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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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理想の人

 朝になると泉は満足そうに起きてきた。


「ふあ~、あったかかった」

「それはよかったですね。おはようございます」

「おはよ~」


 寝起きだからかふわふわとしている泉に滲はクスリと笑いかける。

 その様子を同じく隣で起きてきた雪希が羨ましそうに見つめていた。


「いいわね。紳士的で素敵だわ!」


 朝からいいもの見せてもらったと雪希は微笑む。

 そしてふと視線を二人目の妹がいたはずの布団に移し首を傾げた。


「あら、花奈は?」

「先ほど佐々木大隊長の後を追って岩を見に行かれましたよ」

「あの子仕事熱心よね~。もう少しゆっくりしていってもいいのに」


 妹には甘いのか雪希はやれやれと肩をすくめる。

 そんな時、台所へとつながる障子が開いた。


「み、みんな…。朝ごはんできたよ…。食べる…?」

「食べる~!」


 この家の子ですと言わんばかりに泉は晶子に返事をする。

 月穂も起きてきたようで、障子の向こうから居間へと足を運ぶと、朝食を食べられるよう、木の如く積み上げた本を片付けるのであった。


 外に出てしまった柚木と佐々木を置いて、晶子、雪希、月穂と泉、滲は朝食をとる。


「すみません、また御馳走になってしまって」

「いえいえ…。お気になさらず…。いっぱい食べてね…」


 晶子に一礼する滲をよそに、雪希は泉の隣に腰かけ箸を取った。


「いいわね泉ちゃん、あんな旦那さんがいて」

「んにゃ?雪希ちゃんは結婚してないのか?」


 素朴な疑問に泉はきょとんとお米を頬張る。


「ええそうよ。姉妹で結婚してるのは花奈だけ」


 思い返せば柚木だけは指輪をしていた。どれが左手の薬指かを覚えきれていない泉の目には「なんか指輪してるな」としか映っていなかったが、その意味をようやく理解する。


「なるほど!…ん?旦那さんは?」


 きょろきょろとあたりを見回すが、この家に佐々木一家と泉たち以外の男はいないように思えた。


「今花奈の旦那さんは、冬の遠洋漁業でカツオの一本釣りやってるからいないわよ」

「え!?カツオ!?」


 驚く泉に滲が「ああ」と思い出したかのように割って入る。


「たしか柚木中隊長の旦那さんは南西の海岸の漁師さんでしたね。魔族を倒す姿に惚れたがどうとかで公開プロポーズしたっていう」

「そう、それよ」

「え?なんでそんなこと滲が知ってるんだ?」


 一人ついていけずにポカンとしている泉は首を傾げる。


「私の元いた六番大隊の大隊長と七、八番大隊の大隊長方は同期で交流が深いんですよ」

「へ~」


 北東の海を守護する七番大隊と、南西の海を守護する八番大隊は、三番大隊のような移動はせず、ほぼ港町に常駐しているので泉とはあまり交流がない。

 だからこそ知らない話が聞けて、泉には面白かった。


「ま、その点で言うと月穂も婚約してるわよ。この村の子とだけど」

「ええ!?そうなのか!?」


 びっくり顔の泉に、月穂はほんのりと頬を染める。


「はい。恥ずかしながら二軒先の年下の方と婚約しております」

「まだ彼、十八じゃないから結婚できないのよ」

「あすみません。泉さん多分理解できないんでそこのところは端折ってあげてください」


 法律関係に疎い泉のことを察知し、滲は野菜を取りながら、雪希の補足を申し訳なさそうに遮った。


「あらそう。まあいいわ。つまり独身はわたしだけってこと。だから本当に泉ちゃんたちが羨ましいわ」


 はあとため息を吐く雪希に泉ではなく滲が疑問を覚えた。


「そうなのですか?雪希さんのような美貌ならお相手など引く手あまたでは?」


 三姉妹とも母親に似たのか季節の姫の如き端麗な容姿をしている。その中でも雪希は冷たさとあたたかさの差異が激しい性格をしているが、度量の深い人物であることはこの短期間で見て取れた。

 そんな彼女を見過ごす男がいるのかと滲は首を傾げる。


 だが。


「ダメよ。わたし恋には妥協したくない性格なの。なのに薄っぺらい男しか寄ってこなくてホント嫌になっちゃう」


 辛辣な答えに滲の顔は引きつる。

 しかし泉はぽやんとしていて「じゃあどんな人がいいの?」と軽く尋ねている。


「そうね。やっぱり正しいことは正しいと、間違っていることは間違っているとはっきり言える人が良いわね。他人の言うことばっかり聞いてへこへこしている人は嫌いだから~。自分の意見を貫ける、周りに何言われても平気な人がいいわ!」


