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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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それはまるで御伽噺のように

 昔々あるところに、一人の農家の少年と大地主の若き令嬢がいました。


 聞かん坊であった少年はいつも誰かと喧嘩していて、令嬢はそれをいつも優しくなだめるのが日課でした。


 しかし、幸せな日々もそう長くは続きません。


 時がたつにつれて、令嬢はまるで宝石のように美しく育ち、やがて村の外の豪商に気に入られ、婚約することになりました。

 村人たちは令嬢の婚約で大騒ぎ。


 そんな中、同じ時に少年はいつしか青年となり、毎日の喧嘩のかいあってか、鉄のような強さを持つようになっていました。彼は村の喧騒とは対照的に、ひっそりと軍へ務め、村を出ることとなりました。


 令嬢は言いました。いかなで、と。

 青年は言いました。お幸せに、と。


 二人の幼馴染の間には、長い時が募らせた、淡い恋心というものが芽生えていたのかもしれません。


 しかし自分は農民、相手は豪商。


 青年は自分の心を隠したまま、令嬢の幸せを願って身を引いたのです。


 それから月日が流れたある日、村が魔族に襲われたのです。


 山々に囲まれた村はすぐさま火の海となり、木々を焼き尽くしました。

 村人たちは必死に逃げ、中でも令嬢は大地主により、特段丁重に逃がされました。


 しかし令嬢は何かを庇って一目散に走りだしたのです。

 村人たちは止めようとしました。


 けれど令嬢は火の魔族に見つかってしまいます。


 顔を焼かれ、全身を焼かれ、宝石のように美しかった姿は溶け落ち、その面影はどこにも残っていませんでした。


 軍の討伐隊と消防組が到着しましたが、惜しくも火の魔族は倒せず、逃げられてしまうのでした。


 しかし炎は鎮火され、令嬢は近くの病院へと運ばれました。


 幸い命に別状はなかったのですが、皮膚の半分以上は焼けただれてしまいました。


 数日後、事情を聞きつけた婚約者がやってきます。

 すると豪商は彼女を見てこう言いました。化け物、と。


 令嬢の姿に怯え、あろうことか婚約者は逃げ出してしまったのです。


 令嬢は深く傷つきました。


 しかしこれだけでは終わりません。

 彼女を見た村の子どもが皆、泣いてしまったのです。怖い、と。


 やがて彼女は心を閉ざし、黒子を被り、誰にも姿を見せなくなりました。


 そんな時、幼馴染の彼が村に帰って来たのです。

 彼は憔悴した彼女に驚きました。

 彼が黒子を取ろうとすると、彼女は嫌がります。


 わたしを見ないで。わたしは化け物。


 涙も枯れた彼女は彼の手を振り払います。


 けれどその時、村が再び火の魔族に襲われたのです。

 火の魔族は令嬢を執拗に追いかけ、灰にしてしまおうと企みます。


 復興へ向かっていた村はまた火に覆われ、もうだめかと誰もが諦めたその時、幼馴染の青年は自らの槍で魔族へと突きかかったのです。

 彼は討伐隊でも倒せなかった魔族に果敢に一人で立ち向かったのです。


 そして攻防の末、彼がとどめの一撃を刺すと、魔族は消えていきました。


 唖然とする彼女。唖然とする村人。


 そんな彼女に彼はふと、昔と変わらぬ笑顔で笑いかけました。




「と!このように父は火の魔族を退け母に求婚を…!」

「おい何してんだ昨日言うなって言ったよな?」

「今日です」

「わかってんならやめろよ!」


 泉が月穂劇場に見入っていると、帰って来た佐々木に止められた。


「そして父はこう言ったのです。『お前は』」

「もうやめろホントにやめろ謝るから」


 臨場感たっぷりに雪希を抱きしめていた月穂は佐々木に引きはがされる。


「ああ!ここからがいいとこだったのに!」


 月穂の嘆きとともに、佐々木は聞き入る泉たちにも声を上げる。


「はい終わり!お前も残念がってんじゃねえ!」


 しょんぼりしている泉を佐々木は指さす。


「いいとこだったのに…」


 最後まで聞きたかった泉は不貞腐れて口を尖らせた。

 隣の滲も名残惜しそうに佐々木に反論している。


 こうして、頭を抱える佐々木のよそで馴れ初め話は中断されたのであった。

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