遭難
いくつもの村を経由して滲が連れてきたのは、戌地区の何もない荒れ地だった。
山に囲まれた草木は冬の寒さに色を失い、全て枯れている。
ここまでだいぶ獣道を歩いて来たからか、泉の軍服の裾にはひっつき虫がくっついていた。
泉がひっつき虫を取るのに夢中になっていると、滲は近くの木をさすり、目を見開いていた。
「ここだった…」
「ん?」
泉が顔を上げると、滲は頬に一筋の涙を流し、泣いていた。
それに泉はぎょっとする。
「ええええ!?どうした滲!?」
慌てて泉が駆け寄ると、滲はぽろぽろと涙を流しながら、ただひたすらにこうつぶやいていた。
「ここだった…。ここだったんですよ…。ここだったのに…」
どうしてと数回、数十回繰り返す滲は泣き崩れる。
泉もどうしてよいかわからずに、あたふたと泣いている滲の背をさすった。
そして完全に日が落ちて数時間後、滲は少し泣きやんだようにようやく顔を上げた。
「すみません泉さん…。わけわかんないですよ…ね…」
顔を上げた先には、いつも通りにニコニコと笑う泉の姿があった。
「お?泣きやんだか?よしよ~し」
寒さで鼻の頭は真っ赤で、滲をさする手はかじかんでいて冷たい。
それは泉が、滲が泣きやむまでずっと優しく隣にいてくれた証拠だった。
「すみません泉さん!今すぐ暖かい場所に行きましょう!近くの村にでも…!」
「ふふーん、だいじょ~ぶ!これくらい走ればすぐあったかくなる!だから家に帰ろう!お腹もすいたことだし…」
泉は腹の虫が鳴ったお腹を押さえる。
いつも通りの元気な大隊長に、滲は可笑しそうにはにかんだ。
「あ!やっと笑ったな!よかったぞ!」
滲の笑顔に泉もぱあっと笑顔になる。
二人は寒空の下、あたたかく笑いあいながら帰路につこうとした。
が、問題が起きたのはここからである。
「あれ?」
近くの村までたどり着くと、他の村々までの一本道が、大岩により塞がれていた。
「?」
泉は振り返って滲に別の道を聞こうとする。
しかし滲は青い顔して頭を抱え込んでいた。
「泉さん。私とんでもない悲報をお伝えしなければなりません」
「ん?なんだ?」
悲報という言葉がわかっていない泉は首をきょとんとかしげる。
そして次の滲の言葉に泉は絶句した。
「大変です。家に帰れません」
「…」
泉は数秒頭の中で滲の言葉を反芻する。
帰れない?家に?帰れない…?
やがて言葉を飲み込んだ瞬間、泉はこの真夜中に目を見開いて叫んだ。
「ええええええええええええええええ!?」
その絶叫は山に囲まれたこの村全土に響き渡り、泉たちは絶望に打ちひしがれるのだった。