 如何にナヨっちい男しか寄って来なかったのかを思わせる具体的な理想に、滲は笑顔を張り付けたまま、「そうですか」と無難な返ししか思いつかなかった。

 これで謙遜が美徳のハナヤマト男児八割は除外されたと滲は思う。


 だが、理想を語っていた雪希はくるりと現実に戻てくる。


「けれどそんな人中々いないのよね。わたしの理想が高いのかしら?相手の方が先に結婚していくのよね。前振った香山って人も結婚したみたいだし…」

「え!?香山!?」


 泉は天ぷらに噛り付きながら声を上げる。滲も目を見開いていた。


「あらそうよ?確か二番大隊の大隊長さんだったっけ?でも他人の意見ばっかり聞いて自分のこと何も話さなかったから振ってやったわ」


 ツンと言い放つ雪希に泉たちはナヨナヨした男代表のような香山に同情する。


「やっぱりおもねるような男はダメね。尊敬できないし、わたしと合わないわ」


 散々な言いように滲は少々固まる。

 しかし月穂と泉は違った。


「お~!なんかかっこいいな!確かにそうかも!」

「尊敬の念を抱けるかどうか。人にはよりますが、重要なことですよね」


 女性陣の意見は肯定的なようで、月穂はともかく泉でさえもしみじみと頷いている。


 これに滲は肩身狭く、何も言えなかった。


「ほら、こういうのよ」


 雪希は何の前触れもなく滲を指す。

 完全に他人の意見を聞いてへこへこするだけの男になっていた滲はぎょっとする。


 しかしそれにびっくりした泉は慌てて雪希に弁明する。


「ち、違うぞ!滲はいいやつだし、言いたいことははっきり言うぞ!私が失敗したときはすごい怖い目で睨んでくるし…」


 それは擁護かと疑いたくなる泉の反論に、滲は目を点にする。だが雪希はそんな泉にクスっと笑った。


「あらそうなの?面白い旦那さんね」


 意外にさっぱりと、そして肯定的に受け取られた泉の発言に、滲は肩を落とす。


「やっぱりちょっと見ただけじゃわからないものなのかしら?」

「確かに姉さんは他人をばっさりと切りすぎるのかもしれません。もう少し親交を深めてから結論をだしてもいいかもしれません」


 滲という実例により、姉妹はひそひそと勝手に恋愛相談を始める。

 よくわからないが、滲の汚名を晴らせたようで、泉はほっと満足気に味噌汁を飲み込む。


 すると。


「あの、有明大隊長…?対魔飛行装置とかもってます…?」


 大岩を見に行っていた柚木が戻ってきて襖を開けた。


「ん?持ってないぞ?」


 柚木にくるりと向きを変えた泉はあっけらかんと言い放つ。

 昨晩討伐した魔族は飛行型ではなかったので、泉たちは武器しか持っていない。


「ああ…、そ、そうですか…。お父さんのも充電中だっていってたしな…」


 ぼそぼそと喋る柚木の言葉は泉たちには聞こえない。

 が、やがて思考がまとまったように柚木は顔を上げた。


「あの、お二人って今日お仕事は…」

「ああ!あるぞ!それがどうした?」


 言いにくそうな柚木に泉は元気よく答える。

 しかし柚木はそんな泉に芳しくない面持ちで伝えた。


「実は、大岩が動きそうになくて…。外から助けが来るまで出られない…かもしれません…」


 絶望的な報告に、泉たちだけでなく雪希たちまでもが固まる。


「え!?それわたしたちも出れないってこと!?」

「そう…」

「閉じ込められたということですか。しかもこのような田舎、外との連絡手段などありませんよ」

「そう、なんだよね…。だから、困ってるんだよ…」


 絶望的な状況に姉妹及び泉たちは困惑する。

 しかしたった一人、滲だけは全く別の心配ごとで青ざめていた。


「私と泉さん無しで、アレが、一人?大丈夫でしょうか…?いえ、それ以上に被害額が…。ああ、ああッ!」


 この世の終わりかと思うほど頭を抱えている滲は発狂寸前である。


 そして、奇しくもその時、滲にアレと呼ばれた男は大混乱に陥っていた。

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