三番大隊の大隊長
それは突然に起こった。
泉たち一番大隊が吐く息が白くなったことにはしゃいでいた日、駐屯地の廊下から、その息を吹き飛ばすほどの怒号が聞こえてきた。
「馬鹿かお前はあああああ!?」
何事かと思い泉、宇野、榎本、大路が仕事そっちのけで廊下に顔を出すと、そこには長身の男に胸ぐらをつかまれ、へらへら笑っている軍部大臣の姿があった。
「もういっぺん言ってみろよ!」
「だから~、今後の方針について~先輩」
「あ゛あ゛!?」
「ええ!?先生!?」
こっちに来るなんて珍しいと泉は目を丸くする。しかしその声はドスの効いた怒号によってかき消された。
「お前とじゃ話にならない!側近はどうした?」
「菊のこと?あいつは今別の調べ物を…」
「だったら帰れッ!」
「え~」
相当無下に扱われている片目の男を見て、榎本が疑問を投げかける。
「あれって後藤軍部大臣、と?」
首を傾げた榎本に宇野が答える。
「三番大隊の佐々木大隊長だな。ていうか三番大隊ってもう帰って来てたんだ?てっきり毎年、年明けくらいかと思ってたわ」
帝國最大規模の部隊、三番大隊は泉たちとは違い、ほぼ一年中全国の港町を転々とする。
それは海の魔族や諸外国からもたらされる魔術の流入を防ぐためである。
そして例年宇野の言うように、年明けにここ、帝都に返ってくるのだが、今回は違うらしい。
「おや?つまり三番大隊の海辺のレディたちに早く会えるということかい?やったー!ボクちょっと行って…!」
「どこにも行かせませんよ」
「「「「あ…。」」」」
四人がぎくりと後ろを振り返ると、冬より冷たい笑みを浮かべた滲が新たな書類を持って佇んでいた。
「仕事しなさい。さもなくば彼女にすら会えませんよ?」
恐ろしげに微笑む滲に睨まれ、四人は即座に席に戻る。
そして二人が何について争っているかも知らずに、泉たちはいつもの机仕事を行うこととなった。




