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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
三章、三番大隊編
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遭難

 いくつもの村を経由して滲が連れてきたのは、戌地区の何もない荒れ地だった。


 山に囲まれた草木は冬の寒さに色を失い、全て枯れている。

 ここまでだいぶ獣道を歩いて来たからか、泉の軍服の裾にはひっつき虫がくっついていた。


 泉がひっつき虫を取るのに夢中になっていると、滲は近くの木をさすり、目を見開いていた。


「ここだった…」

「ん?」


 泉が顔を上げると、滲は頬に一筋の涙を流し、泣いていた。

 それに泉はぎょっとする。


「ええええ!?どうした滲!?」


 慌てて泉が駆け寄ると、滲はぽろぽろと涙を流しながら、ただひたすらにこうつぶやいていた。


「ここだった…。ここだったんですよ…。ここだったのに…」


 どうしてと数回、数十回繰り返す滲は泣き崩れる。

 泉もどうしてよいかわからずに、あたふたと泣いている滲の背をさすった。


 そして完全に日が落ちて数時間後、滲は少し泣きやんだようにようやく顔を上げた。


「すみません泉さん…。わけわかんないですよ…ね…」


 顔を上げた先には、いつも通りにニコニコと笑う泉の姿があった。


「お?泣きやんだか?よしよ~し」


 寒さで鼻の頭は真っ赤で、滲をさする手はかじかんでいて冷たい。

 それは泉が、滲が泣きやむまでずっと優しく隣にいてくれた証拠だった。


「すみません泉さん!今すぐ暖かい場所に行きましょう!近くの村にでも…!」

「ふふーん、だいじょ~ぶ!これくらい走ればすぐあったかくなる!だから家に帰ろう!お腹もすいたことだし…」


 泉は腹の虫が鳴ったお腹を押さえる。

 いつも通りの元気な大隊長に、滲は可笑しそうにはにかんだ。


「あ!やっと笑ったな!よかったぞ!」


 滲の笑顔に泉もぱあっと笑顔になる。


 二人は寒空の下、あたたかく笑いあいながら帰路につこうとした。

 が、問題が起きたのはここからである。


「あれ?」


 近くの村までたどり着くと、他の村々までの一本道が、大岩により塞がれていた。


「?」


 泉は振り返って滲に別の道を聞こうとする。

 しかし滲は青い顔して頭を抱え込んでいた。


「泉さん。私とんでもない悲報をお伝えしなければなりません」

「ん?なんだ?」


 悲報という言葉がわかっていない泉は首をきょとんとかしげる。

 そして次の滲の言葉に泉は絶句した。


「大変です。家に帰れません」

「…」


 泉は数秒頭の中で滲の言葉を反芻する。


 帰れない?家に?帰れない…?


 やがて言葉を飲み込んだ瞬間、泉はこの真夜中に目を見開いて叫んだ。


「ええええええええええええええええ!?」


 その絶叫は山に囲まれたこの村全土に響き渡り、泉たちは絶望に打ちひしがれるのだった。

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