。

 しかし問題はこの異常な寒さだけではなかった。


「おいあれって…」


 目的の村へたどり着く唯一の道が塞がれていることを、宇野たちは確認する。


「なるほど。これにより佐々木大隊長たちは閉じ込められたのでしょうか?」


 推測力のあるキュリーは確かめるように大岩を見上げる。


 歪だが、細い道幅にすっぽりと嵌っていて通る隙間がない。かといってよじ登ろうとしても表面にあまり凹凸がなく手足を駆けれそうな場所は少ない。


「どうしましょう…」

「山登ればいいんじゃねえの?横に逸れたら越えれるだろ」


 キュリーの困惑に榎本は大岩の隣の、ほぼ直角の削れた山肌をよじ登ろうとする。

 しかし手をかけた瞬間、山肌の一角はボロッと崩れ落ちた。


「お、おう…」


 手の中の丸々削れた土塊を見て榎本は血の気が引く。

 一同は一瞬で山越えを断念した。


「あ、じゃあさあ…」


 宇野が言いかけたその時。道傍の茂みからガサガサと物音がした。


 宇野たちは咄嗟に武器を構える。


 誰もが魔族ではないかと考えた緊張した空気の中、それらは突然に顔を出した。


「あーもう無理。疲れた。オレもうここから一歩も動きたくない」

(すが)中隊長、そんなこと言わないの。これから仲間たちを救いに行かなきゃならないのに」

「じゃあ瀬川(せがわ)ちゃんが背負ってよ。園寺(そのでら)のじいちゃん重いんだよ」

「え、ワシそんなに重い?ワシの体は羽より軽いはずなんだけどな…」

「嘘つけ!」


 素っ頓狂な会話をして茂みから出てきたのは、討伐部隊制服を着た人間。

 老人を背負った飄々とした若い男と、その隣の落ち着いた若い女性。しかし現れたのはその三人のみならず、後続に十数人は同じ制服を着た隊員たちがいる。


「え?だ、誰?」


 宇野が自らの大太刀を落としそうになるほど気が抜けると、老人を背負った若い男と目が合う。


「あ、一番大隊と二番大隊?やったー!増援だよ!これで戦況は大きく変わるね!」


 飄々とした男は喜んでいるが、絶賛こっちも問題にぶつかったところなので、宇野たちは何も言えなかった。

 そこへ彼の背から降りた老人が宇野たちに向き直る。


「これはこれは一番大隊と二番大隊の皆さま。ワシらは三番大隊の生き残りです。なんでもうちの隊が乗っ取られましてなあ」

「その件に関しては聞き及んでいます。しかし今は…」


 キュリーが言葉を濁したとき、老人は大岩へ目を向ける。


「ほう。道が塞がれて通れないと?」


 一番大隊よりも頭の回転が速い老人は、すぐさま飄々とした男の肩を叩く。


「菅、これをどう見る」

「え?どうって…」


 菅と呼ばれた飄々とした男は、目の前の大岩を見つめた。


 すると。


「なにこれ。こんな綺麗な削れ方する?しかも横の土もなんでこんな濡れてるの?まるで霜柱が溶けたみたいになってるけど、時期的には早くない?」


 一体何の話をしているのかと思うほど菅はペラペラと疑問を口にする。


「えー、嘘でしょ?ここの周りほぼ崖だから迂回して来たのにこんなことってある?丸一日火傷と煤と汗まみれになって走ってきてこりゃないわ~」

「菅中隊長、関係ないことまで言ってるわよ」

「ごめんて」


 脱線しかけた菅の話を、瀬川という落ち着いた女性がたしなめる。


 しかし菅の不満は止まらない。


「でもこれどうやって越えるの?大分頑丈そうだし絶対壊せな…」

「あー、あの。それなんだけどさあ…」


 宇野は初対面の多分年下相手に、遠慮がちに声をかける。

 何をやろうとしたか察した大路は、全部隊に声を上げた。


「なるほど!皆離れておいた方がいい。彼らの邪魔になってしまうからね」

「は?どういうこと…う゛ッ!」


 立ち止まっていた菅は瀬川に首根っこ掴まれて脇に逸れる。


 すると宇野は大太刀振りかざして大岩へと一撃を放つ。

 そしてすかさず宇野中隊隊員が同じところに打撃を入れた。


「え?まさか…?」


 何をしようとしたか察した菅は困惑する。


 しかし大岩は菅の予想に反し、どんどん穿つように岩が削れていく。


 そしてついに。


 宇野が大太刀を振るうと、大岩はドカン!と粉々に砕け散ったのだった。


 絶対無理だと思っていた菅達三番大隊は開いた口が塞がらなくなる。

 キュリー達二番大隊も、あまりに強引な様に言葉を失っていた。


「ふー、壊れた壊れた。皆ありがとう!」


 そんな周囲の反応も知らず、宇野は安心したように自身の隊員及び離れていた全部隊に感謝を述べた。

 正面突破が基本の一番大隊には、迂回という選択肢はない。

 他部隊を静まり返らせた宇野は、「あれ?」と皆の反応に困惑の声を漏らす。


 が、それも束の間。


 ここにいる全部隊が目を見開く。


 すぐそこの家に、助けを求める人たちが集まっている。

 しかし道の先に広がっていた光景は、さながら地獄のようであった。

キャラが多くて大変覚えにくいですが、名前はすべて「さしすせそ」。それが三番大隊です。


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