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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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一、二番大隊合同任務

 一番大隊駐屯所と二番、三番大隊駐屯所は一本の渡り廊下で繋がっている。

 榎本、大路は宇野を先頭に二番大隊駐屯所を目指し全力疾走する。


 しかし。


「あれ?有明んとこの心技体じゃん」


 突然前を歩いていた片目の男に宇野たちは呼び止められる。


「どしたの?三人でおつかい?」


 急に止まってつんのめった三人組に後藤は面白そうに笑いかける。


「やあ軍部大臣!会えてうれしいよ!」


 いち早く起き上がった大路はたとえ軍最高位の人間にも平等に口説きかける。

 それを失礼と認識されるか、恋に落ちるかの狭間の美しく向けられた笑顔に、後藤は「あ、うん。オレも」と平然と返した。

 だが、今一番焦っている宇野はそれどころではない。


「ちょっとすいませんね!?今おれら香山大隊長を呼びに行かなきゃいけないんで!!」

「香山?なんで?」


 後藤は心底不思議そうに首を傾げる。


 足が二番大隊の方に向いている宇野は、すでに前のめりに走り出しそうだった。

 そんな宇野の代わりにダルそうな榎本が答える。


「うちの大隊長夫婦がいないから、香山大隊長呼びに行こうってなって…」

「有明も?」

「はい。え?」


 頷こうとした榎本は顔を上げる。

 有明“も”と言い放った後藤の片目は静かに見開かれていた。


「実はオレも先ぱ…佐々木がいなかったから有明のとこに行こうと思ってたんだ」


 昨日胸ぐら掴まれ門前払いされていた後藤は、また懲りもせずに単身乗り込んでいたようだった。

 だが、後藤は何か考え込んだように神妙な面持ちとなる。


「戌地区…」


 後藤はぽつりとつぶやく。そして宇野と同じ方向に踵を返した。


「オレも行こう。香山のところだな?走っていいぞ」

「よっしゃー!」


 宇野の背中を押し、行けと指示すると、後藤は自らもその足で走り出す。


「え!?ちょっ、あんたマジかよ!?」

「走れるね~!ボクらも負けてられない!」


 宇野たちよりも歳を重ねているとはいえ、泉を育てた軍人である後藤は、前線を退いてなおその身体能力は健在である。

 宇野は後藤を背に二番大隊駐屯所まで着くと、大きな声で「失礼します!」と扉を開いた。

 ノックもせずに勢いよく扉が開いたからか、はたまたその後ろに軍部大臣が控えていたからか、二番大隊全員の視線が宇野たちに注がれる。


「後藤軍部大臣…!」

「え!?ど、ど、どうされました!?一番大隊の方々まで…!」


 珍しすぎる組み合わせの四人に、キュリーと香山は目を丸くする。

 しかしそれ以上に宇野たちは香山たちが囲む中心の人物に目を見張った。


 床に横たわり、かろうじて息をしているが、全身が火傷まみれ。衛生兵に治療されながらも、その男は香山の袖を必死につかみ何かを叫んでいた。


「さん…たい…!のっとられ…こうせん、ちゅう…!」


 その言葉に後藤は輪を押しのけその人物のもとへとしゃがみこむ。


「おい、首だけ振れ。三番大隊が乗っ取られたってことでいいな?」


 後藤の指示に彼は頷く。


「治療してやれ。あとは任せろ」


 端的に衛生兵に指示を出すと、後藤は火傷の男をすぐに下げさせる。

 そして次に香山に指示を出した。


「地図を持ってこい。帝都とハナヤマト全体の地図。今すぐだ」

「は、はいっ!」


 片目を鋭くした後藤に怯えながらも、香山はすぐさま地図を持ってくる。

 二つの地図を無造作に広げる後藤はその辺のペンを地図の上に置いた。


 そして。


「一番大隊、有明たちはいつからいない?」

「え?昨日からです…」

「具体的に」

「えーと…」

「昨日の晩、魔族討伐後からだよ。ちょうどこのあたり」


 質問に答えられなかった宇野の代わりに大路が答え、ペンを動かす。

 すると後藤はもう一本のペンを取り出し、ある小さな村の上に置いた。


「お?どこそれ?」

「佐々木の家がある集落だ」

「へ、へえ?」


 何が関係あると榎本はわからなさ過ぎて目を細める。


 しかしその二本のペンの位置は驚くほど似ていた。


 さらに後藤はその手を止めない。

 また別のペンを取り出し、今度はハナヤマトの地図へと置いた。


「昨日三番大隊は佐々木だけを帝都に戻し、問題なく東沿岸部に駐留していたはずだ」

「え!?そうなの?なら昨日に行っても海辺のレディたちには会えなかったのか…」

「黙ってろ大路」


 後藤の指示が聞こえないだろと榎本は大路の言葉を一蹴する。

 だが後藤はそれを気にも止めずに考え込むように話し続けた。


「つまりこいつは東から一日かけてここまで来たことになる。そして有明、佐々木がいないことを考えるとつまり…」


 後藤の脳裏に一度だけ見たことのある佐々木の嫁の姿が浮かぶ。


 東沿岸部に置かれていたペンを、後藤は二本のペンのもとへと持ってくると、三本のペンは一か所に揃う。


「戌地区、山間集落か…」


 導き出した答えに後藤は重々しく口を開くと、顔を上げ、隊員たちに向き直る。


「一、二番大隊はこれより合同任務にあたってもらう。場所はここ、戌地区山間集落。やり方は任せる。住民の避難が最優先だ。気をつけろ、何が起こるかわからんぞ」


 後藤の指示に二番大隊は即座に動き出す。


「戌地区か…。あそこ遠いよ?昨日も片道三時間かかったし」

「仕方ねえだろ今すぐ行くぞ!」


 大路、榎本は自身の大隊を呼びに行こうと宇野の肩を引っ張る。

 しかし色んなことを一気に言われた宇野は混乱して動けずにいた。


「え!?何!?つまりどうしたらいいの!?ねえ!?」


 そんな宇野に後藤はわかりやすく耳打ちした。


「大丈夫だ。いつも通りやればいい。困ったら香山が何とかしてくれる」

「はい!?」


 結局香山にぶん投げた後藤の指示を宇野はようやく理解する。

 泉と同じ系譜を受け継ぐ者に指示を出すのは、後藤には造作もなかった。

 走り出そうとした宇野たちを後藤は呼び止める。


「待て、装置を持っていけ。合流出来たら使わせろ」

「了解!有明大隊長の分ね!」

「それと佐々木の分も持っていけ。多分奴も同じところにいる」

「了解!任せておくれよ」


 持ち物チェックを終え、再び宇野たちは走り出す。


「はあ…」


 その背を後藤は芳しくない様子で見送った。


「香山、キュリー」


 出動準備をしている時、二人は後藤に呼び止められる。


「え、あ、はい、なんでしょう?」

「大量の水を確保しろ。多分現地で使うことになる」

「わかりました。用意いたしましょう」


 最悪を想定した後藤に香山とキュリーは動く。

 しかしそんな二人に、後藤はぽつりと懺悔のようにつぶやいた。


「苦労を掛けるな…」


 香山とキュリーは目を見開く。


 それに後藤申し訳なさそうに二人にふと笑いかるのだった。

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